アンハッピーアンバースデイ③
アンバースとグレンバーンは一進一退の攻防を続けていた。グレンが正拳を放てば、アンバースも正拳を返す。グレンが怪人の回し蹴りを防御すれば、アンバースもまた同じようにグレンの回し蹴りを受け止めた。
(何か、おかしい)
とグレンは思った。もしかしたら、目の前のバッタ怪人は自分の動きを模倣しているのではないか。事実、怪人の空手の動きはグレンのそれと酷似している。思い返してみれば、オウゴンサンデーを倒した攻撃は、サンデーが怪人を倒そうとした時の動きと全く同じであった。
(もっと早く気がつけばよかった!)
グレンは後悔した。これでは、みすみす自分で敵を強くしてしまったようなものだ。
「……」
グレンは思い切って、攻撃をやめてみた。そして、目を閉じた。
「……」
「……」
想像通り、バッタ怪人の攻撃がストップする。
(なるほど、簡単ね)
安心したグレンはゆっくりと目を開けた。が、視界いっぱいに広がったのは、緑色の拳であった。
「バアッ!」
「うっ!?」
正拳突きをもろに顔面へ受けたグレンがふらつく。
「ぜんぜん簡単じゃあない!」
アンバースにとって、それが知っている唯一のコミュニケーションなのだから仕方がない。ディスコミュニケーションの原因は、この場合、二人の魔法少女側にある。
(どうするべきかしら!?)
このまま戦い続ければ、負けないにしても、怪人を成長させ続けることになる。先ほどの実験結果を考えれば、戦いは避けられそうにない。逃げるか。
(ダメ!オウゴンサンデーを置いてはいけない!)
サンデーは今なお、バッタ怪人の攻撃によって昏倒したままであった。
(最大の攻撃で倒しきるかしら!)
それも、分の悪い賭けである。もしも怪人を倒しきれなかった場合、次は自分が同じ攻撃を受けるのだ。
グレンが思案する間も、バッタ怪人は距離を詰めてくる。
「バァ!」
「ちっ!」
グレンは右手を開き、突進するアンバースへ向けた。その右手には、淡い光が輝いている。
「バ……ァァ……」
アンバースもまた、自身の右手をグレンに向けた。その手に輝くのも、同じ光。回復魔法の光である。
(予想通り、こいつは魔法も模倣してくるのね!)
アンバースはグレンの真似をして、回復魔法を出し続けた。お互いのダメージが回復するということは、ここは仕切り直しにした方が良いだろう。特に、アンバースの気が変わり、再び憶えたばかりの空手を使いだす前に。
(今のうちに、サンデーを回収して、ここから離れないと……!)
とその時、突如何者かがアンバースの背後へ迫った。
「オレ!参上!」
「カンノンプラチナ!?」
「せりゃああっ!!」
カンノンプラチナがアンバースの後頭部へ目がけて飛び膝蹴りを放った。
「バァア!?」
アンバースは勢いそのまま吹き飛ばされてうつ伏せに転倒した。プラチナは得意そうだ。
「なんだ?アンバースの奴、たいしたことはないじゃないか!」
「こら!プラチナ!」
そう叫ぶグレンにプラチナが鼻を鳴らす。
「ふん!勘違いするなよ、グレンバーン!オレはお前を助けに来たわけじゃない!お前を倒すのは、このオレだからな!」
「なに余計なことしてんのよ!」
「ああ!?助けてもらっておきながら、何が余計なことだガハッ!?」
プラチナの体が吹き飛ばされた。いつの間にか立ち上がったアンバースが、側面から飛び膝蹴りを浴びせたからだ。
「や、やろう!さっきは簡単に倒せたのに、弱っちいフリをしていたんだな!」
「バカ!やめなさい!」
グレンの叫びもむなしく、プラチナはアンバースと一進一退の攻防を開始した。言うまでもなく、アンバースはカンノンプラチナの戦闘スタイルを模倣していく。
が、プラチナはまだそれに気づいていない。
「なら、とっておきだ!時間よ、止まれ!!」
カンノンプラチナの周囲の時間が、徐々に遅くなっていく。グレンが何かを叫びつつあったが、プラチナの知ったことではなかった。
「コテンパンにしてやるぜ!うおおお!!」
当然、アンバースも動けないとプラチナは思ったのだ。だが、アンバースは停止した時間の中で、プラチナの突きを手で受け止めた。
「なにぃ!?」
「バッ!」
「ぐあっ!?」
反撃の後ろ回し蹴りがプラチナを吹き飛ばす。グレンが再びプラチナを見た時、彼女は床に転がっていた。時が再び動きだしたのだ。
「バカな!?アイツ、停止した時間の中で動きやがった。オレと同じ魔法が使えるのか!?」
「だから、ソイツに攻撃してはいけないのよ!全てコピーされて……!」
「それに、なんて鋭い後ろ回し蹴りだ!まだクラクラするぜ!」
「…………」
「グレン!なんで得意そうな顔をしているんだ!?」
後ろ回し蹴りをアンバースに憶えさせたのはグレンバーンである。
「とにかく!これ以上は攻撃したらダメよ!今に手に負えなくなるわ!」
「こっちの魔法やら格闘技をコピーしてくるんだろ!?でも、だったらどうすりゃあいいんだよーっ!?」
「バアーッ!」
手をこまねいている二人の閃光少女に、アンバースはかまわず襲いかかった。




