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突きの嵐の時

 シャワー付きのバスタブのような、お粗末な噴水。オウゴンサンデーにとって、それはグレンバーンの()()に恰好のアイテムであった。


「おらああっ!!」


 グレンは絶叫とともに拳を突き上げ、噴水を粉砕した。だが、水しぶきばかりは、どうしようもない。全身を水で濡らしたグレンには、先ほどのような分身戦術は使えなくなった。


「いざ!」


 サンデーは、雷撃を放つ弓を取り出す。電気と水の相性はバツグンなのだ。水に濡れたグレンにその矢は避けようがなく、導電率の上昇により、一撃で倒せる可能性もある。


 だが、それはグレンも承知である。


「おおおおお!!」


 距離をとられると負ける。そう確信したグレンがサンデーに突進した。もはや格闘技がどうこうではない。もつれるようにしてグレンとサンデーの体が重なり、倒れた。


「せあっ!!」


 グレンの下敷きになりながらも、果敢に拳を突き出したのはサンデーだ。しかしグレンの方は拳を顔に直に受けるがまま、何かをまさぐっている。


 サンデーの弓である。その弓の幹を無造作に掴んだグレンが、握力に任せてへし折った。これで雷の矢は使えない。戦術的には正しい。だがそれが逆にサンデーの逆鱗に触れる。


「私を見なさい!!」


 サンデーはたくみに、グレンの体のバランスを崩しながら、逆にグレンの上へと覆い被さる。


(この寝技の動き……ツグミちゃんにそっくり!)

「わあああああ!!」


 だが追撃に冷静さが欠けていた。まるで子どもが駄々をこねるように、サンデーは握り拳をグレン目がけて落とす。


「ぅらあっ!!」


 グレンは自分とサンデーの腹の間に足を差し込むと、サンデーを蹴り飛ばした。サンデーの体が数メートルほど転がる。ヘッドスプリングで立ち上がったグレンには、まだ余裕があった。


 しかし、サンデーは違う。余裕など無い。


(次が最後の時間停止になる……!!)


 それ以上は肉体が保たないと、サンデー自身の本能が告げているのだ。だが、同時に闘争本能が、遮二無二サンデーの脚を走らせる。


「時よ!!止まれ!!」


 牙を剥くグレンの動きがスローモーションとなり、やがて止まった。サンデーは両拳をグレンの胴へ叩き込んだ。


「せりゃあああっ!!」


 そして時は動き出す。


「ぎはっ……!?」


 グレンは口から嘔吐しながら膝をついた。だがそれもつかの間であった。


「けやあああっ!!」

「!?」


 人とも思えぬ絶叫と同時に、グレンの回し蹴りが再びサンデーを地にまみれさせる。


「バカな……私の攻撃は急所を突いたはず……!!」

「攻撃が来るとわかってさえいれば、覚悟して耐えられるのよ……」


 とここで、グレンがサンデーに手を差し出す。それは、憐れみなどではない。決着のための動作だ。


「さあ、息を整えて。立ちなさい、サンデー!最後はお互いの拳だけで勝負よ!」

「……願ってもないことです!」


 立ち上がったサンデーは、ゆっくりと自身の手を、突き出したグレンの手と交差させた。二人の魔法少女は、時が止まったかのように、しばらくの間静止し続ける。まるでカンフー映画のワンシーンのようだ。


 次の瞬間、凶暴な力で放たれる拳と拳が、古代遺跡のイミテーションを震わせた。


「おらおらおらおらっ!!」

「せいやあああああっ!!」


 お互いの正拳が弾き、ぶつかり、敵を打つ。嵐のような突きの速さ比べは、徐々にサンデーがグレンを上回り始めた。厳しい鍛錬の積み重ねを、どちらも欠かせたことはない。だが、サンデーには一日の長がある。


(負ける!アタシが!?)


 そう思ったグレンの脳裏にトコヤミサイレンスの姿が浮かんだ。同時に、グレンの拳が変わった事をサンデーは悟った。


(拳が縦拳突きに!?)


「うりゃああああああああ!!」


 グレンのパワーとトコヤミのスピードを兼ね備えた突きが炸裂した。サンデーは、それに追いつけない。しかし、拳の濁流に呑まれながらも、サンデーは満足していた。


(やりますね、グレンバーン……やはり私が見込んだ…………)


 グレンは、自分の拳が空を切り続けていたことに、気づくのに時間を要した。体中を濡らしているのは、もはや噴水ではなく、グレン自身が流した汗がほとんどだ。視界も、真っ赤に染まっている。


 やがて十分な視力を回復したグレンが目にしたのは、地面にうつ伏せに倒れ、動かなくなったオウゴンサンデーであった。


「勝った……オウゴンサンデーに…………!」


 今まで抑えられていたかのような体の震えがグレンを包みこんでいく。やがてグレンは、野獣のような咆哮をもって勝鬨とした。


「うおおああああああああああああああああああ!!るぅああああああああああ!!」



「ええ、はい」


 その様子を見つめていたアンヘルが、スマホを用いて報告をする。


「勝ったのはグレンバーンです。あなた様の予想通り……はい……オウゴンサンデーは、まもなく死ぬでしょう…… 全ては神の思し召し通りに」


 オウゴンサンデーは死ぬしかないとアンヘルは思った。見たところ、瀕死の重症である。そして、アンヘルが知る限り、グレンバーンには回復魔法は使えないはずだった。

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