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全ての女性が望む時、合言葉はグレントリガー

 当然ながら、ユウヤミサイレンスの回復魔法によってアカネもダメージが回復していた。


「痛たたたた!」


 ユウヤミ改め変身を解除した一文字ツバメに、右手のガムテープを乱暴に剥がされたアカネが顔をしかめた。


「ガマンしてよー!だれかの痛みを引きうけるのが閃光少女のしごとだろー?」

「それなんだけど……」


 アカネが右手を振りながらユウヤミに改めて問う。


「本当に、アタシが閃光少女なの?その……助けてくれたあなたを疑うのは申し訳ないけれど、夢みたいな話で……」

「というより、今が夢なんだよ」

「えっ?」

「アカねーちゃんは今、夢をみているのだ!」

「今、アタシが見ているのが……夢?」


「お姉さーん!!」


 遠くからそんな声が聞こえ、アカネが視線を向ける。妹のモミジがアカネを見つけ、慌てて走ってくるところだった。


「あの子、本当は死んでるんだよ」

「は?」

「アカねーちゃんは、あの子を悪魔に殺されて、かたきをとるために修行してグレンバーンになったのだ」

「…………」

「さあ」


 ツバメが何かをアカネに差し出す。その手に乗っているのは、薬でも入っているのだろう、赤いカプセルであった。


「これを飲むと現実にもどれるよ。はやく帰って悪魔と戦わないと」

「……嫌」

「え?」


 今度はツバメが困惑する番だった。


「モミジが死んだなんて……冗談でも、そんなこと言わないでよ」

「冗談でこんなこと言うわけねーのだ」

「ありえないわよ……これが夢だなんて……そんなの絶対おかしいわ!」

「あーそういうことか。アカねーちゃん、この都合がいい世界を気に入っているな?だから本当のことを受け入れたくないんでしょ」

「……ええ、そうよ」


 開き直ったようにそう言うやアカネは、駆け寄ってきたモミジと抱き合った。モミジが目にうっすらと涙を浮かべて口にする。


「良かった。良かった。姉さんに何かあったら……アタシ……!」

「ええ。ごめんね、モミジ。もう勝手にどっかへ行ったりしないから」


 面白くないのはツバメである。


「アカねーちゃんのバカー!もう勝手にしろー!」


 プリプリ怒ってツバメがアカネたちに背を向ける。だが、数歩踏み出したところで、ツバメはふらふらと倒れてしまった。


「あ!君、大丈夫!?」


 モミジが驚いてツバメに駆け寄る。アカネも続いた。


「ツバメちゃん!もしかして、あなたの魔法は、自分のダメージは回復できないの!?」

「お姉さん、魔法って……?」

「事情は後で話すわ」

「そうですね」


 モミジは軽々とツバメを持ち上げた。こう見えて、この双子の妹も姉と同じくらいパワフルだ。


「まずは、この子を手当てしましょう」


 普通は救急車では?という考えが、アカネの脳裏をよぎる。だが、それは一瞬だけ。アカネの心がその提案を受け入れると、場面が急に切り替わり、アカネたちは自分たちの部屋へ戻っていた。アカネはそれを不思議とも思わない。


 気がつくと、モミジがすっかりツバメの手当てを終えていた。


「お姉さん、一体何があったのですか?」

「実は……」


 アカネは今までの出来事をモミジに説明した。といっても、この世界が夢で、モミジが本当は死んでいるなどという話はしない。それに、なぜ自分が糸井家に行ったのかアカネにはわからないので、説明しようがなかった。

 蜘蛛の魔女との死闘を黙って聞いていたモミジは、やがて目をつりあげて、静かだが断固とした口調で言った。


「今度から、アタシの目が届かないところへ行かないでくださいね。いつもアタシのそばに居てください。姉さんが……どこか遠いところへ行ってしまいそうで、アタシ……すごく怖かったんですから」

