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超強火玉の時

「対処法がわかった?」


 たしかにそう耳にした気がするカンノンプラチナである。そう言ったグレンは床に倒れたまま動かない。無防備な姿をさらしている。だというのに、アンバースは微動だにしなかった。


「なにがどうなってるんだ?」

「プラチナ、アタシたちがアンバースにやった攻撃を思い出してみて」

「攻撃って、殴ったり蹴ったり……あっ!」


 プラチナが理由を悟った瞬間、アンバースがプラチナに飛びかかろうとした。それと同時に、プラチナは床に伏せた。


「ァァ…………」


 プラチナが思った通り、アンバースは攻撃せずに止まった。


「つまり、こういうことだろ、グレン!オレたちは、倒れたアンバースに攻撃を加えなかった!だから、アンバースは倒れた相手にどう攻撃していいのか、わからないんだ!」

「そうね、アンタにしてはよく理解できたじゃない」

「バカにすんじゃあねえぜ!」


 床に伏せたままのプラチナは、しかしこれがどうアンバースを攻略することになるのかわからない。


「だけど、グレン!たしかにアンバースは動かないけど、オレたちはこれからどうするんだよ!?まさか倒れたまま戦うのかぁ!?モハメド・アリと戦ったアントニオ猪木みたいによぉ!?」


 かつて、ボクシングヘビー級王者のモハメド・アリと異種格闘技戦を行ったプロレスラー、アントニオ猪木は、仰向けに寝たままローキックを繰り返すという奇策を披露した。アリの強烈なパンチから逃れるためである。だが、その戦術をアンバースに適用するのは無理がある。


「いいえ!そんな事をしたらアンバースが真似をする!お互いに寝ながら蹴りあうことになってしまうわ!」

「なら、どうするんだよ!?このまま、じっと動かないつもりか!?」


 しばし間を開けてからグレンが語りだした。


「アタシは結界使いのアケボノオーシャンとチームを組んで戦っていたわ」

「は?いきなり、なんの話だ?」

「ま、聞きなさいよ」


 プラチナにとっては脈絡のない自分語りに聞こえたが、グレンはかまわず続けた。


「オーシャンが結界を張って、人間と悪魔を隔離して、そしてアタシが焼き尽くす。そういう手段で戦ってきた」

「それで?」

「つまり、アタシにとって最大の攻撃というのはオーシャンの結界が耐えられる限界だった。それに、強力な魔法であるほど、力を溜めるのに時間がかかる。結局のところ、オーシャンの結界が壊れるほどの魔法は、出すまでの隙が大きすぎて実用的ではなかったわ」

「……つまり、こういうことか?」


 プラチナはグレンを代弁してみる。


「出すのにすごい時間がかかる必殺技を、今なら使える。それでアンバースを仕留めるわけだ」


 たしかに、今なら魔力を溜める時間が確保できる。グレンは返事をするかわりに、両手を胸の前で向かい合わせた。徐々に力が両手の間に集まっていくのが、プラチナにもわかった。


「あっ!」


 プラチナが視線を向けると、アンバースがプラチナと同じポーズをとり、しかも魔力を両手に集中させていた。さっそくグレンの魔法を模倣しようとしているのだ。


「野郎!」

「大丈夫よ、プラチナ!大丈夫だから」


 倒れていたグレンの体がふわりと浮かび、同じポーズでアンバースと対峙する。グレンの両手の間には火球が浮かんでいた。そして、アンバースの両手の間にも、同じように火球が浮かんでいる。


「このままだと相打ちになるぜ!」

「いいえ!そうはならない!」


 グレンはさらに、両手に魔力を注ぎ込んでいく。火球は温度を上げ、光を増していく。傍目にも、危険な領域へ入りつつあるある。


「やめろ、グレン!それ以上力を溜めるとお前の体がもたないぞ!」

「ええ、そうね!だけど、それでいいのよ!アンバースを見てみなさい!」

「えっ?」


 アンバースもまたグレンと同じように火球に力を集中させていく。だが、そのエネルギーが強まるほど、アンバースはなにやら身悶えを始めた。


(アンバースの奴……火球の温度に体が耐えられなくなってきてるんだ!)

「はあああっ!」


 グレンは気合を入れて、さらに火球へ力を集中させる。この領域ではグレンの体でさえ自傷は避けられない。ましてや、炎の魔法使いではないアンバースにはなおさらだった。


「バァアアアアアッ!!」


 やがてアンバースが構えていた火球が破裂した。アンバースの両手が熱に耐えきれず、破裂したのだ。もはや、アンバースがグレンの魔法を模倣することはできない。プラチナが喝采をあげた。


「やった!グレン!今だ!やっちまえ!」

「おう!」


「アッ……!」


 グレンたちにはアンバースの表情など理解できなかったが、初めて恐怖を知ったのではないかと感じた。その証拠とばかりに、アケボノオーシャンから模倣した、青く光る結界がアンバースを守るように生じる。


「結界が出た!」

「大丈夫よ」


 グレンは、手にした火球のエネルギーの一部を弾丸のように射出した。炎の弾丸は結界を貫通し、アンバースの胸に着弾する。


「アアア!?」


 アンバースの胸から火花が弾けた。グレンは、さらに続けて炎の弾丸を飛ばす。結界が完全に砕け、同じ箇所を撃たれたアンバースが熱さに悶絶する。


 グレンバーンが火球をドッジボールを投げるようにして構えた。


「これでトドメよ!くらいなさい!スーパー強火玉!!」

「ッッッ!!」


 その瞬間、プラチナには周りの景色がゆっくりと静止していくことに気がついた。


「あっ!?アンバースが!!」


 自身も時間停止を司る魔法少女であるカンノンプラチナは気づいたのだ。アンバースが時を止めて逃げようとしていることに。

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