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信念の強さを求める時

 偽グレンは本物へと駆け寄ると、すぐさま跳躍して胴回し回転蹴りを仕掛ける。それを避けたグレンが起きあがろうとする偽グレンに回し蹴りを合わせるが、偽グレンは両腕を十文字にクロスしてそれを受けた。逆に偽グレンがグレンの軸足を下段回し蹴りで刈り払い、倒れたグレンの顔面に瓦割りを仕掛ける。グレンが横向きに転がって逃れると、代わりにその下にあった道路が砕けた。


「……やるわね」

「もう一度言うわ。アタシたちは、あんたたちより能力が上回るよう調整されているって」


 立ち上がったグレンと、不敵に笑う偽グレンが睨みあった。


「そっちはまかせたでぇ!グレンちゃーん!」


 本物のサイクロンがそう言って、偽物のサイクロンに拳を構える。


「こいつはウチが直々にぶっ飛ばしたる!」

「ちょっと待つやで、もう一人のワテ」

「なんや?怖気づいたんかい?」

「これから戦う相手に背中を向けるのは感心せんやで」

「は?」


 サイクロンが拳を降ろす。


「なんのことや?ちゃんと正面を向いてるやないかい」

「えっ?背中向けてみて」

「こうか?」

「正面向いて」

「うん」

「一緒やでー!」

「やかましいわ!!ボケ!!」


 暗にボディーに凹凸が無い事を指摘されたサイクロンがキレた。


「…………」

「それで、なんでオーシャンはウチにピッタリくっついとるんや!?」

「だって、君と君の偽物は区別がつくけれど、私と私の偽物は区別がつかないんだもの」

「そっかー」

「それに……」


 アケボノオーシャンがサイクロンの耳元にささやく。


「街のみんなを守るために結界を張っているから、あんまり多くは結界が出せないんだよ」

「あとどれくらい出せるんや?」

「これくらい!」

「うわっ!?」


 サイクロンの目の前に畳ほどの大きさをしたトランプ型結界が拡がる。結界は、偽オーシャンが飛ばしてきた無数の光の刃を防いだ。


「だから、ねえ、いいでしょ?私の……そばにいてよ。ね?」

「わ、わかった。わかった」


 サイクロンはこくこくとうなずいた。偽オーシャンからの攻撃を、本物のオーシャン抜きで防ぎきる自信は無い。


「せやけど、出せる結界は一枚だけか……それなら本物の方がメチャクチャ不利やないか」

「それもそうだけど、それはどうかな?」


 本物と偽物のアケボノオーシャンが、まるで鏡写しのように笑みを浮かべた。


 鏡写しといえば、こちらも負けてはいない。二人のグレンバーンは、お互いに炎のヌンチャクを取り出して打ち合い、文字通り火花を散らしていた。


「おらあっ!!」

「!?」


 偽グレンのヌンチャクが本物の方の頬を掠める。皮膚がパックリと裂け、血が流れた。グレンが傷口に触れ、血の味を確かめるように舌でその指を舐める。


「ふふっ!やはりアタシの方が強いわね!このままぶっ殺してやるわ!」

「それはどうかしらね?」

「なに!?」


 本物のグレンバーンが炎のヌンチャクにもう一本、赤熱した棒を付け足す。炎のヌンチャクは燃える三節棍へと変わり、ヌンチャクの射程距離外から偽グレンを襲った。


「きゃあっ!?」


 一方、偽アケボノオーシャンは自分の周囲に無数のトランプ型結界を浮かべる。


「卑怯だなんて思わないでよね。群衆を守るために結界を張っているのは君の勝手な都合なんだから。もっとも、仮にそうしていなくても私は君より多くの結界を張れるんだけど」


 偽オーシャンのトランプカッターが、本物のサイクロンとオーシャンに向かって殺到した。先ほどは直線的な軌道だったので結界一枚で防げたが、今度は左右からも回り込んでくる。


