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いつかトべるモノ  作者: N.aro
8/15

何かを映すモノ 7.

7.-1


 つい昨日来たばかり旧校舎。当然何かが変わっているはずも無い。それどころか、緊張感まで昨日と一緒である。昨日は符条の冗談だったが、今回はそう言うわけには行かない。

 おそらくマジ。真剣と書いてマジ。

「私に恋しなさい」

 ……そんな冗談を言っても始まらないので、歩を進める。

 昨日下駄箱の陰から襲撃を受けたせいもあって、その前を通るときは心臓が高鳴る。

 だが、取り越し苦労だった。

 どこに行けば良いのか分からないのでとりあえず昨日と同じ道のりをたどる。すると、昨日は無かったものを廊下の真ん中に発見した。

 人骨模型。

 廊下の真ん中に立っている。

 一体なんで。そう思ったと同時にあることに気が付いた。本来無くてはいけないもの、無いのは不自然なものが無い。

 その人骨模型には柱となって支える棒が無かった。

 一体どうやってバランスを取っているんだ?

 それを確かめるべく、近づいて手を伸ばす……。

 反応は遅れてしまった。

 突然模型の左手が僕の右腕に直撃する。が、所詮重みが無い。

 僕は条件反射で反撃に移った。骸骨の胴に蹴込みを喰らわせる。吹けば倒れるような骸骨だ。蹴込みに耐えられるはずが無く、床に叩きつけられ数メートル先で真っ二つになった。

「サプライズ……のつもりか」

 骸骨が一人でに動くなんて普通に考えれば有り得ない。ワイヤーか何かで動かした、そう考えるのが妥当だろう。

 が、そのワイヤーは特に見当たらない。

 どこかで見ていて、手繰り寄せることで回収したのだろうか。

 そう考えをめぐらせていると、ズボンのポケットが振動していることに気がつく。 メール。差出人は水樹だった。

 開くと、一言。

『体育館に来ること』

 体育館。近くにあったプレートにはこの先にあると書かれている。おそらく敵はそこで待ち構えている。最善の準備をして。

 みすみす罠に飛び込むことになる。

 が、それ以外に選択肢は無かった。

 大丈夫。今の僕には、能力がある。それに、クラブじゃ『大剣の君崎』と呼ばれているんだ。

 自分に言い聞かせ、廊下を進む。

 やがて体育館の入り口にたどり着いた。

「ふぅ……」

 一呼吸。

 そして、扉を押す。扉は軽い軋みをあげながら開く。広がった視界に入ってきたのは──何十もの人影だった。

 人、人、人、否。

 人ではない。

 人形。

 それだ。

 人形だった。

 ざっと数えて20前後の人形、マネキン人形が壇上にひしめき合っている。

 裸のマネキン人形がここまで気持ちの悪いものだとは思わなかった。人を模していて、しかしそれとはまったく違うそれが、ひとりでに立っている姿は気持ち悪いとしか言いようが無い。

 そして、その中央に二人の人間。一人は立っていて、一人は教壇の前に座っている。

 言うまでも無く座っているのは水樹。立っている人間は、上野。水樹に告白したという元弓道部員、上野和正だった。

 平均身長に平均体重、顔もイケメンではないが、かっこ悪くも無い。パッと見注の上、といったところか。

「……どうも。君崎」

 上野は、僕が入ってきたのに気がつくと手を上げて挨拶をした。僕はそれを無視して睨みつける。

 水樹も僕が誰だか認識したようだ。

「君崎君!」

 手が後ろに回っているところを見ると、縛られているのかもしれない。

 僕はすこしずつ壇上に近づいていく。

「……何のつもりだ、上野!」

「別に、何のつもりでもない。ただ、水樹さんを連れてくれば君崎も来ると思ってね。大丈夫。人質にしたりはしないし、その必要も無い」

 すると、上野の一番近くにいたマネキンが動き出した。まるで、普通の人間のように間接を曲げ、歩き出す。それは見ていておかしな光景だった。到底ワイヤーで操られているようには見えない。

「水樹さんには魔術のお話をしていたんだ。知っての通り、オレは魔術師だから」

 動くマネキン。

 それも魔術によるものだと言うのか。

「いや、正確に言えば、コレは魔術ではないけどね。異能だ」

 魔術と異能。魔術は基本は同じ、原子を動かし現象を起こす術。対して異能は何でもありの力。世界の物理法則と同レベルの法則によって成り立ち、ゆえに物理法則に縛られない。

 つまり、人形が動いているのは異能の力、ということなのだろう。

「さて、君崎君って武道が得意なんだよね?」

 マネキンが近づいてくる。

「何を……」

 と、今まではマネキンが動いていること事態に気を取られて気がつかなかったが、良く見るとマネキンの右手には銀色に光るものが握られていた。

 包丁。

 俗にそう呼ばれる刃物だった。

 当たれば死を招く、分かりやすい凶器。

 自然と汗が流れ、身構える。だが、本物の刃物はただそれだけで威圧感がある。

 マネキンは包丁を振り上げて、こちらに向かってくる。途中、壇上から飛び降り、難なく着地し、マネキンとの距離は5メートル、4メートル、徐々に近づいてくる。

 僕は動かない。動けない。

 待つ。待つ。待つ。距離、後3メートル。

 まだだ。必中するにはまだ足りない。

 2メートル。1メートル50センチ。1メートル40センチ。

 空気を握って右手を構える。半秒でそこに鏡でできた剣が現れる。すかさずそれをマネキンに投げつける!

 鏡剣はわずか3秒のみこの世に実現した。僅か3秒で存在を消した。だがそれは距離を埋めるに十分な時間。

 消える半秒前にマネキンの右腕に当たった鏡剣は腕の関節を見事に叩き壊し、ナイフは腕だった木片と共に地面に転がり落ちた。

 後を追うように、マネキンの本体もその場に崩れ落ちる。

 僕は内心でガッツポーズをした。

 自分の能力を使い、動くマネキンを倒したのだ。自分の能力が、彼の能力に勝ったという優越感から来る喜びだった。

 それを見た上野の顔に大きな変化は無い。 

「その程度は使えるのか」

 上野は無機質に言う。

 すると、次の瞬間、壇上にいたマネキンが一斉に動き出す。

「20体全員を相手にできるかな?」


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