何かを映すモノ 10.
そんな中、戦局を変えたのは水樹だった。
水樹が目で何かを訴えている。
それを読み取ろうした瞬間、水樹の足が動いた。
彼女は両足で上野の足首を蹴ったのだ。教壇を支えにした蹴りはかなりの威力を持っていた上に、不意打ちということも合って、上野は簡単にバランスを崩し倒れたてしまった。
その瞬間、水樹の意図を察した僕はすかさず上野に走って上野の飛び掛り、そのまま手を押さえつけた。
暴れられては困るので、胸に一発突きを入れておく。
すると上野は咳き込み、抵抗は弱くなった。
念には念を入れて、もう一発胸に突きを入れる。
手加減はしたが、若干可愛そうな気もする。とりあえずしばらく抵抗はないだろうし、あっても水樹さえ助ければ逃げるだけで良いので、とりあえず水樹を開放することにする。
「大丈夫?」
声をかけると、いまだ不安げな顔で小さく頷いた。
両手は縄で縛られていた。それは自分では無理でも、他人であればすぐ解けるものだった。
10秒ほどで縄を解く。
「立てる?」
「うん」
ここで手など差し伸べたらカッコいいのだが、恥ずかしくてそれが出来ない。
僕意外とヘタレだな……。
立ち上がった水樹と再度目が合い、何だか気まずくなる。
「ええっと、まぁ、なんだ、無事でよかった」
「君崎君……」
あー流れで抱きしめたりしちゃダメだろうか。いや、さすがにダメだよな……。
そんな風に葛藤していると、上野が立ち上がるのが見えた。
「上野君! もう止めてよ!」
水樹はが上野に懇願する。上野はただこちらを睨みつけてきた。
「お前、一体何が目的なんだ」
そう聞くと彼は震える声で答える。
「目的? んなの知らねぇよ! ただ、俺はあった頃からずっと水樹さんのことが好きだったんだ!」
それを聞いて、なんとなく分かった気がする。
つまりコイツは、水樹に告白して振られ、そこに突然変な男(僕)が現れ、どうしようもなくなって、早まった行動に移ってしまった。別に明確な目的が在るわけではなく、ただ、突発的に僕に復讐したくなっただけ。
そういうことなのだろう。
「なるほど」
なんか納得した。
ようは失恋したショックで冷静さを失った。それだけのことか。
「お前、水樹が好きなんだよね」
「そうだよ! この一年間ずっと水樹さんのことだけ考えたんだ!」
一年間。長いな。
「そうか」
そう呼びかけると、上野が手を振り上げた。
炎弾を打つ気だ──。
そう思う前に僕は飛び掛った。
撃たせる間もなく、みぞおちに突きを食らわせる。
今度は一切遠慮のない本気の突き。小学校六年間で鍛えた中段突きは、上野の意識をフライ・アウェイしてした。
「馬鹿やろー。好きだった期間なら俺のほうが長ーんだよ! 俺は中三の春から好きだったんだ! 」
…………などとは、恥ずかしくて口が裂けても言えないので、心の中で叫んでおく。
ついでに中三の頃からと言っても、その時は春期講習のときたまたま見て可愛いと思っただけで、実際その頃は恋してたわけじゃないけどな!
誰に話してるんだ僕。
とりあえず上野は意識ないみたいだし、もう大丈夫だろう。
っていうか、死んでないよな。
まぁ、一応悪者だし、放っておいてもバチは当たらないだろう。
僕はとりあえず水樹のほうに振り返った。
「傷、大丈夫?」
水樹は心配そうな顔で聞いてくる。
そういえばさっき少し斬られたっけ。まぁ、かすった程度だし、もう血も止まっている。
「あ、うん。全然大丈夫」
そう言う水樹は先ほどに比べれば安心しているように見える。
「そっか。よかった」
「……まぁ、積もる話はあるけど……とりあえず帰ろうか?」
そう提案すると、彼女はようやく笑みを浮べて頷いた。