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中村サナエの日記

 その本の表紙には、こう書いてあった。


『中村サナエの日記 ~勝手に読んじゃダメですよ!~』


 その日記は、ツグミと別れた後のサナエが、日記内の言葉を引用するならば『日付感覚を忘れないようにしようと思いまして』書き始めたものだった。



 ツグミさんが行ってしまった直後です。ワタシは、ディーバレジーナの姿に変身しました。本物のレジーナの死を知るのは、ハツさんとタスケさんだけ。レジーナの死が村人たちに知られたら、きっとみんなパニックになるでしょうからね。


 そうそう、チイちゃんと、彼女のお父さんはすぐに再会できましたよ。チイちゃんは、ワタシの首についた鈴を見て、すぐにワタシだと気がついたみたいでした。


「マンダーレイアは倒しました」


 そう耳元でささやいたら、泣いていましたね。時間はかかるでしょうが、チイちゃんたち親子が頑張れば、炭鉱の村もやがて元の活気を取り戻すことでしょう。


 ジューンさんとオトハンさんは旅に出ました。勇者パーティのメンバーだったということで、良い宣伝になったそうです。それにしても、あの二人、誰かに似ているような……?


 そして勇者パーティといえば、当然、魔王討伐は中止と宣言しました。なかなか村人たちを納得させる理由を考えるのに苦労しましたね〜。特にヨール神父という人が「それでは言い伝えと違います!」と譲らないものですから、結局、「伝説は塗り替えるもの!」で押し通しました。


 ですが、残念なこともあります。タスケさんがどこかへ行ってしまったのです。かわいそうなのは残されたハツさん。


「たぶん……あいつの心の中にいる女神が消えないのよ。あいつを一人前に扱った人は、あの人だけだったから……」


 ハツさんは、そう言ってました。タスケさんは失恋のショックから、旅に出てしまったのでしょうか?そんなハツさんも、今ではヒル兵長の、奥さんです。


 ワタシの方はといえば、元の世界に戻る方法を探しているのですが、一向に見つかりません。


 一番のヒントはディーバレジーナです。本人の所持品は遺体と一緒に燃え尽きてしまいましたが、幸い、義手だけは無傷で残りました。ですが、慎重に調べても異世界転移のヒントは見つかりません。


 義手を分解すると、中から二つの指輪が見つかりました。魔法少女の指輪とも異なる、銀色の指輪です。ワタシの指にはめて見ましたが、何も起こりませんでした。ただの装飾品でしょうか?もしも元の世界に帰れたら、ジュンコさんに調べてもらいましょう。


 半壊した魔王城の復興も、順調に進んでいるところです。昨日、久しぶりに青マント隊長に会いました。


「お前にはすっかり世話になったなあ!」


 そうですとも。バラバラになった隊長の骨を集めて、元通りにはめていく作業は、絵のないジグソーパズルを作るより大変でした。


「おかげでこの通り、骨はすっかりくっついたぞ!」

「よかったですね〜」

「それにしても、サナエはずっと若々しいな」

「うふふ、そうでしょうとも」


 以前ツグミさんが言っていた通り、やはりこの世界ではワタシの時間だけが元の世界に準拠して、ゆっくり進んでいるようです。おそらく、こちらの世界で1年間過ごしても、ワタシの体は1時間程度しか変化はないでしょう。


「それに比べて、俺はすっかりシワが増えた」

「え、シワ?」


 ワタシは青マント隊長の頭蓋骨をジッと観察してみました。シワ……増えているんでしょうかねぇ?


「だがその分、魔王様も立派な若者になられた!」


 そう隊長が視線を向ける先には、この数年間ですっかり大人びたジロー君の姿がありました。サラブレッドのような筋肉質な体に、黒いショートパンツとつま先のそり返った黒い靴。そして、黒いマント。


「その格好、もうちょっとなんとかならないんですかぁ?」

「何を言うか、サナエ。これは代々の魔王が身につける伝統的な衣装だぞ」


 そんなジロー君は魔王城のリーダーとして、日々悪魔たちに、城を再建するための指図をしています。


 ツグミさんが残していった言葉通り、あれ以来みなさん、なんとか衝突をしないで暮らしています。魔王城の方はジロー君が、人間の方はディーバレジーナに変身したワタシが、なんとかお互いに対立しないよう調整しているのです。完璧ではありませんが、いつかツグミさんが望んだ通り、この世界を楽園に……………………



「え、なんですか!?」


 日記を書いていた途中のサナエは、サー・サンドイッチに呼ばれて振り返った。


「はい、サナエさん」


 紫色のローブを着た、骸骨の魔術師が再度説明する。


「地中から奇妙な物体を掘り起こしたのです。我々にとっては未知の物体で……もしかしたら、サナエさんの世界から来たものではないかと」


 日記を閉じたサナエは、すぐさまその発掘現場へと向かった。地中から掘り起こされたその物体に、サナエが目を丸くする。


「なっ!?これは……!!」


 それは、全体が多角形で構成された、自動車ほどもある、赤い宝石であった。ジローが興奮して叫んでいる。


「ガーネットだ!ついに見つけたぞ!これはガーネットだ!」

「え、ガーネット?」


 ジローがサナエに説明する。血のように赤い宝石、ガーネットには、この世界と別の世界をつなぐ力、すなわち異世界へ旅立つ力がある、と。魔王城に伝わる伝説である。ジローは密かにそれを探していたが、それをついに発見したと考えたのだ。


 ジローはその力があれば、他の魔王に会えるのではないかと期待していた。だが、もっと切実な願いが、ジローにはある。


「これでツグミに会いに行ける……!!」


 やはり何年たっても、ツグミが恋しいに違いないジローなのだ。そして、ツグミの元へ行かねばならないのはサナエも同じ。


「あ、これって……」


 サナエは、赤い宝石にレバーがあるのに気づき、それを引いてみた。機械的な音が響き、宝石の上部がパックリと割れる。


「おお!?サナエ!なんだこれは!?」


 サナエにもよくわからない。が、宝石の中には人間が座るための座席や、操縦するためのハンドル。それに、複数の計器がチカチカと光っていた。間違いなく、これはサナエたちの世界の機械である。それも、まだ生きている!


 ジローが語った伝説。そして、ディーバレジーナが残したと思われるマシン。サナエの頭の中で、点と点が線で繋がっていく。


「きっとこれは、ディーバレジーナが使っていた、異世界転移用のマシンですよ!これがあれば、ツグミさんの世界に帰れます!」


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