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カンノンプラチナと見つめるニャンコアイの時

「オウゴンサンデー、やはり来たわね」


 グレンバーンの第一声である。サンデーは、グレンが無事である事に、安心していいのか。あるいは、怒りを覚えるべきなのか、わからなかった。


 だがハッキリしていることがある。神はサンデーを見捨て、グレンバーンを選んだ。その結果、魔法少女の国は滅んだ。それは当然、二人の魔法少女が戦う理由となる。


 なぜ裏切ったのですか?


 とは、サンデーは尋ねない。それは愚問でしかないからだ。これはきっと宿命なのだ。オウゴンサンデーとグレンバーン。二人が例えどのような道を選んだところで、きっといつかは戦う日が来るのであろう。そして、今日がその時。


「どこでやりますか?」

「アンヘルがそちらに迎えに行くわ。安心して。アンヘルには、あなたに手を出さないよう、アタシから頼んである」

「やはり決着は」

「一対一」

「誰にも邪魔はさせない」


 これ以上の言葉は必要ない。通話を終えたサンデーは一人、床に座って瞑想を始めた。迎えが来るまで、極限まで集中力を高めておくつもりである。



 一方。

 オウゴンサンデーの一番弟子こと、カンノンプラチナは暗闇の中をさまよっていた。


「何がどうなってんだよーっ!?」


 それは数分前の事である。


「ワッ!?なんだ!?」


 地震のような衝撃。そして同時に、独房が真っ暗になったのだ。ただでさえ孤独なのにこの仕打ち!プラチナは思わず涙声になった。


「なんでこんな事すんだよーっ!?囚人をビビらせてよぉ〜何か得する事でもあんのかよーっ!?チクショー!」


 プラチナは力任せに、たしかにそこへあったはずの鉄格子へ蹴りを見舞ったのだ。固い感触は、しかし一瞬だけである。


「あっ!?」


 プラチナは蹴りの勢い余って頭から転倒した。


「痛たたた……あ、アレぇ?」


 起き上がったプラチナが、暗闇の中、手探りで鉄格子を探す。鉄格子はあった。しかし、どういうわけか、自由に前後に動くようだ。


「ははぁ……鉄格子の鍵が外れたんだ。電気でロックしていたのかな?停電したから外れたんだ」


 そうとわかれば脱走開始である。とはいえ、ここはあまりにも暗すぎる。


「……あった!」


 プラチナがポケットから取り出したライターの火が、あたりをボウと照らした。オウゴンサンデーの弟子になって以来、喫煙はやめていたプラチナである。が、癖で持ち歩いていたライターが思わぬ場面で役にたったというわけだ。プラチナは独房を脱出した。目的は、ただ一人。


「グレンの奴!一発殴ってやらなきゃ、オレの気がおさまらねぇぜ!」


 鼻息荒いプラチナは先を急いだ。が、困ったことに、どこへ向かえばいいのかさっぱりわからない。そもそも、自分が宇宙船の中にいることさえ、カンノンプラチナは知らないのである。鉄とセラミックでできた通路は、どこまでも同じような景色を続けている。いや、それさえもプラチナには見えないのだ。心細い小さな火明かりが照らすのは、せいぜい数メートルまで。少し歩いただけで、プラチナがすっかり道に迷うのも、無理からぬことであった。


「あっあっあっ!」


 プラチナの不運はさらに続いた。ライターの火が消えたのである。どうやら、ガス切れのようだ。何度か再点火を試みたプラチナであったが、とうとう暗闇に抗う能力を失ってしまった。


「何がどうなってんだよーっ!?」


 そして、現在。

 カンノンプラチナは壁伝いに、手探りで廊下を歩き続けている。だが、歩けど歩けど、人や明かりは、まるで見えてこない。


「グレン!出てきやがれ!ぶちのめしてやる!」


 そんな叫びも、虚しくこだまするだけである。心細いプラチナは、いっそ敵でもいいから現れてほしいと願った。


 ちょうどその時である。


「あぶない」

「うわあ!?」


 背後から声をかけられたプラチナが頓狂な声をあげた。振り返ってみるが、生憎プラチナの目では何も見えない。


「だ……だれぇ?誰かいるのか!?」


 プラチナにも、多少は格闘技の心得があるのだ。目には見えなくても、彼女の勘が告げている。


(オレのすぐそばに、何かいる!近づいて来る!)


 この場合、時間停止能力を使うのは無意味だ。カンノンプラチナはファイティングポーズをとり、相手からの初撃に備えた。両拳を顎の横に構えるガードポジション。そんなプラチナの左拳に触れたのは、温かく、プニプニとした柔らかい感触であった。


「ひぇえ!?」


 思わぬ事態にプラチナが悲鳴をあげる。左手を思わず払うと、今度は両頬をプニプニが挟み込んだ。思わずイソギンチャクの化け物を連想したプラチナはパニックを起こした。


「や、やめろぉおお!オレを食べても美味しくなんかねーぞぉ!」

「おちつくニャン!私は敵ではないんだニャン!」

「え、にゃ、ニャン?」


 イソギンチャクの化け物のイメージが、プラチナの脳裏から霧散する。ゆっくりと頬を包むプニプニを握り返すと、それは大きな肉球であった。


「ねこ……?」


 プラチナは手探りで、声の主の頭を撫でた。頭の先には、二つの耳がピンと立っている。


「ニャーン」

「あはは……よくわかんないけど、大きな猫だコレ。オレは犬派だけど、猫も可愛いよな。これが耳だろ?足がここで、尻尾がこれ。その先が……」

「エッチ!」

「ふげっ!?」


 カンノンプラチナは肉球パンチを頭に受けた。


 突然、廊下に光があふれた。停電が復旧したのか、照明が復活したのである。急な光量によるホワイトホール現象で目をしばたたかせるプラチナは、やがて大きな猫と思っていた生き物の正体を知る。


「な、なんだーっ!?お前はーっ!?」


 見たところ、人間である。小柄な少女が、三毛猫のコスプレをしているというのが、正確な表現に近いだろう。三毛猫の少女は、カンノンプラチナに自己紹介をした。


「はじめましてニャン!私は閃光少女のノラミケホッパーだニャン!よろしくニャン!」


 ノラミケホッパー。すなわち、オウゴンサンデーが狙う魔王の娘、村田ツグミその人である。そうとは知らないプラチナは、相手がひとまず魔法少女であるとわかって安心したようだ。


「あ、アンタも閃光少女か……オレはカンノンプラチナ。よろしくな」


 プラチナはふと気になった事を尋ねた。


「ところで、語尾にニャンって言うの、何か理由があるのか?」

「いや、べつに……」


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