アンハッピーアンバースデイ②
並の成人男性を優に超える体格を誇る、バッタの怪人なのである。
アンバースとは何者なのか?
そもそも、その怪生物がアンバースと呼称されている事さえ知らないグレンとサンデーなのだ。
「バァ……」
「ねぇ、サンデー」
怪人と対峙するグレンが尋ねる。
「この人は誰?」
本当は「これは何?」と聞きたいところだが、グレンは一応、礼儀を守った。だが、サンデーからの返答はない。
(えっ!)
気がつくとサンデーは、怪人の背後に回っていた。時間停止である。ということは、やる気なのだ。
「サンデー!」
「先手必勝!何者か知りませんが、後顧の憂いは断つべきです!」
怪人が振り向く前に、サンデーによる延髄への手刀が決まった。サンデーは反撃を予期し、すぐさま距離をとる。
だが、怪人はいとも簡単に、よろよろとその場に膝をついた。
「えっ?」
「あまりにも呆気ないですね」
サンデーは、この怪人は神が放った刺客なのではないかと思ったのだ。しかし、弱い。神がこんなモノを差し向けるだろうかと、サンデーでさえ疑問に思ったほどだ。
「バ、バ、バ……」
アンバースは、立ちくらみでもしたように、ゆっくりと立ち上がる。グレンには、その様子がどこか哀れにも見えた。
「今のうちに行きましょう、サンデー」
「いえ、むしろ今のうちにしっかりトドメを……」
そうサンデーが言いかけたところで、突如アンバースの姿が消えた。少なくとも、グレンにはそう見えたのだ。
「いない!」
「違います!こいつ、時間を止めて……!」
「バアッ!」
怪人は、いつの間にかサンデーの背後に回っていた。奇怪な叫びと同時に、アンバースの手刀がサンデーの後頭部を打つ。たちまち、サンデーはその場に昏倒した。
「サンデー!くっ……コイツ!」
サンデーはたしかに言った。怪人が時間を止めた、と。であるならば、容易ならざる相手という他ない。
(連続して時間停止はできないはず!)
となると、今すぐ攻撃をたたみかけるのがベストだ。
「おらあっ!!」
グレンは、炎をまとった正拳突きを、怪人のみぞおちへ叩き込んだ。崩れる怪人に向けて、グレンが身を回転させる。
「はあああっ!!」
後ろ回し蹴りが怪人の身を吹き飛ばした。攻撃を命中させたグレンは、疑問をぬぐえない。
(やっぱり、コイツ弱いわ?サンデーがどうしてこんなヤツに……!?)
そう思ったのも束の間、怪人はすぐに立ち上がり、今度は自分から攻撃をしかける。
「バッ!」
「うっ!?」
鋭い後ろ回し蹴りであった。グレンは上体を反らして、かろうじて躱した。
(コイツ!空手の心得があるのね!さっきまでのは弱いフリってこと!?)
「バッ!バッ!バァッ!」
アンバースは何度も、後ろ回し蹴りを繰り返した。当初は防御にまわっていたグレンも、やがて自分のペースを取り戻す。
「攻撃が単調すぎるわね!それではアタシを倒せないわよ!」
グレンバーンは、自身の格闘スキルを全て発揮し、バッタ怪人を迎え撃つことにした。
その様子を監視カメラ越しにジッと見ていたのは三人。
叫んだのはカンノンプラチナであった。
「グレンを見つけた!それに、サンデーさんもだ!」
「なんだって?それは本当かい?」
西ジュンコも、プラチナのタブレット画面を覗き込む。タイミングとしては、ちょうどツグミをグレンが見送った直後であった。というより、ツグミが回復魔法を使ったことで、故障したカメラが直ったからこそ、プラチナがグレンたちを捕捉できたのである。
「さあ今に見ていろ!サンデーさんがグレンをぶちのめして……!」
「二人は談笑しているようだが?」
「えっ」
プラチナは目を疑ったが、たしかにそのように見えた。ジュンコからしても不思議な絵だが、もっと面白くないのはカンノンプラチナである。
「なんだよぉ〜!なんで敵同士なのに仲良くやってんですかサンデーさ〜ん!?」
が、すぐにそれどころではなくなった。アンバースが画面に映り、そしてオウゴンサンデーを倒してしまったのだ。
「ああっ!そんなぁ!?サンデーさんが!」
「プラチナ君、我々もここに行ってみようじゃないか」
ジュンコはそう提案し、イズィーを見る。
「君はどうする?」
「…………」
かわりに答えたのはプラチナだ。
「相手は怪物だぜ!おっちゃんがついてきても、かえって足手まといになるぜ」
「ああ。俺も気がすすまないところだったんだ」
イズィーが二人のタブレットを操作する。
「これでタブレット同士が通信できる。君たちを音声で案内するよ」
「サンキュー!おっちゃん!」
「まずは部屋を出て、すぐに右だ」
プラチナとジュンコは、すぐさま部屋を後にした。手に持ったタブレットから、イズィーの声が響く。
『廊下の突き当たりに階段がある。そこから下の階まで降りていくんだ』
プラチナとジュンコの二人は、イズィーの指示に従いながら現場へ急いだ。




