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熊猫にこんばんは

 敵集団に突入したグレンバルキリーは燃えるロングソードを振り回し、ハサミライオンの集団を斬り伏せていった。はっきり言って、グレンバルキリーの敵ではない。しかし、数が多いと話は別だ。


「囲め!囲め!」


 ハサミライオンたちは仲間の死に怯むことなく、バルキリーへの包囲攻撃を続けた。


 ガンタンライズの方は、最初から苦戦を強いられていた。


「うわっ!?」


 ハサミライオンの攻撃により、ライズが背中を負傷する。なぜか出血しないのは良いとしても、ダメージを負うことに変わりはない。


「くっ!」


 ライズは空中へと逃れた。空を飛べることは、ハサミライオンたちに対しては大きなアドバンテージだ。


「どららららっ!!」

「ルゥア!?」


 ライズが高みからバシバシと槍でライオンたちの頭を叩きまくる。槍という武器の都合上、一体を突き刺せば、その間に周りから袋叩きにあうのは必定。よって空中からリーチを活かして頭上を攻めるのは合理的ではあるが、中には脳震盪を起こす個体はいても、決定力には欠けていた。


「無理をしてはいけません!ライズさん!」


 そうバルキリーが叫ぶ。


「集団戦はアタシが引き受けます!ライズさんは群れからはみ出した個体を一匹ずつ狙ってください!」

「でもキリがないよ!」

「リーダー格がいるはずです!そいつを倒せば、こいつらの統率は乱れるはず!その時こそ逆転のチャンスです!」

「えっ……?」

「逆転……今アタシ、逆転と言いましたか……!?」


 バルキリーは自分の言葉選びに不安をおぼえた。自分はハサミの悪魔たちに勝てるつもりでいるが、本能では命の危険を感じているというのか。


「あっ!?」


 ハサミの悪魔と幾度も打ち合いをしていたバルキリーのロングソードが、ついに根本から折れた。それをチャンスとみたハサミライオンの内の一体が集団に命令する。


「今だ!ヤツを殺せ!!」

「ルルルルゥア!!」


 四方八方から、ハサミライオンたちがグレンバルキリーに飛びかかった。しかし、まだバルキリーには奥の手がある。


「まだ終わっていません!」

「ルゥア!?」


 バルキリーの甲冑が内側から爆発するように弾け飛んだ。甲冑の破片を受けて、ハサミライオンたちが吹き飛ばされる。だが、もうこの手は使えない。身軽なドレス姿になった代償として、防御力を失ったのだ。折れたロングソードを捨て、両手に炎をまとわせるグレンバルキリーには、もう後がない。


「バルキリーちゃん!」

「近寄らないで!こいつらは、アタシが燃え尽きようと……おおおおっ!!」


 バルキリーが豪快なラリアットでハサミライオンの一体を昏倒させ、その両足を抱えてジャイアントスイングをしかける。


「ギェエエエ!?」


 振り回されながら体を炎上させる個体が群れに放り投げられ、さらに何体かのハサミライオンの体にも火がついた。しかし、バルキリーの後ろから走ってきたハサミライオンが、彼女の背中にショルダータックルをみまった。


「痛っ!」


 バルキリーが前のめりに倒れる。対集団戦においては致命的な隙だ。


「殺せ!!殺せ!!殺せ!!」

「やらせるもんか!!」


 ライズは槍を構えてバルキリーを狙うハサミライオンへ突進した。


「ウグッ!?」


 槍の先が、一体の胸を深々と貫く。されどその個体は、致命傷を受けてなお槍の柄を片手で握り、決して離そうとしない。


「そんな……!?」


 ここまでなのか。攻撃手段を失ったガンタンライズに向かて、側面からハサミライオンが突進してくる。咄嗟に槍を手放すことすらできないライズは、迫るハサミを前にして、思わず目を閉じた。


 人は死ぬ寸前に走馬灯を見るという。一説によると、そうやって記憶を総ざらいし、生きのびる手段を見つけるためだそうだ。

 ガンタンライズ/糸井アヤもまたそれを見た。父の顔を。そして、祖母の石坂カコ。彼女から見せられた古いアルバムで微笑む母、糸井ノアの顔も脳裏をよぎる。


『アヤちゃんも、私のこと忘れないでね』


 そんな懐かしい声も聞こえてきた。祖母が住む田舎で知り合った少女、石坂ユリが懐かしい。


『もちろんだよ!私たち、もう親友じゃん!』


 アヤはそう答えた。


『うふふ、親友かぁ』


 しかしその思い出の光景が、まばゆいフラッシュで覆われ、見えなくなった。石坂ユリの声だけが心に響いてくる。


『今度は私の方から城南に行くからね。その時には、きっと私も魔法少女になっているから……』


 フラッシュは現実で起きていた。

 閉じたガンタンライズの瞼を通してさえ、強い光が網膜を刺激する。


「えっ?」


 目を開けたライズが見たのは、どういうわけか倒れるハサミライオンである。


「ドウした!?」


 困惑したのはハサミライオンも同じらしい。


「いいからハヤく!!こいつらを殺し……」


 そう口にしかけた一体の頭を、レーザー光が貫く。ガンタンライズもまたハサミライオンたちと一緒になって、キョロキョロと辺りを見回した。もちろん、グレンバルキリーの仕業でもない。地面から立ち上がった彼女もまた、不思議そうに見ている。


「ルゥガッ!?」

「アガッ!?」


 そうしている間にも飛んでくるレーザー光が、狙撃手の弾丸のようにハサミライオンをバタバタと倒していった。


「バルキリーちゃん!」

「ライズさん!」


 二人の閃光少女は、ひとまずお互いの無事に安堵する。


「これ、何!?」

「わかりません。ですが、この攻撃……悪魔だけを狙っているようです。ということはアタシたちの味方でしょうか……!?」


「その通りだよ!」


 もう一人の少女の声が橋の下から聞こえてきたかと思うと、彼女は巨大な水しぶきをあげながら、橋の上へと跳躍してきた。


「久しぶりだね!親友!」

((え?誰?))


 ライズとバルキリーが同時にそう思った。ふわふわのショートヘアをした、白黒のゴシックロリータ風ファッションの愛らしい少女に、二人とも見覚えはない。だが、彼女の右手に輝く、太極図を模した宝石のついた指輪が、ただ一つの事実をライズたちに伝えていた。


「何の事かわからないけれど……この子、魔法少女だよ!」

「助けに来たよ!親友!」

「えっ!?私!?」


 その魔法少女は、どうやらガンタンライズを知っているらしい。


「説明は後で!今はこいつらをやっつけないと!」


 そういうとゴスロリの魔法少女が人差し指をハサミライオンに向ける。


「バン!」


 児戯のような擬音オノマトペとは裏腹に、指先から放たれたレーザー光が容赦なくライオンの頭を貫いた。


(どうやら、味方と考えてよさそうですね)


 そう思ったバルキリーがゴスロリの魔法少女に尋ねた。


「アタシは閃光少女のグレンバルキリー!教えてくれませんか!あなたの名前と目的を!」

「クマネコフラッシュ」


 魔法少女がそう答える。


「閃光少女の目的はただ一つ!悪魔を倒すことだよ!」


 クマネコフラッシュがそう宣言すると、彼女の周囲に、白い猫と黒い熊のぬいぐるみが浮かんだ。


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