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ギャラリーが湧いた時。来たぞ我らの……

 群衆と戰場を仕切る結界がビリビリと震える。だが、群衆は逃げるどころか、ある者はカメラを構え、ある者は目を見開きながら、この閃光少女同士の戦いを見逃すものかとばかりに結界の側に張り付いている。


(この状況……)


 テッケンサイクロンはギャラリーの存在に慣れているのだろう。意に介すことなく殴り合いを続けている。だが、アケボノオーシャンは別の事を考えていた。


(あまりにも、似ている。今年の4月にあった事件に……!)


 その日もアケボノオーシャンとグレンバーンが出動したのだ。同じように、駅前で暴れていた蜘蛛の悪魔を倒すために、である。悪魔は無事に駆逐されたが、それは閃光少女をおびき出すための罠であった。一緒に出動したガンタンライズ/糸井アヤが追跡され、そして家族を惨殺されたあげく拉致されている。一連の事件を裏で操っていたのが、誰あろう、最強の閃光少女と呼ばれるオウゴンサンデーだ。


(やっぱり彼女の仕業だよね~。でも、なぜ今、同じことを?)


「死ねっ!!」

「なんの!」


 偽グレンバーンが指先から火炎放射を放つが、サイクロンはそれを突風で押し返した。炎は逆に偽グレンを包む。勢い余った炎が結界まで届くが、そこにいた群衆は逃げるどころか、感嘆の声をあげて拍手までしている。


「……パチモンのくせになかなかやるやないか」

「…………ふっ」


 炎の中から再び姿を現した偽グレンには、まるでダメージが無さそうであった。


「当然でしょ。アタシたちこそが本物なんだから」

「なんやと?」

「勝った方が本物で、負けた方が偽物になる。当然でしょ?アタシたちは、あんたたちより能力が上回るように調整されているの」

「……ちょっと待ちぃや。さっきから、アタシ()()言うとるのはどういうことや?」


 サイクロンの後ろで控えているアケボノオーシャンに誰かが声をかけた。


「ねぇ、アケボノオーシャン。結界を解除してくれない?もっと近くに行きたいじゃん」


 オーシャンは野次馬には慣れっこだ。しかし、さすがに呆れて、声がする方へと振り返る。


「あのねぇ。私がこうやって結界を張っているのは、君たちの安全を守るためで……」


 そこまで口にしてオーシャンは息を呑んだ。相手は続ける。


「ねえ、いいでしょ?結界……解除してよ。ね?」


 サイクロンが再び偽グレンに突っ込んでいく。サイクロンの左フックをかわしながら、偽グレンは左下段回し蹴りでサイクロンの足を止めると、そのまま右の後ろ蹴りでその体を吹き飛ばした。


「くっ!?」

「うわあああっ!?」


 サイクロンの体に押し倒される形となった群衆が悲鳴をあげる。


「えろう、すんまへん!……って、なんや!?オーシャン!なんで結界を消したんや!?」

「……こっちを見たらわかるよ」

「えっ?」


 起き上がったサイクロンが見たのは、背の高い少女の首元に、青く光るトランプ形の結界を突きつけているアケボノオーシャンであった。あの結界が鋭いカッターにもなることは、サイクロン自身が先ほど見た通りだ。そして、そんなアケボノオーシャンを睨む、もう一人のアケボノオーシャンを見て、サイクロンはやっと事情を把握した。


