何かを映すモノ 11.
8.
夕焼けを背景に、小鳥のさえずりをBGMに……だったら良かったのだろうが、生憎天気は曇り、BGMはスピーカーから流れる選挙活動の演説だった。
マジでない。
白馬の王子様(僕だ)が深窓の令嬢(勿論水樹だ)を助けたところなワケで、本来なら良い雰囲気でフラグたちまくりな状況なのに、そんなときに選挙活動してる政治家が憎い。
それでも、まぁ良い雰囲気であるのはとりあえず変わらなかった。
「君崎君……手品師だったんだね」
そう言うことにしておいた。
いや、いきなり魔術だとか言っても信じないだろ。それなら、手品師だと言うことにしておいたほうががよっぽど説明が楽だ。
「本当に……今日はありがとう。助けてくれて」
「うん」
突然、水樹が立ち止まる。
「水樹?」
「あのね……その……」
次回、告白来る! 復活<リボーン>! 死ぬ気で告白!
違うか。
「私……君崎君のことが前から好きでした」
違くなかった。
アレ、なんて言うんだっけ、こういうの、ご都合主義?
「………」
上目遣いに見つめてくる水樹の目線に、心臓バクバク。
ええっと、こういうのの後の展開として考えられるものといえば、夢オチ、妄想オチ。
ともかく。好きだった少女(しかも美少女)から告白される。
それはとてつもなく夢のようなことで。
だからどうして良いか分からず、10秒余り考え込んで、ようやく自分のするべきことを認識する。
僕は今の気持ちを正直に言うことにした。
「お前ガス機だー」
「変換ミスしてるから!」
「アナタのコトがスキダカラー」
「○流スター風!?」
「眼鏡市場b」
「ファンが怒っちゃうから!」
水樹は真面目な話してるのに、僕最低だな……。
だから、僕は改めて言う。
「……僕も水樹七歌のことが好きでした。……ずっと前から好きでした」
僕の答えに、水樹は驚きの表情を見せた。
「……本当?」
「勿論。どれくらい信用できるかというと、ハ○ターハ○ターの連載再開告知くらい信用できる」
そんな僕の冗談に、彼女はもう何も言わない。
……痛い。
「……うぅ」
アレ。
水樹が泣き出してしまった。
緊張が解けて、涙腺も緩んでしまったのだろう。決して、告白した相手がこんな馬鹿だったとわかって後悔しているのではないはずだ。
「……泣くなよ」
「ぅ……ん」
ここで、抱きしめたりできたら言いのだが……自分のヘタレ具合を呪う。
けれど、彼女の手を握るくらいは出来る。
同じくらいの体温なのに、どうして人のは暖かく感じるのだろうか。水樹の手はただただ暖かくて、そして柔らかい。
ああ、これが俗に言うリア充ってやつか……。
選挙演説をBGMに、そんなことを思ったのだった。