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焦土の時<Side:レジーナ>

 かつて、炭鉱の村と呼ばれた場所。

 火を噴く半人半竜の悪魔、マンダーレイアに襲われたその村は、すっかり焼き払われ、さながら地獄の様相を呈していた。


 それでも、新しい芽が出ようとしている。わずかに残った燃え残りの木材などを集めて、まるで小さなテントのような小屋がポツンと建てられていた。


 小屋から一人、銀髪の少女が、朝日に目を細めながら外へ出る。


「う〜ん、今日もいい天気になりそうですね〜」


 中村サナエである。そんな彼女のそばへ、すぐさま相棒のスーパーバイク、マサムネリベリオンが駆けつけた。


「さあリベリオン、朝ごはんを集めに行きましょう」


 村に食料は残されていない。自然、サナエと、まだ小屋の中で寝ているチイの食事は現地調達に頼るしかなかった。


 昨晩もそうだったのだ。サナエはリベリオンと森に入り、大量のキノコを採って戻った。それをチイが鑑別するのである。


「これは食べられる……これは食べられない……食べられない……毒キノコ……」


 そんなこんなで、結局食料になったのは採った内の10分の1ほどである。


「サナエは毒キノコを見つけてくる才能があるんだね!」

「それ褒めているんですかぁ?」


 そして現在。異世界の植生はまるでわからないサナエは調達係、そしてチイが鑑別係となって今日も糊口をしのぐのだ。そのうちツグミがこちらに合流するはずである。


「それまでまあ、なんとか過ごしましょう」

「うん」


 サナエはお留守番をするチイの頭をポンと撫でた。


「落ち着いたら、死んでしまった村の人たちを埋葬してあげましょうね」

「……うん!」

「行きますよ、リベリオン」


 サナエは相棒のバイクへまたがり、エキゾーストノートを残して森の中へと入って行った。


 サナエを見送ったチイは小屋の中で、焦げ臭い藁の上に横になる。一人になったチイが考えたのはジローのことだった。


(ジロー君が魔王……)


 今になっても、それが少し信じられないチイがそこにいるのである。たしかに、ジローは普通の人間とは異なる容姿であった。青い肌をもち、頭上に角を生やした子どもなどいない。しかし、横柄な言葉づかいを別にすれば、ジローは自分とあまり変わらないとチイは感じたのだ。


 そんなジローを「人殺し」と叫んだのはつい昨日のことだ。


「お前のせいなんだ……!」

「みんな死んだんだ!マンダーレイアのせいで、私の村は……みんな死んだんだよぅ!」


 それに対してジローが叫び返した言葉を思い出す。


「俺は人殺しなんかじゃない!」

「俺じゃないぞ!マンダーレイアに、お前らを襲うように命令したことなんて……他の悪魔たちに対しても、一度だってあるものか!」

「本当だぞ!俺は……お前から怨みを買ういわれはないんだ!人殺しなんかじゃないんだぞ!」


 居心地の悪さを感じたチイは、何度も寝返りをうった。


 と、ここで小屋の外から草を踏む音を耳にしたチイが身を起こした。


「サナエ?」


 あるいは、ツグミであろうか。一緒だったバイクのブンブン(チイはそう呼んでいる)の音が聞こえないので、きっとそうだろうとチイは思った。


「ツグミ姉ちゃん!おかえ……!」


 と言いかけて、チイはすぐに自分の口を押さえた。


 そこに、ツグミやサナエの姿はない。かわりに居たのは、骸骨の兵隊たちであった。魔王城の悪魔たちである。各自が思い思いの武器を手にしている中、大きな斧を持ち、青いマントで着飾っている骸骨がリーダーらしい。


「隊長……!」

「ああ」


 仲間から呼びかけられた青マント隊長が口を開く。


「マンダーレイアが村を焼いたという話は、どうやら本当らしいな」


 魔王城を守るスケルトン部隊が派遣されたのは、魔王ジローからの命令であった。ジローは、昨日チイに言われた言葉を、忘れようにも忘れられなかったのだ。『焼かれた村』を探すのは、スケルトン部隊にとって簡単な仕事であった。


「なにしろ、こうも派手に焼き尽くしているのだからな」


 仲間の骸骨が青マントに尋ねた。


「隊長はどう思っているのですか?」

「何が?」

「レイア姫が村を……いえ、悪魔が人間を襲うことは、当然の摂理というか……」

「普通のことだと言いたいのか?」

「……はい」


 青マントは眼球の無い目で遠くを見るような所作をする。


「そう、その普通が問題なんだ」

「普通が問題、ですか?」

「ツグミ姫が言っていたことだが」


 と青マントは前置きをして続ける。


「この『普通』を続ける限り、俺たち悪魔か、人間のどちらかが根絶やしになるまで戦いが続くことになる。どちらかが根絶やしになったら、残った者たちの間でも、戦いが続くことになる。わかるか、兄弟?俺たちが抱える問題は、俺たちがただ『普通』に生きているために起きているのだと」

「ですが、戦士にとって、それは本望ですよ」

「俺もそう思っていた。だが、ツグミ姫から『普通』を乗り越える生き方を教わって以来……なんだか居心地が良くなっちまってな」


 青マントは「見ろよ」と焼け野原と化した村を見回す。


「これが未来の魔王城の姿だとしたら、俺たちが今生きている甲斐がねぇじゃないか。前の世代より、後の世代が良くなる。それでこそ戦士として生きる甲斐があるんじゃねぇかな」


 とその時である。けたたましいエンジンの排気音が骸骨兵たちの耳を突いた。当然、小屋に身を隠しているチイの耳にもそれが入る。


(サナエが乗るブンブン……!?いや、ちがう!)


「なんだ、あれは!?」


 骸骨兵たちには、それは鉄の箱としか形容できなかった。それは、それを曳く馬も無いというのに、車輪を激しく回転させながらスケルトン部隊に迫って来たのだ。


 女神が運転するSUVが、骸骨兵の集団にノーブレーキで突っ込む。


「どわあああああっ!?」


 青マント隊長を含む、何体もの骸骨がバラバラに砕け飛んだ。


 さらに残った骸骨兵を轢き倒し、ようやく停車したSUVからレジーナが降りた。


「おお、なんということでしょう!」


 女神は芝居がかった様子で、そう嘆いてみせる。


「うわぁ、ひどいなぁ……!」


 続いて降りた勇者アーサーことタスケも、焼き尽くされた村を見てそう口にした。全ては悪魔のせいでこうなったと、運転中の車内でレジーナからずっと聞かされ続けているのである。


「これでわかるでしょう」


 レジーナは我が意を得たりとばかりに続ける。


「悪魔はこうやって、人間を滅ぼそうとしているのです。我々が魔王を倒し、悪魔を根絶やしにしなければ、やがて世界中がこの地獄になってしまうのですよ」

「女神様!まだ悪魔が残っているぞ!」


 アーサーが指差す先には、かろうじてSUVに轢かれずに済んだ骸骨兵2体がいる。


「おのれ!よくも隊長を!」

「絶対に許さんぞ!貴様たち!」


 口々に叫ぶ骸骨兵の前に女神が立ち塞がる。


「黙りなさい。許さないというのはこちらのセリフです。ハツさん!」

「はい!」


 レジーナに呼ばれ、棒を持ったハツが女神の横に並ぶ。


「このような雑魚、勇者が出る幕ではありません。私たちで仕留めましょう」

「わかりました……!」


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