5.天邪鬼な宰相
「答えない。振り返らない」
意外かもしれないがこれが正しい選択だ。私はラピス様の言葉を無視して、歩き出す。
この人には普通の人と違う反応の方が喜ぶ(好感度が上がる)という奇妙な性癖があるのだ。
外へ出る扉から離れ、右の廊下を進み、きっかり30歩数える。来る、きっと来る…!
「逃げようったって、そうは行きませんよ、姫」
手首を掴まれ…からの~壁ドン!最初から心臓に悪いラピス様イベント。
紺色の衣装に身を包み、青みがかった少し長めの黒髪は一つに括っている。細い銀縁の眼鏡。
現代日本の衣装を着て髪型を変えれば晶さんと似ているだろうが、眼鏡の奥の瞳はそれとは違い冷たく光っている。
「今は貴方の方が上の立場でありますが、いずれ貴方は私を無視できなくなる。覚えておいてくださいね」
耳元で囁かれ、あごに手をかけられ、くいと引き寄せられる。細く白い指は氷のように冷たい。ぞわり、と肌が粟立つ。
「あなたは…っ」
「フフフ可愛いお姫様、貴女が私を愛し、ひざまずき、どうか私の妻にしてほしいという日が楽しみだ」
最初から姫に対する歪んだ愛情を持ち、普通な接し方ではなく、このようなセリフを吐くのは、ゲームの開発段階でラピス様=魔王案があった名残だったそうで。当時はドキドキする展開にキャーと言っていたようだけど、実際こうして目の前にすると…なんかすっごいパンチしたいな!
「私には…心に決めた方がいるのです!」
「なるほど、それは忘れていただくしかありませんね。」
「…っ」
つつと頬を撫でられる。顔はどタイプなのもあり、体が動かない私がもどかしい。私の精神が早くも限界を迎えようとしたとき、ひらりと一頭の白いチョウが目の前を遮った。
「わ!チョウぉおお!」
狼狽えた宰相が私を離す。実はラピス様、大の虫嫌い。美しいチョウやトンボは苦手で、むしろ皆から嫌われるイニシャルGの虫や蜘蛛の方が好きという、悪役属性がある。本当なら今のうちに逃げたいところだが、ここは好感度上げをしないといけない。
頭を抱えて縮こまる宰相の側をひらひらと舞うチョウをそっと捕まえ、窓から逃がした。
「森へお帰り」
この台詞ちょっと言ってみたかったのよね、城の側に森もあるし。
「姫様、この借りは返しますからね」
素直に感謝も述べず、宰相は去っていった。解放された私はふう、とため息をついた。最初には何もされないとわかっていたけれど、ちょっと怖かった。
緑の光が現れた。
「第一ミッションクリア!好感度10ポイントUPです!」