「ど、どないすんや!?オーシャン!!」

「逃げよう、サイクロン」

「えっ?」


 オーシャンは後ろからサイクロン襟を掴んで、群衆と自分たちを隔てる結界まで引っ張る。すると、大きなトランプ型結界が裏返り、まるで忍者扉、あるいは回転ドアのようにサイクロンとオーシャンを外に出した。


「なにっ!?」


 偽オーシャンのトランプカッターは結界に阻まれて二人に届かない。本物のサイクロンとオーシャンはうなずき合うと、お互いに結界の外周を反対方向へ走った。二人の姿は、群衆に隠れて見えなくなった。


「結界の外から奇襲をしてくる気やで!」

「わかっているよ!人間どもの視線を追うんだ!奴らはそこにいる!」


 残された偽物のサイクロンとオーシャンがそう口にする。そんな二人の間を、本物のオーシャンの結界が遮った。


「なんやで!?」

「もう一人の私の仕業だよ!すでに出ている結界が迷路のように動いて……!」


「うらーっ!!」

「うっ!?」


 再び外の結界が回転ドアとなり、突入した本物のサイクロンが偽サイクロンに殴りかかった。オーシャンなりのシャレなのか、二人を囲む空間は四角いリング状に変形している。


「君の相手はこっちだ!!」

「ちっ!!」


 偽オーシャンのすぐ後ろにあった結界が裏返る。そこにアケボノオーシャンの姿を見た偽オーシャンは、すぐさま無数の光の刃を叩き込んだ。オーシャンの姿にヒビが入る。


「あっ!!」


 偽オーシャンが攻撃をしたのは、大きな鏡であった。それに気づいた時には、本物のオーシャンが、彼女の耳元にささやけるほど背後に近づいていた。


「君たちが壊した洋服店から借りてきたのさ。私と似すぎていたのが仇になったね」

「くそっ!!」


 偽オーシャンは手に直接トランプカッターを持ち背後に斬りかかる。本物のオーシャンは盾のように結界を展開してそれを防いだ。その瞬間、偽オーシャンの首筋に鋭い痛みが走る。


「馬鹿な……結界はあと一枚しか張れなかったはず……!?」

「残念だったね偽物さん。私は、どうやら君より多くの痛みを知っているらしい」


 偽オーシャンがアケボノオーシャンの手に握られたカミソリに気づいたのは、彼女が首からおびただしい血を流しながら倒れる寸前のことであった。


「あんたも……人の痛みを知れ」


 サイクロンとその偽物との戦いも決着が近づきつつあった。


「ぜぇ……はぁ……」


 偽サイクロンが肩で息をしている。最初こそ本物を上回るパワーで押していた偽物であったが、サイクロンがフットワークを生かしたアウトボクシングスタイルへと変わると、徐々にそのスタミナ不足を露呈したのだ。


「くそっ!!何者の仕業か知らんけど、ウチの偽物だけテキトーに作りすぎや!!」


 むしろ本物のサイクロンがそれに腹を立てている。


「うおおーっ!!」

「うららーっ!!」


 偽サイクロンが最後の力を振り絞って突進をしかける。右ストレートで迎撃しようとするサイクロンに、偽サイクロンが左クロスカウンターを重ねた。それを感じた本物は、右手を跳ね上げてそれを阻止した。


(ダブルクロスで勝負やでー!!)


