4.性格は真逆です
ラピスラズロ。通称ラピス様はジュエ伝の中でも一番の難易度の高いキャラクターだった。
私はそんなのも知らず、初手から外見の好み(眼鏡のお兄さんが好きだったので)でラピス様ルートを選んだが、散々てこずらされた。
しかも性格はドS&ヤンデレキャラで、中々心臓に悪い展開も続いたものだった。
そんなラピス様にそっくりな晶さんは悪魔のラピス様に対して、天使のような存在だった。
「初めて会社で晶さんと出会ったとき、めっちゃ警戒したな…」
けれど、晶さんの性格はラピス様とは真逆で、本当に優しかった。会社で出されるコーヒーが苦手だった私の飲み物をサッと緑茶に取りかえてくれたことで、ポツポツと話すようになり…仲が深まって…って馴れ初め話しちゃった!キャー!お惚気お惚気。
ドアをサッと開けてくれたり、重い荷物も持ってくれたり、エスコート力が高かった。
「ほら、真里ちゃんの好きなお茶だよ」
落ち込んでいると淹れてくれる緑茶が何よりも好きだった。
「ラピス様はお茶を入れるどころか…逆にヒロインが淹れたお茶をこぼす(こんなゴミ、片づけておきなさい!とか言う)タイプだったなあ…」
ラピス様のあまりの性格のねじ曲がり具合に、そっくりな晶さんにももしかしたらそんな一面がある?なんて疑ったこともあった。怖くて本人には聞けなかったし、ジュエ伝をやっていたことも何だか恥ずかしかったので内緒だった。
「しかも好感度を上げるには、あんなことやこんなことしなきゃ行けなかったような…」
「何グズグズしているんだ?ラストチャンスだ、しっかりいけよ」
妖精が容赦なく魔法をかける。
「ちょ、待ってよおお!」
私の覚悟を聞く暇もなく作戦立てる間もなく(フローライダーは結構短気なのか、選択も時間制限があった)幾度目かのジュエ伝をスタートすることになった。
★★★
「姫様、姫様…良かった!」
光に包まれて戻った場所は、アクアマリーナ姫の自室だった。側にはシトリーヌもいる。
「急にぼうっとされてしまうので、心配しました」
「少し考え事をしていただけ。シトリーヌ、心配かけてごめんね」
シトリーヌがにっこり微笑む。攻略キャラでもなく、ゲーム内でも決して出番が多いとは言えなかった彼女のこういった表情が見られるのは、ちょっと新発見で、癒しだった。(攻略キャラじゃないから選択肢気にせず話せるしね!)
最短攻略目指すあまり、今までは余裕なくイベントに次ぐイベントで細かい部分を気にしなかったが、せっかく最後だからもう少しキャラクターと会話を楽しむのもありかもしれない。
「シトリーヌ、ラピスラズロ宰相ってどう思う?」
花を活けかえますね、と作業中の彼女に聞いてみた。
「ラピス様ですか…あっ!すみません」
手に持っていた花瓶を取り落としそうになる。これは、予想外の反応だ。
「シトリーヌ、ただの脇キャラじゃなさそうね…」
「姫様、何かおっしゃいましたか?」
「ううん、なんでもない。ちょっと散歩してきてもいいかしら」
今まで通りに余計なことはしない方がよかったかな。なんて思いながら部屋を出る。
王宮の調度品や周りの景色も思い出に見ておこう。外へ続く扉を開けようとしたときだった。
「アクアマリーナ姫、どこへ出かけるのですか?」
緊張感に背筋が凍る。声の主はわかっていた。攻略キャラ、ラピス様だ。
同時に現れた緑の光、フローライダーが最初のイベントを告げる。
「さあ貴方はここで振り返りますか?」