表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
303/356

言葉で責める時

 ダンジョン、と女神は言っていた。


「私から離れないでくださいね」


 そうレジーナは言う。しかし何の事はない、ただの坑道なのだ。モンスターもいない。トラップも置かれていない。しかし、ある意味ではダンジョンと呼べる要素もある。


「迷子になられては困りますから」


 長い年月をかけて採掘された坑道は、それ自体が複雑な迷路となっていた。村人たちが炭鉱夫以外の者の立ち入りを禁じていたのも、無理からぬことである。さもなければ、道に迷って一生出られなくなる可能性があるからだ。


 タスケやハツはもちろん、実のところレジーナでさえ坑道に詳しいわけではない。それでも、女神は義手に取り付けられたライトで照らされた坑道を、自信満々な足取りで歩いて行った。


「あの、女神様」


 ハツがたまらず尋ねる。


「どんどん進んでいますけれど、道は大丈夫なのですか?」

「大丈夫。女神にできない事はありません。安心してついて来てください」


 実際、レジーナが道に迷う事はない。右腕の義手では、液晶パネルが光を放っている。その液晶パネルが、今まで通ったルートを記録し、さらに目的地への方角を示していた。目的地はもちろん、マンダーレイアの首がある場所だ。


 とはいえ、入り組んだ坑道である。方角がわかっても、方角通りに進めるとは限らなかった。何度か道を行きつ戻りつ、ついに進むべき方向に進めなくなった時、女神は、文字通り奥の()を使う事にした。


「ドリルアーム!」


 そう叫んだレジーナの右手の先が、螺旋状のキリに変形する。女神はドリルを使い、轟音をあげながら壁を粉砕した。


「わーっ!女神様の魔法はすごいなぁ!」


 新たな道が出現し、タスケは素直に感心して拍手する。レジーナも、褒められて悪い気はしない。


「うふふ、さあ進みましょう」


 そんな女神も、少しだけ気になることがあった。ハツのことだ。先ほどから口数の少ない彼女に違和感を覚えているのである。


 だが、今最優先しているのはレイアの消息だ。何があったのかは、液晶パネルに表示されたマンダーレイアのステータスを見ればわかる。首を切断されたのだ。その首から先が、ひたすらレジーナに向けてSOS信号を放っているのである。


 やがて『もののけ封印』というお札を貼られた水瓶をレジーナが発見した時、彼女は二重の意味でホッとした。無事見つけられたのはもちろん、都合がいいことに、水瓶に入ったレイアの首は勇者とハツには見えない。


「やっと見つかりましたね!」


 そう嬉しそうに水瓶を手に取る女神にタスケが尋ねた。


「女神様、そりゃ一体なんですだ?」

「これは……魔王を封印するためのアイテムです。ほら、ここに『もののけ封印』と書いているでしょう?『もののけ』とは『魔王』のことなのです」

「はぁ」


 だが、ここで意外にもタスケは納得しなかった。


「魔王は、倒すんじゃなかったんですか?」

「えっと……それは、そうです。ですが……倒しきれないかもしれません。その時は、封印するのです。魔王を止める方法は、たくさんある方がいいですからね」

「ふーん、そうですか」


 タスケは、まだどこか解せない様子だった。が、暗闇の中でそれに気づいているのは、幼馴染のハツのみである。


 女神が改めて言う。


「さあ、必要なアイテムは手に入れました。これから魔王城へ向かいましょう!……どうしたのですか、二人とも?」


 ハツも、タスケも返事をしない。代わりに返事をしたのは、別の少女の声であった。


「それを持って、どうする気なのかなぁ?」

「なっ!?」


 レジーナにとって、忘れようにも忘れられない声が、坑道にこだまする。ハツも、誰の声なのかすぐにわかった。


「この声、チドリちゃん?」


 チドリと名乗っていたツグミは、それには答えずに言葉を続ける。


「ディーバレジーナって、魔法少女にしては仰々しい名前だよね。日本の魔法少女のはずなのに、日本語が入っていない。西洋ファンタジーに憧れているのかなぁ」

「アーサー!ハツさん!惑わされないように!黒の魔女の言葉に、耳を貸してはいけません!」


 レジーナは『黒の魔女』ことツグミの姿を探す。だが、音が反響するためか、どこにいるのかの見当がつけられない。


「そのくせに、この世界のみんなには日本語を使わせているんだね。シンデレラや白雪姫の絵本を残したりして。コンプレックスがあるくせに、本当の西洋を知っているわけじゃないんだ」

「は、はあ!?」


 レジーナは顔を隠すベールの奥で、頬が紅潮するのを感じた。


「RPGがやりたいんでしょ?だから悪魔と人間をわざと対立させようとしている。魔王を倒す勇者だなんて……発想がすごく浅くて貧しいよ」

「ふざけんな!!てめえ!!」


 ついにレジーナが激昂した。「どこだ!?どこにいる!?」と声を荒げ、義手についたライトをやみくもに振り回す。


「他人の世界観に口を出すんじゃねーよ!!それを言い出したら戦争だろーが!!」


 だが、闇の中からの奇襲は暗闇姉妹の十八番なのである。女神の背後に立っているツグミが、一言つぶやいた。


「変……身……」


 ツグミの体を、影のような包帯が幾重にも包み、やがて漆黒のドレスを形作る。


「はっ!?」


 レジーナがライトの光を向けた時には、ツグミが変身した魔法少女、トコヤミサイレンスの姿はすでに無かった。この生粋のアサシンにとって、気配を殺して移動することなど容易いことである。やがて手頃な大きさの石を拾ったトコヤミは、それを黒い包帯で包むと、端を握ってブンブンと振り回し始めた。旧約聖書において、少年ダビデが巨人ゴリアテを倒すのに使った、人類最古の兵器。すなわち、投石である。


「あがっ!?」


 左肩に痛烈な一撃を見舞われたレジーナは、思わずその場にうずくまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