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友情にさようなら

「何しに来やがった!?」


 そうわめきながらガンタンライズの降下地点、すなわちクマネコフラッシュとチドリのそばに寄って来たのはヤジンライガーだ。


「うるさい!!」

「なっ!?」


 ガンタンライズの拳が飛んだ。とっさにそれを腕でガードしたライガーであったが、鈍い音と同時にその体が数メートルも後退する。


「フラッシュの腰巾着が私に偉そうな口をきくな!!」

「貴様……!!」


 激昂しかけるライガーを、フラッシュが手を上げて制する。近接格闘タイプのライガーがヒーラーであるライズに先手を取られた屈辱は察するが、ガンタンライズへの友情には偽りの無いクマネコフラッシュなのである。


「落ち着いて、ライズちゃん。それじゃあ喧嘩になっちゃうよ」

「なら、これはどういうことなの!?」


 立ち上がったフラッシュの足元には、チドリが倒れている。チドリを挟んで対峙するガンタンライズの側には、彼女が空中から放った槍が屋上に刺さったままであった。その一撃でフラッシュを仕留めることもできたのだ。そうしなかったのは殺人への忌避感以上に、ライズにもまたフラッシュへの友情が残っているからである。だからこそ、これが何かの間違いだと、少しでも希望があればすがりたかった。もっとも、暴行され、目を潰され、そのうえ人間である権利まで剥奪されつつあるチドリを前にして、フラッシュに何の言い訳ができるのかは全くわからなかったが。


「口封じ……ってやつかな」

「じゃあ、やっぱり!」

「そう。魔剤をこの街に広めたのは私だよ。あの薬の素晴らしさは、アヤちゃんだって知っているでしょ?」


 フラッシュはつい、その名前でライズを呼んだ。ここに至っては、ガンタンライズはそんな事を気にはしない。


「この街には不安が多い。私は、それを減らす手伝いをしただけだよ」

「だからって、人間が悪魔に変わる薬なんか売っちゃダメだよ!」

「最初は予想外だったのよ?でも、まあ……良いかなって」

「いいわけないじゃん!!……めちゃくちゃだよ。ユリちゃん、そんなにお金が欲しかったの……?」


 ライズもまた、思わずその名をこぼした。フラッシュは、ゆっくりと首を横に振る。


「私のお手伝いをしてくれている、多くの魔法少女たちはそうだよ。みんな、お金が欲しいからやっている。だけど、私は違う。お父さんを殺した時から、お金には困っていなかったし」

「今、何て言った?お父さんを殺した!?自分のお父さんを!?」

「あんなの父親じゃない!」


 ここでようやく、フラッシュは怒りの感情を露わにした。


「母と娘を裏切る、典型的なクソオスだよ!女たちに取り憑き、ただ性的に消費して渡り歩く、マダニにも劣る害虫ども!そんなクソオスによる、クソオスのための、クソオスが作り上げた社会……踏みにじってやるわ!そんなもの!」


 そう言いきったフラッシュが仲間二人へ顔を向ける。ライガーはその言葉に困惑していた。ライガーが欲したのは、自分の欲求を満たす金銭でしかない。ライガー以外の、フラッシュに協力する多数の魔法少女たちも同じだ。金銭が価値を持つのは今の社会があればこそで、その社会そのものを破壊する意志などあるはずがない。だが一人、サンセイクレセントだけは顔色を変えなかった。


「そんなの絶対おかしいよ!じゃあ、ここに倒れているチドリちゃんは何なの!?アキホちゃんは!?父親を悪魔に変えられた母や娘たちは!?」

「だって、魔法少女じゃないから」


 糾弾するライズに、フラッシュが再び顔を向けながらそう口にする。


「クソオスどもは、暴力で女たちを支配してきた。それが今、変わろうとしているんだよ。魔法少女である、私たちが変えるの!それなのに、魔法少女にならないメスは邪魔なの」

「そんな……誰だって魔法少女になれるわけがないのに」

「ううん、なれるよ。なれないのは、無意識にこのクソオス社会を受け入れているという証拠。女ではない、ただの()()()()

「おかしいよ……何もかも狂ってるよ!そんな理屈!」

「本当はアヤちゃんにも仲間になってほしかったんだけどなー」


 フラッシュは空を見上げながらため息をつく。先ほどまで雨を降らしていた空は曇っているらしく、ただ暗いだけで、星は見えない。


「緑川さんの件で落ち込んでたし……それで閃光少女を引退してたからね。そっとしておこうかなって。それなのに、よりにもよってアケボノオーシャンなんかと…………動かないで!!」


 フラッシュがライズにそう叫ぶ。チドリに回復魔法をかけようとしていた彼女が、思わず体を止めた。


「その子は知り過ぎている……それに、もう間に合わない」

「私には……ユリちゃんの言う事が何もわからない。わかるのは、人を助けたいと思う自分の心だけ」

「その子は私たちを殺したいと思っているんだよ?今生き残れば、後日必ず復讐を誰かに依頼するはず。アヤちゃんは、私が死んでもいいの?」

「…………」

「友情を失うことになるよ!それ以上は!」


 フラッシュとライズの間に沈黙が流れる。やがて、ガンタンライズは覚悟を決めたようだ。


「この距離なら……私の方が有利だね」

「……えっ?」


 困惑するフラッシュの前で、ライズは屋上に刺さっていた槍を引き抜いた。


「そしてこれで……あなたは最後のチャンスを失った。私が槍を引き抜く前なら、まだ勝ち目があったのに」

「嘘でしょ……?アヤちゃん、何を言ってるの?私たち、親友でしょ?」

「もう終わりにしよう、クマネコフラッシュ。あなたがいる限り、街を……チドリちゃんを救えないというのなら……!」


 ガンタンライズは槍をフラッシュに向けて構えた。


「あなたとはもう、絶交だよ!!」

「や、やめてえええっ!!」


 怯えるフラッシュは、思わず両手で頭を抱え、その場に屈み込んだ。そしてその直後、屋上に倒れたのはガンタンライズの方だった。


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