スマホの時(どうしてスマフォじゃなくてスマホなのかしら?)
その返事を聞いたグレンが、勢いよく立ち上がった。どう見ても、アンヘルに襲いかかるつもりである。
「グレンバーン!」
すぐさま諫めたのはオウゴンサンデーだ。
「先ほどの話、忘れたわけではありませんよね?」
「くっ……!」
グレンはその言葉に奥歯を噛み締める。サンデーは説明した。目の前に座っているアンヘルは、数多いるアンヘルの内の一人でしかない。彼女(?)の命を引き換えに交渉しようとしても、それは無駄に終わるだろう。サンデーが静かに言った。
「まずは座ってください、グレンバーン」
「…………」
渋々引き下がるグレンを、アンヘルは無表情で見つめる。
「アンヘル、そちらにも事情があることはわかります。ですが、なんとか糸井アヤと会うことは叶いませんか?」
「ダメですね」
アンヘルには取り付く島もない。すると今度は、オウゴンサンデーがゆっくりと立ち上がった。
(戦うつもりかしら……!)
そう思ったグレンも身構えるが、オウゴンサンデーの行動は違った。
「お願いします、この通りです……!」
サンデーは、深々と天使に頭を下げたのだ。グレンは意外に思った。本人も自負する最強の閃光少女であり、魔法少女の国の、事実上の支配者であるサンデーが頭を下げたのだ。カンノンプラチナの顔色を、グレンがうかがう。
(師匠が人に頭を下げた……!?)
プラチナもまた驚いた様子を隠せていない。やはり、こんな事は滅多にないのだろう。
天使の方は、無表情のままサンデーの様子を見つめたままだ。しばし間をおいてサンデーが口を開いた。
「それに、糸井アヤとの面会を却下しているのは、あなたの一存ですよね?」
「はい?」
「アンヘル、もう一人のあなたは神の身許にいるはずです。神に尋ねてくれませんか?オウゴンサンデーが、どうしても糸井アヤとの面会を望んでいる、と」
頭を上げたサンデーは、アンヘルと見つめあった。というより、睨みあったという方が妥当だ。
やがてアンヘルは椅子から立ち上がると、窓際に行き外を眺めだした。交渉決裂だろうか?グレンが固唾を飲んで見守っていると、アンヘルは微笑を浮かべた顔を、サンデーではなく、グレンへ向けた。
「神は前向きに検討なさるとのことです。しばらく、お待ちください」
「わかりました」
グレンに代わって返答したのはサンデーだ。
「部屋を用意してあります。食事が終わり次第、案内いたしましょう」
アンヘルはうなずくと、笑いながら給仕の魔法少女へ言った。
「アジフライ、もっと食べてもいいかな?」
その後、オウゴンサンデーはアンヘルをVIPルームへと案内した。そんなサンデーを、ずっと廊下で待ち構えていた魔法少女が一人。
「ねぇ、サンデー」
グレンバーンは腕組みをしながら壁にもたれかかり、サンデーに尋ねる。
「さっき、アンヘルに頭を下げてたわよね?」
「それが、なにか?」
「どうして、そこまで糸井アヤにこだわるの?」
「それは、あなたも同じでしょう」
「そりゃそうよ。アタシとアヤちゃんは友だちなんだから」
だが、いつの間にかオウゴンサンデーが、アヤと熱い友情を結んだとは考えにくいグレンバーンなのである。しかしサンデーは、返事のかわりに、薄い長方形な物体をグレンに差し出した。
「なによ、これ?」
「我々、魔法少女がお互いに連絡する時に使う道具です。まあ、携帯電話のようなものだと思ってください」
携帯電話ならグレンも知っている。が、奇妙なことにその物体には、ボタンが一つしかついていなかった。ボタンを押すと、画面に光が灯る。まるで持ち運べる小さなテレビのようであった。そういえば、先ほどキューブで行った戦闘力テストで、サンデーが手にしていた光るパネルは、これの大型版のようだったのをグレンは思いだす。
「従来の携帯電話とは、まるで異なるものです。我々は賢い電話、すなわちスマートフォンと呼称しています。画面は全てタッチパネルになっており……」
グレンはイライラした様子で尋ねる。
「それで、どういうことなの?電話でないと、アタシに話せないことでもあるの?」
「いいえ。それよりも、そのスマートフォンには動画を再生する機能があります」
「動画?」
「それが、私が糸井アヤにこだわる理由……と言っておきましょうか」
サンデーは、グレンにスマートフォン内の動画を再生する方法を、簡潔に教えた。グレンは愚鈍ではない。後は直感的に操作方法を悟るだろうと、サンデーは考える。
「わかった。その動画とやらを観てみる」
「その動画を観て、どういう感想を持とうが、あなたの自由です。しかし、これだけは言っておきます」
「なに?」
「どんな事情があれど。村雨ツグミが、魔王と契約した唯一の魔法少女である限り。私は彼女を狙い続けますよ」
「……そう」
それについては、まったく相容れることができないグレンであった。
グレンは自分の部屋へ戻ると、すぐに窓辺に向かった。西に傾いた太陽の光が、魔法少女の国を茜色に染めていく。そんな窓の風景を、グレンはカーテンで遮った。一人になりたかったからだ。
「ええと……これを、こうするのよね……?」
グレンはサンデーから貰ったスマートフォンを操作する。問題の動画には『98ー99ー00ー01』とタイトルがつけられていた。数字の意味は、グレンにはわからない。しかし、知りたいと思う。サンデーがなぜ糸井アヤに執着するのか。グレンはタッチパネルに表示された再生マークにそっと触れた。
「あ、これは……!」
グレンは思わず顔をほころばせる。画面に表示されたのは、小学生の糸井アヤであった。夏休み。これから父と一緒に、母方の祖母の住む田舎へ遊びに行くのである。
とここで、誰かがグレンがいる部屋のドアをノックした。
「はい!」
誰かしら?そう思いながら、グレンはすぐに玄関のドアを開いた。




