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異世界天罰代行の時

「うわぁ!!なんだ!?また化け物だぁ!!」


 村人たちが未だかつて聞いた事のない爆音を響かせて現れたのは、ネイキッドバイクのマサムネリベリオン。そして、それにまたがるスイギンスパーダこと、強化服を着たサナエであった。リベリオンには、サナエ特製の舟がくくりつけられている。自らの力作を取り戻したサナエの次なる目標は、友人であるツグミの保護であった。『黒の魔女』を村人たちが血祭りにあげようとしていることは、当然サナエの耳にも入っている。


「ツグミさーん!!どこにいるんですかー!?……ほわあ!?」


 バイクの後部座席に飛び込んできた猫人間に、スイギンスパーダは驚いて悲鳴をあげた。


「な、なんですか、あなたはーっ!?」

「ツグミだニャ」

「え、ツグミさん」

「早く逃げるニャー!」

「りょ、了解です!」


「奴も魔女の仲間だーっ!追えーっ!」


 そんな声が、はるか後方で聞こえた気がしたサナエである。しかし、本気を出したマサムネリベリオンに追いつける存在は、村には一つも無かった。


 サナエたちは、やがて誰もいない草原へと辿り着き、ひとまず停車した。灯りといえば、空の星々と、リベリオンのライトだけである。もうすっかり夜になっていた。


「ところで、ツグミさん。その姿は何ですか?」

「閃光少女、ノラミケホッパーだニャン。この世界で修行して、閃光少女としても変身できるようになったんだニャン」

「へー、そうなんですかー。ところで、語尾にニャンを付けないといけない決まりがあるんですか?」

「いや、べつに……」

「あ、そうですかー」


 ノラミケは後部座席から降りると、適当な枝を拾いに駆けていった。夜目がきくのも猫人間の特技の一つである。やがて焚き火を始めると、サナエは強化服のヘルメットを脱いだ。


「サナエちゃん!頭、どうしたの!?」

「ふえっ?」

「血が出てる!」


 サナエは額から出血し、銀色の前髪も半分が赤く染まっていた。


「すぐに治すから」

「…………」

「あ、あれ?」


 ツグミは回復魔法で、すぐにサナエの怪我を治した。血の赤色が消えたが、そのかわりに気がついたことがある。


「サナエちゃん、泣いてたの?」

「……あはは、バレちゃいましたか」


 サナエはわざとらしく笑ってみせる。


「何か辛いことがあった?」

「そうですね。ツグミさんですよ」

「私?」

「みんながツグミさんを狙うのが、なんだか悲しくて。ツグミさん、何も悪い事してないのに……」

「ありがとう、サナエちゃん。サナエちゃんがそう思ってくれるだけで、私は十分だよ」


 回復魔法は、体の怪我は治せても、心の傷は癒せない。そのかわり、ツグミは背伸びをしてサナエの頭を撫でた。


「痛いの痛いの〜飛んでくニャーン」

「うふふ、ツグミさん、それ癖になってるんですね」

「ちょっと、そうかも」


 少女二人は、そうやって笑いあった。だが、ふとサナエが真顔になる。


「そういえば、ツグミさん。ワタシ、この世界について思いついた事がありまして……」

「この世界について、思いついた事?」

「それは……」


 サナエが語りかけたその時、二人のすぐそばで「うぇええっ!」という少女の声が響いた。見ると、一人の女児が、リベリオンの後ろに取りつけられた舟に乗っている。


「誰でしょうか!?」

「きっと、この舟に乗ってきたんだよ。すごく乗り物酔いしているみたい。大丈夫?」


「おえええっ!」


 ツグミは少女の背中を、彼女が落ち着くまで優しく撫でた。


 ところで、ツグミはノラミケホッパーの姿をしたままである。もしもこの少女が村からついてきたのであれば、村人たちを翻弄するノラミケの姿は目にしているはずだ。


「怖がらないんだね、私のこと」

「え?」


 少女が不思議そうに首を傾げた。今はもう口がきけるようになっている。


「怖くなんかないよ。だって、あなたたちはブンブンのお友だちでしょ?」

「え?ブンブン?それって……」


 マサムネリベリオンが、それに応えるようにエンジンを2回吹かした。なるほど、ブンブンである。


「ブンブンは私の命の恩人だもん!」

「あの〜」


 とサナエ。


「これはブンブンじゃなくて、マサムネリベリオンというカッコいい名前がありまして……」

「ブンブンだもーん!」


 少女の声に反応して、リベリオンが再び2回エンジンを吹かしたので、サナエも「まあ、はい、どうぞ」と自分の主張を引っ込めた。


 それはさておき、ツグミは気になって仕方がない。


「あなたはだぁれ?それに、リベリオン……じゃなくて、ブンブンが命の恩人って、どういうこと?」

「それは……」


 彼女の名はチイという。鉱山の村で暮らしていたが、突如空から現れた悪魔に村を焼き払われたというのだ。坑道に逃げ込み、そこで偶然会ったリベリオンに命を救われたという。


 話を聞いていたツグミは、もしやと思い、紙の束を取りだした。サナエが尋ねる。


「なんですか、それは?」

「村に伝わる『言い伝えの書』。元の本は教会に置いてきたけど、気になる内容だけ書き写したの。それよりチイちゃん」


 ツグミは教会の書斎で写しとった紙の一枚をチイにさしだした。半人半竜の悪魔、マンダーレイアのイラストを見たチイがぎょっとする。


「こいつ!こいつだよ!私たちを襲った悪魔は!」


 チイは地面に手をついてツグミたちに懇願した。


「ブンブンのお友だちの二人にお願いがあります!この悪魔を……村を焼き、私たちの家族を殺したこのマンダーレイアを……どうかやっつけてください!お願いします」


 ツグミとサナエは顔を見合わせる。相談するまでもなく、答えは決まっていた。


「わかりました!あなたたちの家族の仇は、ワタシたちが討ちます!」


 サナエにそうポンと肩を叩かれたチイは、この二人とブンブンに、無理してついてきて良かったと安心した。安心すると、急にまぶたが重くなる。


「ねえ、ブンブン」


 ツグミがそう言うと、ブンブンことリベリオンは車体を横に倒した。ツグミはチイを抱き抱えると、リベリオンの座席にチイの体を預ける。


「疲れたでしょう?今は、ゆっくり休んで」

「うん……」


 ツグミに頭を撫でられたチイの、閉じられた瞳から涙が落ちる。これは、異世界であろうと天罰代行依頼だ。チイの村に住んでいた人々の怨みを晴らさねばならない。


「ところで、サナエちゃん」


 ツグミは、今度はサナエへ顔を向けた。


「さっき言いかけたこと。この世界について、思いついたことがあるって」

「はい。もしかしたら……」

「そう、もしかしたら……私も同じ事を思いついたかもしれない」


 サナエは自分の考えをツグミに語って聞かせた。ツグミも、おそらくそうではないかと、深くうなずいた。


「もしもそうだとしたら、絶対にこのまま放っておくわけにはいかない。私たちの世界のためにも……!」


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