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エンジニアの時

 ふと背後に振り返ったカンノンプラチナは驚いた。


「うおっ!?危ね!」


 廊下に亀裂が入り、幅数十センチの大穴が開いているのである。それは、プラチナには知る由も無いが、潜空艦が体当たりした際にできたものだ。穴は暗く、どこまでも奈落へ続いているようにも見える。


「だから、そう言ったんだニャン」


 とノラミケ。先ほどまでの暗闇の中。夜目が効くこの姿で、彼女はプラチナが穴に落ちるのを防ごうとしていたのだ。それは一応は単なる親切であるが、ノラミケにはプラチナに興味を覚えた理由がある。


「さっき、あなたが言ってたグレンって、グレンバーンのことかニャン?」

「え、ああ、そうだけど……ノラミケホッパーだっけ?聞いてくれよ〜」


 プラチナは、ここに来るまでの経緯をノラミケに語りだした。神と魔法少女の国。オウゴンサンデーとグレンバーン。そして、天使と糸井アヤ。


「うんニャ。うんニャ」


 そう相槌をうつノラミケ、つまり、村雨ツグミにとってもグレンの行動に興味がある。というより、プラチナは知らないが、グレンとツグミは、糸井アヤを取り戻すために、共に行動している友人だ。


「ところで、あんたは何者なんだ?魔法少女の国では、あんたを見かけた覚えは無いが」

「通りすがりの魔法少女だニャン。覚えておくニャン」

「お、おう……」


 ツグミは自分の事情を伏せておくことにした。オウゴンサンデーの弟子を自称するカンノンプラチナに、村雨ツグミであると自己紹介するのは、トラブルの種にしかならないからだ。この場合、文字通り猫をかぶり続けるのが賢明だ。


「オウゴンサンデーはここに来てるのニャン?」

「わからねー。でも、弟子であるオレや、裏切り者のグレンを捨て置くサンデーさんじゃないぜ」

「ふーん、ニャ」


 であれば、ツグミがプラチナを積極的に攻撃する理由はない。また、あえてプラチナをアンヘルに差し出す理由も、ツグミには無かった。


「あんたは、この場所に詳しいのか?」

「いいえ、ニャン」


 そもそもツグミは、天使アンヘルの案内でこの場所に着いたばかりだった。が、急な衝撃と停電。気がつけば、そばにいたはずのアンヘルの姿が消えてしまったのである。


 要するに、この魔法少女たちは二人とも迷子なのだ。


「大声で呼んだらアンヘルさんが来るかニャン?」

「そんな事されたら、オレが困るぜ!?脱獄中なんだから!」

「だけど私だって、ここについては何も知らないニャン」

「そっかー。どっかに居ねーかなー。アンヘル以外にこの場所に詳しい誰かがなー?」


「呼んだ?」

「「うわあっ!?」」


 突如現れた男性に、プラチナたちは悲鳴をあげた。見ると、廊下の穴から、使い込まれた作業服を来た男性が這い出して来ている。よく日焼けした顔に、立派な髭を蓄えた男性は、アラブ人か、ラテン系のようにも見える。


 そんな男が流暢な日本語で話しながら、ノートのような物をプラチナに差し出した。


「5番プラグとヒューズの交換、それと耐圧扉の気密だけは応急処置をしておきました。では、こちらにサインを……」

「ちょ、待てよ。なんなんだ、あんた、一体?」

「?」


 むしろ男性の方が意外そうな顔でプラチナを覗き込む。やがて男は驚きの声をあげた。


「おう!なんてこった!この中でアンヘル以外の人に会うなんて!」


 そう言われてもプラチナは何と答えてよいやら、わからない。横からツグミが男に声をかけた。


「あの、すみません。あなたは誰なのですかニャン?」

「イズィーだ」


 男はそう名乗った。


「アンヘルに頼まれて、ここの修理やらメンテナンスをしているエンジニアだよ。ところで、君たちは?」

「私たちは魔法少女で……魔法少女ってわかりますかニャン?そっちはカンノンプラチナで、私はノラミケホッパーだニャン」

「魔法少女!もちろん知っているよ」


 イズィーは愛想の良い笑顔を少女たちに向ける。


「人類の自由のために戦う戦士だろ!アンヘルから下界の事は聞いているよ」

「あなたは下界の人ニャの?」

「ああ、元々は」

「ここについては詳しいニャ?」

「ずっとここに住んでいるんだ。自分の庭みたいなものさ」


 ツグミとプラチナは顔を突き合わせた。自称この場所のエンジニアであるイズィーなら、道案内を頼むのにうってつけだろう。


「よかったね、カンノンプラチナ。この人に聞けば、大丈夫だニャン」

「そうみたいだな」

「それじゃあ、さよならニャン」

「えっ!?」


 プラチナが意外そうな顔をする。


「ノラミケ!どこに行くつもりなんだ!?」

「アンヘルを探しに行くニャン。だって、私はもともとアンヘルと一緒にいたし」

「オレはアンヘルから逃げてるんだぜ!」

「だから別行動にしようだニャン」

「ええー……」


 ノラミケこと、ツグミの言い分も、もっともなのである。プラチナと出会ったのは偶然以上の意味はなく、あえて行動を共にする理由はない。だが、孤立無援のカンノンプラチナにとっては、このどこか愛らしい猫かぶり少女が、同じ魔法少女というだけに名残惜しい気持ちを捨てきれない。


(意外と人懐っこい人なんだニャー)


 そんなプラチナに助け舟を出したのは、意外にもイズィーであった。


「ノーノーノー!やめときなよ、アンヘルを探すなんて」

「はいニャ?」

「何を言われたのか知らないが、アイツは嘘つきなんだ。相談なら俺が乗るから、何でも言ってくれよ。ところで……」


 イズィーは先ほどから気になっていた事をノラミケホッパーに尋ねた。


「なんで語尾にニャンを付けるの?何か理由が?」

「いや、べつに……」

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