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狂戦士にこんばんは

 それから1年以上の月日が流れた。


 西暦2000年12月。

 新世紀をすぐそこに控えたこの夜もまた、悪魔と閃光少女たちとの激しい戦闘が続いていた。それはまさに、人間と悪魔のどちらがこの地上に生き残るかという、絶滅戦争の様相を呈している。後の世に『最終戦争』と呼ばれるこの戦闘が終息するのは、まだ先の話だ。


 夜のビル街を、ゴシックロリータの衣装をまとった魔法少女が跳ぶ。クマネコフラッシュである。彼女がビルからビルへと三角跳びをしながら眼下に追っているのは、人を丸呑みできそうなほど巨大な、蛇のような悪魔であった。


「行け!熊ちゃん!猫ちゃん!」


 その命令に反応し、黒い熊のぬいぐるみと、白猫のぬいぐるみが飛んでいく。フラッシュの攻撃用マスコットだ。マスコットたちは巨大な蛇型悪魔の後頭部に接近し、両目から発するレーザー光で首を焼き切ろうとする。


「ギャアアアアアア!!」


 蛇の悪魔は悲鳴をあげて逃げ続ける。そのそばに、人間たちはいない。悪魔の出現が常態化したことで、彼らはすっかり避難することに慣れていた。路上にポツンと一人、蛇の悪魔を待ち受けるように立っているのは、虎柄ビキニの閃光少女、ヤジンライガーである。


「ライガー!」

「まかせろ姉御!」


 ヤジンライガーは両腕に装備した格闘用の鉤爪を構える。一気に蛇の首を刎ねるつもりなのだ。だが、悪魔が急に動きを変えた。


「ああ!?」


 蛇の悪魔が、ビルの窓ガラスに頭から突っ込んだ。窓ガラスは粉砕され、そこからビル内に避難している人々の悲鳴が聞こえてくる。


「あのやろう!!」

「ライガーはビルの反対側へ向かって!私が奴を追い出すから!」


 そう叫びながらクマネコフラッシュは、マスコット2体と共に、蛇の悪魔が壊した窓からビルの中へと入っていった。


「よしきた!」


 ライガーは道路を迂回して走り、ビルの裏手に回ろうとする。


 ビル内に突入したフラッシュは、すぐさま悪魔を追跡した。それについては特別な才能は必要ない。破壊の跡と人間の悲鳴。それをひたすら追いかけるだけだ。


「そっちじゃない!」


 フラッシュはマスコットを先回りさせてレーザー攻撃し、その進路をコントロールする。


「ギャアアアアアア!!」


 とうとう蛇の悪魔が、入った時とは反対側のオフィスにある、窓ガラスをぶち破って外へと飛び出した。


「ライガー!!」


 フラッシュもまた外へ飛び出しながら叫ぶ。だが、そこにライガーの姿は無かった。そのかわりに、真紅のドレス姿をした魔法少女が立っている。


(グレンバルキリー!?)


 フラッシュは一瞬、彼女をそう誤認した。実際、よく似ているのだ。しかし、真紅の魔法少女の両腕の籠手が紅蓮の炎に燃えた時、それが戦乙女バルキリーでないことにフラッシュは気づいた。


「誰よ、アイツ!?」


 まるで全てがスローモーションのようだった。蛇の悪魔が落下し、それを追いかけてフラッシュも跳んでいる。紅蓮の魔法少女は体を回転させながら、その燃える拳を蛇の頭へ叩き込んだ。


「おらああっ!!」

「ギャアア!?」


 蛇の頭が、その長い胴体ごと吹き飛ばされる。その先にいたのは、ビルの側面を迂回してきたヤジンライガーだ。


「うわっ!?」


 悪魔が飛んできたので驚くライガーであったが、青く光る巨大なトランプが彼女の前に現れ、盾のように蛇の巨体を止めた。その青いトランプは、結界である。そして、その結界はライガーの能力ではない。


「あいつは、グレンバーン!」


 ライガーがそう口にすると、クマネコフラッシュが彼女の横に着地する。


「姉御!」

「ライガーちゃん、あの子を知っているの?」

「ああ、あいつの名前はグレンバーン。グレンバルキリーの後任だ」


 炎の閃光少女グレンバーンは、ライガーたちを意に介さず、体を不動明王のように燃やしながら悪魔に迫る。そんなグレンをフラッシュはこう評した。


「優等生……って感じじゃないみたい」

「家族と友人を悪魔に殺されたそうだ。以来、あいつは悪魔を見つけて殺すことしか考えていない。とんだ狂戦士バーサーカーだぜ」

「ふーん……」


 グレンバーンは蛇の尾を両手で掴むと、その巨体を振り回した。


「おぉおうらああああっ!!」


 そしてそのまま悪魔をアスファルトに叩きつける。さらに、もう一度。グレンバーンが悪魔を道路へ叩きつけるたびに、地震のようにビル街が揺れ、窓ガラスが割れた。蛇の口から泡が出たところで、グレンはとどめを刺そうとする。


「だああっ!!」


 グッタリとする蛇の首に馬乗りになり、その頭部に手刀を浴びせるグレンバーン。だが、蛇の悪魔は苦痛に悶えながらも、徐々にその胴体を持ち上げる。


「あっ!バカっ!」


 フラッシュがそう口にした時には、蛇の悪魔はその長い胴をグレンバーンに巻き付け、締め上げていた。そのまま獲物の骨を砕き、丸呑みにするのが蛇の捕食方法だ。姿が隠れたグレンバーンの体から、ミシミシという骨がきしむ音が聞こえてくる。蛇の悪魔は勝利を確信したのか大口を開けて迫ったが、自分の体から急に出始めた煙にむせた。ライガーは、まさかとばかりにつぶやく。


「あいつ……もしかして!?」

「伏せるのよ、ライガー!」


 そう言ったフラッシュ本人もまた、ビルの陰に身を隠した。やがて二人が想像した通り、蛇の悪魔を中心にして爆発が起きた。


「はあああああああ!!」


 グレンバーンが自らに熱エネルギーを集めて放射したといえば、聞こえはいい。だが、それはほとんど自爆のようなものだった。蛇の体が爆発によって四散し、肉片があちこちに飛び散っている。しかし、そのどれもがグレンの周囲だけにとどまっているようだ。彼女を囲うように、青いトランプ型の結界が展開されているからだ。


(これはグレンバーンの能力ではない……誰か他に、結界を操る魔法少女が近くにいるんだ)


 ビルの陰から顔を出したフラッシュはそう分析する。グレンバーンはさすがに疲れたのか、その場にあぐらをかいて座った。


「おう!ずいぶん派手にやったもんだなあ!ああ!?」


 立ち上がったライガーが、そんなグレンバーンに近づいていった。()()()()()()()()の被害を防ぐための結界も、この時には消えていたのだ。


「俺たちの縄張りに入ってきて獲物を横取りかよ!」


 ライガーなど眼中になかった様子だったグレンバーンが、今初めてそこにいると気づいたように、顔を持ち上げた。悪魔と戦っていた時とは違い、その瞳から光が消えている。


(なるほど、狂戦士バーサーカーか……)


 フラッシュは、ライガーがそう評したのも納得だと思った。


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