 と偽物が右拳を突き出す。だが、その勝負にサイクロンは付き合わなかった。偽物の拳が宙を切ると、顎の下から生じた鋭い殺気が、偽サイクロンを戦慄させる。


「うらああっ!!」


 ダッキングしていたテッケンサイクロンの右アッパーカットが偽サイクロンの顎にクリーンヒットした。


「うわーーっ!?」


 うわーーっ!?……うわーーっ!?…………うわーーっ!?………………


 そんなエコーを残しながら偽サイクロンは高々と打ち上げられ、やがて地面へと叩きつけられた。テッケンサイクロンは右の拳を天に突き上げたまま口にした。


「テンカウントは必要あらへんな」


 二人のグレンバーンたちの戦いもクライマックスが近づいていた。


「ぐあああっ!?」


 炎の三節棍が偽グレンの頬を歪める。ヌンチャクと三節棍では、遠くから攻撃できる三節棍の方が有利であった。


「くそっ!!近づけさえすれば勝てるのに……!!」

「本当にそう思う?」

「えっ?」


 本物のグレンバーンが三節棍から一本棒を取る。すなわち、ヌンチャクへと戻した。


「ほら。これなら同じ距離で戦えるわよね?」

「……ぶっ殺す!!」


 偽グレンが炎のヌンチャクを振り回しながら本物へと打ち掛かる。本物のグレンは、四本目の棒を取り出すと、それを三節棍から外した棒へ、炎の鎖で連結させた。


(ダブルヌンチャク!?)

「うおおおおっ!!」


 グレンバーンはそれらを高速で振り回す。


「おらおらおらおらおらおらああっ!!」

「げっ!?ぶっ!?べっ!?がああっ!?」


 ヌンチャク一本で勝てる道理は無かった。偽グレンは瞬く間に何度も打ち据えられ、その場にへたりこむ。


「馬鹿な……アタシは……あんたよりも能力が上回るように調整されて……!」

「たしかに、そのようね。どうやってそうしたのか知らないけれど、でも、データが古いみたいよ」

「データが古い……!?」

「アタシたちは、いつだって進み続けているわ。自分の信じる強さを求めて。でも、あんたたちはどうなの?信念の無い強さは、本当の強さとは言えないわ。借り物の力では、永遠にアタシたちには追いつけない」


 偽グレンはハッとして辺りを見回した。偽オーシャンも、偽サイクロンも、本物たちに倒されていた。残っているのは自分一人だけだと、この時やっと気づいたのだ。


「それに……あんた、悪魔なのよね?本物のアタシは『ぶっ殺す』だなんて言わないのよ。悪魔を相手にした時は、今まで一度だってね……」


 本物のグレンバーンの瞳の奥に、黒い炎が見えた気がした偽グレンが青ざめた。


「ひいいいいっ!?」


 偽グレンの背中から、昆虫のような透明な羽が伸びる。けたたましい羽ばたき音を出しながら、偽グレンは空を飛び、そこから逃げ出した。本物のグレンバーンは、自分も羽を出すことにした。


「はああぁぁぁ」


 グレンバーンが気合を入れると、彼女の背中に6本の細い羽が伸び、羽の先をなぞるように丸い日輪が浮かぶ。そして真紅の籠手が炎に包まれた。そのまま両腕をそれぞれ天地に向け、大きく円を描くように回す。円の中心に火球が生まれると、グレンはそれを掴み、ドッジボールを投げるように構えた。


「おらあああっ!!」


 グレンバーンが投げた火球がまっすぐ、空を飛んで逃げる偽グレンバーンへ飛んでいく。


「ダメや!グレンちゃん!あいつ、炎に耐性があるで!」


 サイクロンにそう言われたグレンがうなずく。


「ええ、きっとそうでしょうね。あいつがアタシのコピーというのなら、当然そうでしょうとも」


「くっ!?」


 グレンバーンの攻撃に気がついた偽グレンが、振り向きながら両腕をクロスさせ、火球を防御する。火球は空中で大爆発したが、偽グレン本体には軽度のダメージしか入らなかったようだ。

 だが、地上にいるグレンバーンがつぶやく。


「でも……アタシにあんな虫みたいな羽はついていないわ。あの羽がアタシの炎に耐えられるかしら?」


「げーっ!?」


 果たして、その通りだった。爆発で散った炎は、偽グレンの背中に生えた羽をボロボロに焦がしていた。


「ああああああああっ!?」


 本物のグレンバーンは、偽グレンが墜落する悲鳴を耳にしながら、くるりと背を向けて、残心のポーズをとる。


「やれやれだね」


 オーシャンがそうつぶやきながら指をパチンと鳴らすと、展開していた結界が全て消えた。


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