2.死亡ルートを踏みに行け!
「死亡…」
それって私にもう一度死ねというのか。可愛い姿でなんて残酷なことを言う妖精なのだろう。
「貴女は異世界で死んだ魂。もう一度死ねばそのショックで元の世界に戻れる可能性があるということです」
「なるほど…」
妙に納得した。別世界に飛ばされても死んで元に戻るとか、夢から目覚めるという話は聞いたことがある。
「それなら簡単よ」
私は壁に飾られていた宝剣を取り、一分のためらいもなく自分の胸に突き刺す。
「え」
妖精がドン引きする。ここまで思い切りのいい人に出会ったことが無いのだろう。
実は私、プチメンヘラの自信(どんな自信だ)がある。晶さんがいない世界で生きていても仕方ないし、異世界にぐずぐずして余計な情や思い出(ありがちー!)を作る前にさっさと夢から覚めたほうがいいだろう。
「待てコラ!」
妖精の怒声に我に返る。胸を突き刺したはずの剣が手から消えている。
「あれ、な、何で?」
「話は最後まで聞けやコラ!自殺はできない!単なる死亡じゃない!死亡ルートを踏めと言っただろう」
妖精は怒りのあまり、ですます調を忘れているようだ。
「死亡、ルート…」
そういえば、ゲームにそんなルートあった。婚約者との好感度がとある数にだけ発生する激レアかつ鬱展開だ。選ぶ相手の性格にもよるが、彼に殺されるとか、彼をかばって死ぬとかそんなだったと思う。
妖精の説明によると、そのルートを踏んだときにのみ、異世界へ通じる鍵が現れるということだった。
「く…」
私は呻いた。実は私、ゲームでそのルートを踏んだことがない。
「現実でも彼氏できないのに、ファンタジー世界でも結ばれないとかマジありえない!」
とジュエ伝ガチ勢だった当時はハッピーエンドばかり選択していた記憶で、好感度は全力で高くしていた。
どの割合で死亡ルートを踏めるかなんていう知識は全く無かった。オーマイガー!
「ねえ、フローライダー」
「なんだ?」
「どうすれば死亡ルートに行ける?」
「知らねえし、知っていても教えねえよ」
意外と素は言葉遣い荒いんだなこの妖精。といったツッコミが出そうになったがうるさそうだから黙っておいた。
ただ教えられない代わりに、と妖精は続ける。好感度にかかわるイベントが出る際には選択肢を教えてくれるらしい。
お助けキャラだから、好感度を上げる方に関しては特に得意だそうで、確かゲーム内でもハッピーエンドのヒントについて教えてくれることが多かった。
「じゃあ、もしかして…」
「俺の示す方と逆の選択肢にすれば好感度下がるんじゃねえの?」
「そうだね。ちょっと解決策が見えてきたかも」
少し私の表情が明るくなり、妖精もほっとしたように、よそいきのですます調に戻った。
「さて、最初の選択肢。貴女ははどのキャラクターを選びますか?」