「お前もパチモンやな!アケボノオーシャンの!」

「ふふふ」


 偽オーシャンは偽グレンの側まで人質の少女を引っ張っていく。偽グレンは、


「でかしたわ!」


 と言って、その人質を自分が引き取った。


「残念ねぇ!悔しいわよねぇ!だって、ここなら人質が取り放題ですもの!」

「ちっ!」


 本物のオーシャンが舌打ちをする。そんなタイミングで、サイクロンは空気を読まずにどうしても気になる質問をした。


「なあ、ウチのパチモンはおらんのか?」

「ちょっと、今はそういう場合じゃ……」

「いやーおるんならおるで出てきてもろうた方がええやろ。さもないと、また意表を突かれるで?」


 偽グレンは答えた。


「いるわよ」

「あ、おるんや!」

「出てきなさい!サイクロン!」


 その声に答えて、赤いラインの入った白いドレスの少女がムーンサルトをしながら跳躍してきた。偽グレンの側でヒーロー着地を決める。


「……待たせたやで」

「はああああ!?」


 サイクロンは自分の偽物に激怒した。


「全然似とらんやないかい!!なんやそのブサイクな面は!!なんやそのたるんだ体は!!なんやそのとってつけたような『やで』は!!関西人舐めとんのか!!」

「調整する時間が足りなかったやで。ごめんやで」


「と、とにかく!」


 偽グレンが話を進める。


「この女を殺されたくなければ、大人しくこの場で死ぬことね!」

「くそーっ!そんなことされたら手も足もだせへんぞ!けどウチのパチモンだけは今すぐぶっ殺したいわー!」


 そう口にするサイクロンに向かって、人質の少女が叫んだ。


「アタシは死んでもかまいません!そうしてください!」

「なんやて!?」

「あなたたちが殺されたら、誰がこの人たちを倒すのですか!?戦ってください!アタシの命を無駄にしないでください!!」


「こいつ!生意気なことを……」

「うっ!?」


 偽グレンが人質の少女の首を絞め上げる。だが、グレンと同じくらい背の高いその少女は、護身術の心得があるらしい。すぐさま偽グレンの脛を蹴って意識を下に向けると、首にかかった手を外し、顔に掌打を当ててすぐさま逃げ出した。


「まずい!あの子を助けないと!」

「せやな!」


 そんなオーシャンとサイクロンの前に、偽物の二人が立ちはだかる。


「悪いけど、そうはいかないよ」

「邪魔はさせんやで」


「アッ!?」


 人質の少女が背後から偽グレンの前蹴りを受けて倒れた。


「ますます生意気ね……別に人質はあんたである必要はないわ。今すぐ、望み通り殺してあげるわよ!」

「うっ……!」


 偽グレンが右拳を振り上げる。人質の少女は両腕で自分を庇っていたが、いつまでたっても攻撃は飛んでこなかった。


「あーあー……」


 事態に気づいた本物のアケボノオーシャンがつぶやく。


「このシチュエーション……絶対にテンション上がってるよね。偽物たちにはお気の毒様、だけど」


「なっ!?誰よ!?離しなさい!!」


 偽グレンのそんな声を聞いた人質の少女が、恐る恐る両腕を顔の前から下ろす。偽グレンの両腕を、誰かが背後から掴んでいた。8月だというのに黒いレインコートで全身を覆った、その背の高い人物は、右手を離して偽グレンの体を回し、自分に正面を向かせる。そして、空いている右手を手刀の形にすると、偽グレンの左側頭部にそれを叩きつけた。


「おらああっ!!」

「ぎゃああっ!?」


 悲鳴をあげたのは偽グレンの方である。どういうわけか、顔にヒビが入り、左目からは昆虫のような複眼が露出した。


「メッキが剥がれたようね」


 そう口にするレインコートの人物に偽グレンが叫ぶ。


「なんなのよ、あんた!?」

「見せてあげるわ。アタシの……」

「!?」


 レインコートの人物が精神統一のためにする空手の型は、そのまま偽グレンへの攻撃となった。瞬く間に複数の正拳を偽グレンに叩き込み、そして叫ぶ。


「変身!!」

「うわっ!?」


 レインコートの内側から炎が巻き起こり、それが偽グレンを吹き飛ばした。燃えるレインコートの下から姿を現したのは、真紅のドレスと、それに不似合いな無骨な籠手をつけた炎の閃光少女である。


「待っとったでぇ!グレンちゃーん!」


 本物のグレンバーンは、サイクロンの呼びかけに応えた。


「ええ、待たせたわね。さあ、こいつらを始末するわよ!」

「いい気になりやがって……よくも私の顔を……!」


 吹き飛ばされていた偽グレンが立ち上がる。


「絶対に許さないんだから!!」

「許さない……?」


 グレンが倒れている人質の少女を一瞥する。


「それは……こっちのセリフよ!!」

「それじゃあ、役者も揃ったところで第二ラウンドといこうか」


 アケボノオーシャンが指をパチンと鳴らすと、再び結界が出現し、群衆と自分たちを区切った。すでに自分たちへ近づきすぎている人質の少女だけは、ピラミッド型の結界で個別に閉じ込めておく。


「「うおおおおおっ!!」」


 この展開に湧き上がるギャラリーを本物のグレンバーンが叱責する。


「うるさい!!遊びでやってんじゃないのよ!!」


「うわっ、怖ぇ……!」

「でもよぉ、やっぱりこういうところが本物のグレンバーンだよな」


 ギャラリーたちは、グレンバーンを怒らせない範囲で彼女たちを応援することにした。


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