「遠いところへ行く……それって、死ぬってこと?」


 アカネがそう口にすると、モミジの目から涙がこぼれた。アカネはすぐにモミジを抱きしめる。


「アタシは遠くへ行ったりしないから……モミジと、これからもずっと一緒だから……」

「……姉さん、震えてる?」

「……今になって、怖くなってきたのよ……ああ、ダメね……体の震えが止まらないわ……」

「待っていてください」


 自分の部屋に引っ込んだモミジが、水の入ったコップと、青いカプセルを持ってきた。


「これは?」

「以前アタシが飲んでいた抗不安剤の残りです。とりあえず、一錠だけ」


 アカネは言われるがままに、そのカプセルを飲んだ。


「あ、すごい。本当に震えが止まったわ」

「お姉さんったら単純なんですから。そんなにすぐ効くわけないじゃないですか」

「あー……」


 結局またアカネは体が震えだした。モミジがテキパキと布団を床にひく。アカネが普段使っているベッドにはツバメを寝かせているため、今夜は姉妹二人で同じ布団に寝るのだ。


「なんだか、子どもの頃を思い出しますね。二人で、よくこうやって寝ていましたね」

「……うん」


 すっかりしおらしくなったアカネを抱き寄せたモミジが頭を撫でながら耳元に歌う。


「こんにちは、アカちゃん。アタシがママよ~」

「ふふっ、ふっ……!」


 アカネが別の意味で体を震わせた。


「笑わせないでよ、モミジ」

「ごめんなさい、お姉さん」


 そう言うモミジも笑っている。


「こんな日が続けばよかった……」


 モミジは意味深にそうつぶやいた。


 現実世界のアカネもまた、ジュンコのベッドで眠り続けていた。テレビ局から帰ってきたカエデが、グレンバーンの指輪をそっとアカネの指に戻す。この指輪の持ち主はアカネだ。アカネの手を握り続けながらも、カエデの表情は険しい。それは、幸せそうに微笑んでいるアカネとは対照的だった。


「不服そうだね、カエデ君」


 そう後ろからジュンコが声をかけた。


「まあ、そうだろう。君の大好きなアカネ君は、君をほっといて夢の世界で楽しくやっているんだから」

「……ジュンコさん」


 カエデが振り向いた。


「アタシは鷲田アカネを好きになるように、鷲田アカネから好かれるようにデザインされました」

「そうらしいな」

「そして、アタシはアカネさんのために戦うつもりです」

「ふむ」

「ジュンコさん……それじゃあ、アタシの意志って何なのでしょうか?アタシには、自由な意志というものが無いのでしょうか?ただ、そう造られた通りに流されるだけなのでしょうか?」

「ふーむ?君が主観的に幸福だと思う道を行けば、私はそれでいいと思うが……」


 ジュンコなりに頭をひねり、やがて口にする。


「君の愛を拡大できるか試してみたらどうだい?」

「愛を拡大する?」

「そうさ。アカネ君への愛を、君自身への愛に。そして、君たちの周りの者たちへの愛に。どんどん拡げていくのさ。もしも君の愛が、大きな人類愛まで拡げられたとして、アカネ君のためでもあり人類のためでもある選択を君が選べるとしたら……いや、むしろアカネ君を犠牲にしてでも人類のために何かを為せるとしたら……君は、全ての女性が望む物を手に入れるだろう」

「全ての女性が望む物?なんですか、それは?」

「自分の意志さ」


 そう言ってジュンコは、赤色と青色が太極図のように溶け合った宝石の輝く、魔法少女の指輪をカエデに差し出した。この指輪の持ち主はカエデだ。


「アケボノオーシャンが予告したのは午後4時。いわゆる幽霊ビルの屋上で待機していれば、メグミノアーンバルが何かを仕掛けてくるだろう。ツグミ君とサナエ君が動きやすくなるように、派手に迎撃しようじゃないか。心の準備をしておきたまえ、トリガー」

「トリガー?」

「そうだ。君にも魔法少女としての名前が無いと不便だから、考えたのさ」


 カエデは少し戸惑いながらも、魔法少女の指輪をそっとはめた。


「グレントリガー。魔法少女としての君を、我々はこれからそう呼ばせてもらうよ。生憎だが、拒否権はないぞ。もうみんなで決めたことさ」

「グレン……トリガー……」


 そうつぶやいたカエデの体が、赤い炎と青い光に包まれる。


「アカネさんは……グレンバーンが守りたかったものは、必ずアタシが救います……!」


 右半身が赤色、左半身が青色のドレスに包まれたカエデ……魔法少女グレントリガーがぐっと右手を握りしめた。


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