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炎対雷の時

 ムラサメツグミとアケボノオーシャンが天使から逃げている最中。


 一方のオウゴンサンデーは、天使に案内され、とある場所を目指していた。そこには、サンデーとの戦いを決意した、グレンバーンが手ぐすね引いて待っているはずだ。


「では、こちらへ」


 天使アンヘルがそう手で示したのは、人間一人よりも少し大きいくらいの、円柱形の物体である。周囲は、透明な壁になっている。透明な壁の一部が展開した。どうやら、この中に入れという意味らしい。


「グレンバーンを倒した後は、あなたの番です」


 アンヘルによって、自分の国に住んでいた魔法少女たちを虐殺されたことを、忘れるサンデーではない。当のアンヘルは、笑みを浮かべながら慇懃に頭を下げた。


「どうぞ、ご武運を」


 サンデーには、天使の言葉が嫌味にしか聞こえなかった。


 サンデーが円柱に入ると、透明な壁が閉じ、そのまま上へ上へと登っていった。どうやら、これはエレベーターの一種らしい。いくつもの階層を通り過ぎ、ついにエレベーターが止まった。


「ここは……?」


 サンデーが降りた場所。そこはまるで、一面が石灰岩のように白く、広い空間であった。特に目を引くのが、古代ギリシャの遺跡を思わせる、石柱がいくつも立っていることである。サンデーは歩いて、周囲をよく観察した。石柱の他にも、広場や、噴水。城壁や見張り台まである。そのどれもが、白い石造りのものであった。まるで白塗りにされた、古代の遺跡。だが、サンデーがつま先で軽く蹴ると、噴水が水面を揺らしながら土台ごと動いた。サンデーはあきれた。


(荘厳なのは表面だけ。所詮は、セットですか。神もお粗末なものですね)



「待っていたわ、オウゴンサンデー!」


 まるでサンデーが周囲の確認を終わらせるのを見計らったかのように、グレンバーンの声が響いた。


 グレンは、パルテノン神殿を彷彿とさせる、石柱が乱立するエリアに立っていた。腕組みをし、サンデーを睨みつけるその目には、純粋な闘志が燃えている。


 自分も同じような目をしているのだろうな、と思うサンデーもまた、体に熱を帯びるのを感じていた。


「皮肉なものですね、グレンバーン。神に仕えていたはずの私が神と敵対し……」

「神と敵対していたはずのアタシが、今は神に仕えている……アタシが羨ましいと思う?オウゴンサンデー」

「いいえ、むしろ気の毒に思いますよ。いずれ神に裏切られるとも知らずに」

「アタシはアンタとは違うわ。アンタは急ぎ過ぎたのよ。だから神の怒りに触れた!」

「それが神の嘘であるともわからないとは……!」


 次の瞬間、サンデーの姿がグレンの視界から消えた。もちろん、何が起きたのかグレンにはわかっている。


(時間停止!)


 すぐさま振り向くグレンの顔を、サンデーの右正拳突きが襲う。


「くっ……!!」


 グレンには、避けようがなかった。首ごと吹き飛ぶようにして、グレンの体が石柱の側に転がった。


「卑怯だと、思いますか?」


 卑怯とは、言わない。それがオウゴンサンデーの使える魔法なのだから。グレンバーンは、自分の魔法を駆使するまでだ。


「いいえ、ちっとも」


 すぐさま立ち上がったグレンの体が炎に包まれていく。


(体全体を炎に包む……それで私の時間停止に対処できると思っているのなら、甘いですよグレンバーン!)


 サンデーは追撃を仕掛けるべく、グレンに駆け寄る。が、すぐにその足が止まった。


 グレンの体が、二人に分身したからだ。炎に包まれた少女のシルエットが二体、鏡合わせのように仁王立ちをする。


(なるほど。よく考えたようですね、グレンバーン!)


 分身の正体は、炎の塊なのであろう。


 いくらサンデーが時間を止められると言っても、その時間は長くても10秒未満なのだ。分身したグレンバーンを、二体同時に仕留める余裕はない。もしも分身の方を攻撃すれば、すぐさま本体がサンデーを襲うだろう。


「グレンバーン!」


 サンデーは弓を構え、雷の矢を撃つ。狙われた方のグレンが、すぐさま石柱の影へ身をかわした。


「サンデー!!」


 残った方のグレンが、火の玉のストレートをサンデーに投げつけた。サンデーもまた、かろうじてそれをかわしながら次の矢をつがえる。石造りの遺跡の中で、しばし雷と炎の応酬が続いた。


 だが一見互角の戦いに、徐々に変化が現れる。サンデーが押され始めたのだ。分身している分だけ、グレンの方が手数に勝るからだ。もちろん、その分グレンの方がスタミナ消費が激しいはずである。しかし実際には、肩で息をし始めたのはサンデーの方だった。


「ちっ!体さえ万全であれば……!」


 サンデーはたまらず、城壁に身を隠した。


 二体のグレンは、挟撃のため左右から城壁の影に飛び込んでいく。しかし、そこにサンデーの姿は無かった。


「……隠れたわね」


 どうやら、時を止めて、どこかへ潜んだらしい。隙を見て、奇襲するつもりなのだろうと、グレンは考える。


「どこからでも、かかってきなさい!」


 グレンは分身を解除した。そのかわりに、グレンの側に炎でできた矢印が浮かぶ。


 人間は、呼吸をしている。酸素を取り込み、二酸化炭素を排出するためだ。それはある意味で、燃焼とよく似ている。グレンが浮かべた炎の矢印は、いわば呼吸探知器だ。姿が見えずとも、炎の探知器が二酸化炭素に反応し、呼吸する存在を見つけだす。


 おそらく、勝負は一瞬で決まるとグレンは思う。時間停止にはクールタイムが必要であると、サンデーの弟子であるカンノンプラチナから聞いていた。身を潜めるために時間停止を使ったため、今すぐには時間停止はできないはずだ。その間にグレンがサンデーを見つけ出せば、グレンが勝つ。逆に時間停止を再び許せば、サンデーの逆襲が待っている。


 炎の矢印が、瞬時に上を向いた。どうやら、サンデーの時間停止を許してしまったらしい。だが炎の矢印のおかげで迎撃が間に合う。そう判断したグレンであったが、見上げると同時に息をのんだ。


「噴水です!!」


 なみなみと水をたたえた石造りの噴水が、土台ごとサンデーに持ち上げられ、上空からグレンへと叩きつけられた。

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