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失望の時

 魔法少女の国には、地下に、いくつかのシェルターがある。敵からの攻撃を受けた際、戦えない魔法少女が、そこへ避難するためだ。


 その内の一つに、多くの魔法少女がひしめいていた。皆、天使の襲撃によりダメージを負った魔法少女たちである。これからどうなるのか。どうするのかと囁きあう少女たちは、物音を耳にしてシーンと静まりかえった。


 皆、地上の天使から逃げてきたのだ。特別な手順を踏まなくてはシェルターには入れないのだが、まさか、その秘密が天使にバレたのだろうか。固唾を飲んでシェルターの入り口を見守る魔法少女たちが目にしたのは、全身を血で染めた一人の魔法少女であった。


「オウゴンサンデー様!」


 たまたま入り口近くにいたヒーラーが、彼女の正体に気づいて駆け寄った。だが、オウゴンサンデーは手ぶりで彼女を制する。


「問題ありません、返り血ですよ。至近距離でアンヘルが破裂したものですから」


 とはいえ、ヒーラーの魔法少女は心配そうに、ハンカチでサンデーの顔についた血を拭った。たしかに怪我はしていないようだが、天使たちとの戦いによる、隠しようのない疲労の色が顔に浮かんでいる。


 サンデーは、シェルター内の魔法少女たちに声を荒げた。


「あなたたちは、何をしているのですか!私たちの理想のために!魔法少女の国をつくるために戦うと、誓ったではありませんか!さあ、行きましょう!地上にいる天使を一掃するのです!」


 そう言われても、誰も、何も答えないのだ。サンデーを案ずるヒーラーの少女さえ、彼女の視線を恐れるようにうつむく。


「……なぜです?なぜ誰も返事をしないのですか!」

「サンデー様」


 とうとう一人の魔法少女が一歩前に出た。手には、画面のひび割れたスマートフォンが握られている。


「これを見てください」

「なんですか、一体……?」

「グレンバーンが泊まっていたホテルの、廊下の監視映像です」


 サンデーは、動画の再生ボタンを押した。もちろん、室内はプライバシー保護のため監視など論外だが、廊下やロビーなどは常に監視カメラが働いている。見ると、サンデーの弟子。カンノンプラチナがグレンの部屋に入った。


「これが、何ですか?」

「……もっと続きをご覧ください」


 しばらく待っていると、アンヘルがグレンの部屋へと入っていくのが見えた。


「まさか、グレンバーンがアンヘルに攻撃を仕掛けた、と?」

「いいえ、もっと悪い……」


 さらにスマホを見ていると、アンヘルが部屋から出てきた。サンデーは驚いた。アンヘルに続いて、気絶しているらしいカンノンプラチナを抱えた、グレンバーンが出てきたからだ。


「そんな、まさか……!?」


 グレンバーンは、アンヘルと共にその場を後にした。その後、映像は激しいノイズと共に暗転する。おそらく、部屋が爆発した結果だろう。


「グレンバーンは、我々の敵だったんですよ!初めから、アンヘルと一緒に、私たちを滅ぼす気だったんだわ!そして、彼女をここへ連れてきたのは、他ならぬ、あなた!」


 魔法少女は責めるような口調でそう言うと、スマホをサンデーの手から奪った。サンデーは、ショックを受けている。


「いや、そんな……まさか、グレンバーンがそのような卑怯な手を……!」

「それに、サンデー()()!」


 口撃は止まらない。


「あなたは、重い病気を患っているそうですね。治療法も無くて、あと数年くらいしか生きられないとか……そんな、あなたの夢のために、長生きできるはずの私たちが死ぬなんて、まっぴらごめんだわ!」

「うるさい!」

「きゃっ!?」


 サンデーの平手打ちがとんだ。倒れた魔法少女に向けて、サンデーが即座に弓を構える。


「ひっ……!?」

「…………」


 だが、やがてサンデーはゆっくりと弓を下ろした。


「臆病者を殺しても、仕方がありません」


 取り返しのつかない真似は、せずに済んだ。しかし、サンデーの激昂ぶりは、一つの真実を裏づけている。この国の魔法少女たちが、密かに囁きあっていた噂は本当だったのだ。オウゴンサンデーの余命は残り少ない、という。


「……私が間違っていました」


 そうつぶやきながら、サンデーは魔法少女たちを見る。誰も、まともに視線を合わせようとしない。


「私はてっきり、()()で、あなたたちが魔法少女の国を必要としているものとばかり思っていました。ですが、私の勘違いだったようですね。あなたたちにとって魔法少女の国とは、せいぜい、通学路にマクドナルドがあればいい、くらいの気持ちでしかなかったのでしょう……」


 サンデーは魔法少女たちに背中を向ける。


「それでも、私は戦います。その隙に、あなたたちは地下のホームから、外の世界へ脱出しなさい」


 一見すると、自己犠牲のようでもあった。だが、サンデーは自分の方が、まだ救われると信じている。これは、残された魔法少女たちの、背中に負わせた十字架なのだ。この十字架は、彼女たちが死ぬまで背負う呪いだ。


「生きて、生きて、生き延びなさい!人間でもなければ、魔法少女でもない!どこにも居場所のない生命を!」


 沈黙を耳にしながらシェルターを出たサンデーは、真の友を得られなかった自分自身もまた、支えの必要な、小さな存在に思えた。


(タソガレバウンサー……あなたなら、もう少し上手く妥協できるのでしょうね)


 今は亡き腹心の顔をサンデーは思い出す。


(カンノンプラチナ……こんな時でも、あなたなら私についてきてくれたでしょうに)


 ただ一人の弟子は、今は何処にいるのか。


 やがて地上に出たオウゴンサンデーを迎えたのは、カラスの群れのようなアンヘルたちである。サンデーが目指した魔法少女の世界は、無数の魔法少女の遺体と共に、破壊の限りを尽くされている。一体、何が神の不興を買ったのか、未だにわからないサンデーである。が、戦わなくては生き残れない。


「我が偉大なる神よ!死ね!」


 弓を引き絞るオウゴンサンデーに、天使の群れが殺到する。


 その時である。

 空に巨大な、黒い物体が現れたのは。

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