8.運命の分かれ道
決戦日、私はラピス様とダンスを踊っていた。本当に顔が晶さん。めっちゃ晶さん。性格以外は
心乱されないように直視しないように、微妙に目線をずらしながら踊り続けた。
そろそろ運命の時が来る。
「姫様、私はもう君を…」
「その前にラピス様に見せたいものがあるのです。シトリーヌ」
計画通りシトリーヌが用意した虫籠の扉を開ける。が…
「何も出てこない…?」
虫籠はもぬけの殻だった。
ラピス様がニヤリと唇をつりあげた。
「ん、どうしたのですか?マリーナ姫まさか私を…」
「ちょっ、ちょっとお待ちください!シトリーヌ!」
私は不自然すぎるぐらいの大声でラピス様の台詞を遮り、シトリーヌを引っ張って控室へ退散した。近くにいた数名が振り返ってざわざわし出したが知るもんか。
「どうしてなの、シトリーヌ。虫籠に何かあったの」
鍵をかけ、壊れた形跡もなかったのに。
「姫様、蝶を逃がしたのは私です」
「なぜ」
「もう貴女が死んでしまうのを見たくないからです。僕の目の前で」
「僕…シトリーヌ、まさか貴女は」
「今まで黙っていてごめん。」
「あきら、さ…」
あんなに一緒だったのに。全く気付かなかった。気づけなかった。そういえばシトリーヌの入れてくれるお茶は、晶さんの入れる緑茶とよく似ていた…。
「お茶に睡眠薬を入れたんだ。君が寝静まった後、虫籠から蝶を逃がした」
「どうしてそんなことを」
「実は僕もやってた。ジュエ伝」
「そ、そうなんだ…」
「真里ちゃんの家に行ったとき、偶然見つけてしまって」
ラピス様の顔が余りにも自分に似ていたという理由から、興味本位で始めたところハマってしまったらしい。
「何だか恥ずかしくて真里ちゃんには言えなかったんだ。びっくりしたよ、宰相ドSだったし。もしかして俺は少しSっけを出して接した方がいいのか?と悩んだりして」
「違っ…私は優しい晶さんが好きだよ」
「ありがとう。でも君が帰る世界に僕はいないんだ。ごめん」
「どうして…」
一瞬の沈黙の後、彼は答えた。
「君が死んだあと、僕も君の後を追ったから」