スーパーコンビの時
ムラサメツグミとアケボノオーシャンは倒されてしまった。オウゴンサンデーもまた、気を失ったままである。暴走する悲しき怪物、アンバースに立ち向かえるのはグレンバーンとカンノンプラチナだけだ。
先攻したのはグレンだった。今は、もはや動きを模倣されるのを気にしている場合ではない。
「おらあっ!!」
グレンの右拳が怪物の頬を打つ。が、アンバースはそれに耐え、グレンに拳を打ち返した。
「バアッ!」
「くっ!」
グレンもまたそれを防御し、数歩後退する。アンバースからは、先ほどまえあった打たれ弱さが消えていた。しかも、それだけではない。
「アーッ!」
アンバースは続けて、下段回し蹴りからの飛び膝蹴りをグレンに放った。下段回し蹴りはグレンの。そして、飛び膝蹴りはプラチナの十八番である。
「ちっ!」
それらを防御しながら、グレンは後退するしかなかった。ただ攻撃を模倣するだけでなく、それらを自在に組み合わせる能力が、アンバースに備わったらしい。それは同時に、アンバースは意図してこちらを襲っているということでもある。
「厄介な相手になったわね!」
「オレがやる!おりゃあ!!」
今度はプラチナが飛び膝蹴りをアンバースへ見舞うが、アンバースはそれを防御し、回し蹴りを返した。
「いたっ!?」
「うかつよ、プラチナ!」
「お前がアンバースに防御を教えたのが悪いんだろ!」
「人のせいにしてるんじゃないわよ!」
「うわ!また来るぞ!」
「バババ!」
アンバースはプラチナに正拳のラッシュを放つ。いくつかは上体を反らしてかわしたプラチナであったが、最後の一発だけはかわしきれず、胴に直撃した。
「ぐえっ!」
その時である。
「おら!!」
グレンの飛び足刀蹴りが側面からアンバースを襲った。首筋を強く蹴られたアンバースは、たまらずに倒れこんだ。
「やったか!?」
「手ごたえはあったけれど……でも、まだよ!」
アンバースは首を抑えながら立ちあがろうとしている。ここでグレンはある事に気がついた。
「どうして、こんな簡単な事に今まで気づかなかったのかしら!?」
「どうした、グレン?」
「敵は一人で、アタシたちは二人いるわ!」
「…………は?」
プラチナには意味がわからなかった。そんなことは当たり前である。
「だったら何だっていうんだよ!?」
「バカね、プラチナ。わからないの?」
「オレのこと、バカって言ったな!」
「さっき、アタシの蹴りが当たったでしょ」
「……当たったな」
プラチナにはまだ意味がわからない。グレンの蹴りが当たったのは、ただの偶然ではないのか。
「アタシが行くわ!」
グレンは当惑しているプラチナをよそに、アンバースへ向けて構える。
「アタシが合図したら、今度はアンタが攻撃するのよ!いいわね?」
「お、おう!」
グレンはアンバースに突撃し、相互に拳足の応酬を始めた。一進一退のようでありながら、学習を続けるアンバースが徐々にグレンを押していく。
アンバースが体を反転させ、後ろ回し蹴りの体勢をとった瞬間、グレンが叫んだ。
「やれーっ!!」
「はあああっ!!」
グレンの頭部にアンバースの後ろ回し蹴りが直撃する。当然グレンは転倒したが、そのアンバースへ向けてプラチナが跳んでいた。飛び膝蹴り。今度のそれは、無防備なアンバースへ直撃した。
「ブゥアアーッ!!」
アンバースは悲鳴をあげて倒れこんだ。プラチナが思わずガッツポーズをとる。
「そうか!そういうことか!わかったぜ、グレン!」
「やれやれ。やっと気づいたのね」
グレンは蹴られた頭を抑えながら立ち上がった。今となっては、それが必要な犠牲であるとプラチナにもわかっている。
「あいつは一人きりだから、一人相手にしか攻撃する方法を知らないんだ!それに、どう頑張っても、誰かを攻撃している瞬間は隙だらけだ!オレたちのどちらかが攻撃を受けている時に、もう片方がアンバースを叩けばいい!」
「そういうことよ、プラチナ!さあ、気合いを入れましょ!コイツをアタシたちで倒すのよ!」
「おう!」
二人は息を合わせてアンバースに向かった。プラチナが攻撃を受けた瞬間、グレンもまた拳をアンバースへ叩き込んだ。グレンが殴られる時は、プラチナの肘がアンバースのこめかみを打つ。殴られながら、殴り続ける。そのたびに、アンバースは悲鳴をあげた。
「バァアアアーッ!?」
だが、先に音をあげたのはカンノンプラチナであった。
「ま、ちょっ、待てよ、グレン!」
顔が痛々しく腫れている。
「たしかにアンバースへ攻撃は当たっている。当たってはいるけど、オレたちだって、このままじゃあもたないぜ!オレたちは魔法少女だ!打たれ強さには限界がある!筋肉モリモリのスーパーマッチョマンじゃあないんだから、先にオレたちの方が倒されちまうぞ!」
そう言われたグレンの方も、顔がパンパンに腫れていた。自分のダメージを勘案すれば、プラチナが言うことはもっともだと、グレンも認めざるを得ない。
「だけど、アタシたち、どうすれば……!?」
グレンは倒れたままのムラサメツグミを見た。ヒーラーである彼女を先に倒されてしまったのは痛かったとグレンは思う。だが、ここでふと疑問がよぎった。
(ムラサメちゃんが倒された……だけど、彼女はまだトドメをさされていない……?)
「バーッ!」
アンバースのショルダータックルである。グレンとプラチナは、それぞれ左右に飛び退いて難を逃れた。アンバースは勢いそのまま、壁を突き破って別の空間へ飛び出す。
「な、なんだ!?UFOの格納庫か!?」
その広い空間には巨大な円盤状のオブジェが並んでいた。プラチナが言った通り、人間が乗って飛行できる物体なのかもしれない。
グレンはUFOには構わず、破れた壁に向かって光る手を向けた。回復魔法である。壁を修復して、ひとまずアンバースを隔離しようと思ったのだ。
「バア!」
「うっ!?」
だがグレンの回復魔法では、壁を瞬時に直すことはできなかった。壁にあいた穴からアンバースの腕が伸び、グレンの首を掴む。そのままUFOの格納庫へ引きずりこまれるのを、プラチナはただ見ることしかできなかった。
「グレン!!」
プラチナが慌てて格納庫へ突入する。グレンはそのままアンバースに放り投げられたらしく、床に大の字に倒れていた。
「グレン!大丈夫なのか!?」
「……ええ、大丈夫よ」
プラチナは倒れたままのグレンを見る。次に、動かないアンバースを見た。プラチナはその様子に違和感をおぼえたが、その理由がわからない。だが、グレンは違う。
「プラチナ。もしかしたら、わかったかもしれないわ。コイツの対処法が」




