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宇宙戦争の時

 天使たちの視界を避けながら、鉄の廊下を歩き続けるムラサメツグミ。突如、突き上げるような衝撃が彼女の足元を揺らした。


「うわぁ!?」


 尻餅をつくムラサメである。そして、混乱をしたのは天使たちも同様だった。


 全体にして個。個にして全。数多の肉体に同一の魂を持つアンヘルは、お互いに言葉を交わす必要はない。ただ一人のアンヘルが、制御室のパネルを確認するだけで、どこに問題が起こったのか明白であった。


「13区画で気圧の低下が発生」


 そうとわかった時には、その付近にいる他のアンヘルが現場へと向かっていた。ムラサメツグミは知るよしもない。


 現場へとたどり着いたアンヘルは我が目を疑った。


「なんだ、これは!?」


 学校の体育館ほどのスペースがある第13区画。その床を、何か黒く、巨大な物体が貫いている。黒い物体が地響きのような音を立てて床から抜けると、潜空艦の全体像がアンヘルの視界に飛び込んだ。


「また地上人の兵器!!うわっ!?」


 床に開いた大穴から、気圧差によってアンヘルの体が吹き飛ばされた。


 とはいえ、別のアンヘルたちがすぐに現れる。


「全員集合だ!今度こそ、コイツを破壊してやる!」


 13区画に無数の天使たちが殺到する。その蜂の巣をつついたような騒ぎを、ジュンコたちもモニター越しに見ていた。アーンバルが戦闘システムを起動させる。


『何度私に挑戦しても結果は同じよ〜ん!』


 潜空艦からサボテンの棘のように機関砲の銃身が飛び出す。火を吹く直径12.7mmの徹甲弾は、再び天使たちを血祭りにあげていった。


『オホホホホ!……あ、あら?』


 勝ち誇るようなアーンバルの高笑いが止まった。後から来たアンヘルたちが、一斉に、分厚い盾を構えたのだ。見た目こそ古代ローマ時代の盾に似ているが、ただの骨董品ではないらしい。事実、機関砲をはね返し、ジリジリと潜空艦に迫った。


『偽りの天使のクセに、生意気ねぇ!』


 そう言いながらアーンバルは魚雷を放とうとする。そんな彼女をアケボノオーシャンが慌てて止めた。


「ダメだよ、アーンバル!ガンタンライズもグレンも、ツグミちゃんだってこの宇宙船のどこかにいるんだから!爆発NG!」

『え〜?』


 ついさっき行った突撃侵入でさえ、かなり気を使ったのだ。魚雷を使って、可燃物に誘爆などすれば目も当てられない事態になるのは必至だ。


「なるほど、敵も馬鹿ではありません。この潜空艦に対する対抗策を用意していたようですね」


 とオウゴンサンデー。落ち着き払った彼女の態度は、オーシャンの鼻につくようだ。


「ちょっと!落ち着いている場合じゃないでしょ!戦闘中だよ!」

「戦いの最中にこそ、相手を冷静に観察することは大事ですよ、アケボノオーシャン。ほら、アレを見てください」

「?」


 サンデーが指さす先に、一体のアンヘルがいる。そのアンヘルの構える槍の先端が、ラグビーボールのように膨らんでいた。


「なんだ……?うわあっ!?」


 槍を構えて突き込んできたアンヘルが爆発したのだ。どうやら、槍の先端に爆発物が取り付けてあったらしい。頑丈な装甲板が吹き飛び、潜空艦内部の機械が露出した。


「正気なのかな!自分の宇宙船の中で爆弾を使うなんて!」

「指向性の爆薬かもしれないぞ」


 とジュンコ。成形炸薬弾であれば、たしかに周囲への被害は少なくて済むものだ。例えば、槍を持つアンヘル一人を犠牲にさえすれば。


「この船には、他に武器は無いのかい?レーザー銃とか」

『そんな気のきいた武器があれば苦労しないわよ』


 機関砲を防ぐ盾を構えた天使と、爆弾槍を構えた天使が潜空艦を包囲していく。爆弾槍のダメージは、先ほど嫌というほど味わったアーンバルなのだ。


『ひとまず逃げるわよ〜!』


 潜空艦が、突き破った穴を逆に通り、宇宙空間へと逃れようとする。だが、驚くべきことに天使たちは潜空艦を追って真空の世界へ躊躇なく飛び込んだ。


「なんて奴らだ!宇宙空間に出ても平気だなんて!」


 そう口にしてからオーシャンは、もしかしたら、ただの特攻なのかもしれないと考える。が、どちらにしろ追い詰められるのは潜空艦の方だ。


「うわあああっ!!」


 爆弾槍が次々と爆発し、潜空艦に無視できないダメージを与えていく。


「近接防御!近接防御!機雷を使って!」

『あいにく今のダメージで発射装置が壊れちゃったわ〜』

「だったら全速後退!急いで!」


 潜空艦はオーシャンの叫びに呼応して、宇宙船から離れようとスラスターを噴射する。だが天使の一人が体を燃やしながらスラスターへ突っ込むと、その噴射炎に向けて槍を突き込んだ。


「くそっ!特攻って、こんなに厄介な攻撃だったのか!」


 スラスターの噴射口があらぬ方へ向き、潜空艦は不規則に回転を始める。この状態では、機関砲による正確な射撃は不可能であった。


「チャンスだ!いくぞ!」


 その叫びと共に、無数のアンヘルが潜空艦へと張り付いた。その全員の手に爆弾槍が握られている。アンヘルは身の危険に構わず、爆弾槍を潜空艦へと突き立てた。


『うぎゃああああああああ!?』


 アーンバルが悲鳴をあげ、激しい爆発と共に、潜空艦が粉々に粉砕された。

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