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たぶん、本当はわかっていなかった時

 某県、城南地区城南駅前。午後8時過ぎ。


 都会というほど込み入ってはいないが、田舎というほどでもないこの平凡な街には、今日も少なくない学生やサラリーマンの群れが往来を埋めていた。


「……あれはなんだ?」


 路上で自作の歌を披露していたミュージシャンの男性が空を見上げると、周りの者たちもつられて顔をあげた。

 それは火の玉のようだった。彗星のような赤い火の玉が、上空に尾を引いて飛んでいる。


「流れ星か?」


 しかし、その赤い球体が急速にこちらへ近づいてきたことに気づいた群衆は、悲鳴をあげて逃げ惑った。やがて、赤い火の玉のようなものは地面に激突し、轟音とともに道路に小さなクレーターを穿った。恐る恐る近づいてそれを観察したミュージシャンの男性は、やがて嬉しそうな歓声をあげる。


「グレンバーン……?閃光少女の、グレンバーンだ!」


 膝立ちの姿勢からゆっくりと立ち上がった赤いドレスの少女は、そんな男性を見つけてニッコリと笑う。


「こんばんは!少し驚かせてしまったかしら?」


「なんだなんだ?」

「閃光少女のグレンバーンだって!」

「え、マジで!?」


 逃げていた群衆は、今度は逆に赤いドレスの少女に群がっていく。交通を阻害された自動車のドライバーたちでさえ、怒るどころか興味津々であった。誰もが、手にした携帯電話のカメラで彼女を撮影する。


「うわ~背が高いな~」

「170センチあるわ」

「彼氏とかいるんですか?」

「いないわよ。忙しいもの」


 群衆からの質問に、グレンバーンらしき少女がそう答える。


「俺、ずっとファンだったんです!握手してくれませんか?」


 ミュージシャンの男性がそう言っておずおずと手を差し伸べると、炎の少女は快くその手を握った。


「そう言ってもらえると嬉しいわ。ありがとう」


 別の男性が横から彼女に聞いた。


「ところで、どうして今夜はここに?もしかして……悪魔がいるんですか?」


 魔法少女には、世間一般では二種類のタイプが知られている。悪魔と契約した魔女と、閃光少女だ。閃光少女の仕事は、人間に害を及ぼす悪魔を狩ることである。少女はうなずいた。


「ええ、いるわ」

「えっ、どこに!?」

「だから、()()にいるのよ」


「あの……グレンバーンさん?」


 赤い少女に手を握られている男性が、なにやら冷や汗をかいていた。


「もうそろそろ手を離してもらえないでしょうか?感激ですが……その……手を握る力がすごく強くて……」

「あなたたちって、本当に鈍感なのね」

「え、鈍感って……?」

「今宵ここにいる悪魔は……」


 赤い少女は男性の手を掴んだまま振り回した。


「このアタシなのよ!」

「うわああああっ!?」


 少女にそのまま投げ飛ばされた路上ミュージシャンが、ガードレールに体を激しく叩きつけられて気を失う。


「ちょ、ちょっと待って!」

「おらあっ!」

「げっ!?」


 回し蹴りで吹き飛ばされた男性が、洋服店のショーウインドウを突き破ってガラスを路上に散乱させた。現場はすぐさま騒然となり、群衆はたちまちパニックを起こした。


「はああぁぁぁ」


 赤い魔法少女が両手を合わせ、そこから火球を生成したのを見た自動車のドライバーは、慌てて車から転げ出る。


「おらあああっ!!」

「ひいいいっ!?」


 赤い少女がドッジボールのように投げつけた火球が車にぶつかり、爆発炎上した。ドライバーは頭を抱えてうずくまり、ただ祈るしかなかった。


「だ、誰か!!助けてくれぇ!!」

「助けですってぇ?閃光少女のアタシが人類に敵対したら、誰がアタシを止めると言うの?」


 赤い少女が、そんな悲痛な祈りを嘲笑っている時であった。


「待てい!!」

「!?」


 一台のオフロードバイクが、炎上する車を飛び越えてきた。白いボディに赤いラインが入ったバイクには、同じく白いドレスに赤いラインの入った、一人の少女が乗っている。


「あれは!?」

「テッケンサイクロンだ!!」


 そう言って群衆が彼女を指さす。大阪から来たクライムファイター、風の閃光少女テッケンサイクロンはバイクから降りると、赤いドレスの少女の前に立ちはだかった。


「天が呼ぶ!地が呼ぶ!人が呼ぶ!悪を倒せとウチを呼ぶ!ウチは正義の戦士!閃光少女テッケンサイクロンやーっ!!」

「……はぁ?」


 赤いドレスの魔法少女は、そんな仰々しい名乗りにあきれているようだ。そんな態度も意に介さず、サイクロンが彼女に語りかける。


「グレンちゃーん、一体どないしたんや?急に町で破壊活動してからに。なんか悩みでもあるんか?」

「アタシの邪魔をしたいのなら、あんただって殺すわよ!」

「実はウチもな……」


 サイクロンは無防備に近づいた。馴れ馴れしく、赤いドレスの少女の耳元にささやく。


「英語の小テストの点数が悪かったんや……後でメイド長のキャサリンからの特別授業が待っとるかと思ったら気が滅入るでぇ。グレンちゃんは、数学が悪かったんやっけ?」

「おらあっ!!」

「ぐええっ!?」


 みぞおちに渾身の正拳突きをくらったサイクロンが吹き飛ばされ、激突したカラオケボックスの看板を破壊した。


「痛たたたた……いくらなんでも、こがいに強うどつかんでもええやろ!グレンちゃん!」

「気をつけて!テッケンサイクロン!」


 上空からそんな声が響く。天から降り注ぐ光のカッターが赤い少女を狙ったが、彼女は後ろ向きに宙返りをしながら跳躍し、それを避けた。上空にいる、青い奇術師の衣装をまとった閃光少女アケボノオーシャンは、自分を乗せて飛んでいる結界を消して地上へと降りた。


「おお、あんたはアケボノオーシャンやな!」


 テッケンサイクロンが嬉しそうにそう言いながら立ち上がる。


「ウチはテッケンサイクロンや!直接会うのはこれが初めてやな!」

「よろよろ~サイクロン。それより……こいつはグレンバーンではない!」


 アケボノオーシャンから指をさされた偽物のグレンバーンは、不敵な笑みを浮かべた。


「あーそうやろなー!絶対にそうやと思ったわー!一目見た時からパチもん(偽物)やとわかっとったでー!」

「そう、だから遠慮する必要はないよ、サイクロン。二人でこいつを倒そう!」


 返事の代わりに、テッケンサイクロンはマイク・タイソンと同じように、両拳をピッタリと顎に寄せた構えをとる。アケボノオーシャンは、これ以上被害が広がらないように、トランプのような結界で自分たちの周囲を塞いだ。


「うらあっ!!」

「おらあっ!!」


 強襲するサイクロンと迎撃する偽グレンの拳同士がぶつかり合い、周囲に衝撃波を放った。


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