ラストバトル 完結
――死なない。いや、死んでいるのか?何か、ふかふかした感触がある。天国か?目を開けてみると、青色の毛の壁がある。ん?天国はこういうところではないのはなんとなく分かる。首を伸ばしたりしてどうにか毛以外の景色を見る。
そこには今までとなんら変わらない学校の背景と共に口を大きく開けて疲れ果てている龍の姿と目を見開いて驚いているような様子のカタストロフィがいた。
何をそんなに驚いているのだろう。
というか何で俺は生きているのだろう。
目の前の毛はなんなのだろう。
周りを見ても毛しかないためヒョンと飛び出して、その正体を見る。
すると、そこにはロジンさんの姿はなく、代わりにロジンさんの三倍はある、もはや人間の形をしていない、狼の姿があった。
「なんだそれは!なぜ死なない!!!!」
そう、カタストロフィの声が響く。
だが、それに本人からの返事はなかった。
代わりだと言わんばかりに龍に突撃していく。
よく見ると、目は赤く光っていて口からは涎が垂れている。
カタストロフィは急いで距離を取る。
龍に向かって爪を振りかぶる。その一撃だけで龍の胸に大きな傷ができ、その勢いのまま胸や腕、脚など様々な部位を龍には何もさせずに攻撃し続ける。
次期に龍が項垂れ抵抗すらもしなくなると勢いを止めずに首に噛みつき、そのまま食いちぎろうとする。
見てられ無くなったのかカタストロフィがその剣で狼の元に走っていくが、途中で何を思ったのか急に勢いを殺して目を見開き、後退する。
そのカタストロフィの不思議な行動に目を奪われていると、いつの間にか龍の首の喉仏の辺りは既に内部が見えており、血が止まらない。
狼は一度、地面に着地してもう一度首に向かって飛ぶ。そして、そのままあっさりと爪で首を刎ねる。
――倒した?
そう思うと、その巨大な首が地面に落ち大きな音を立て、体が溶け出していく。体からは血と何か黒い禍々しい煙が出ている。段々と地面に部位が落ちていき時間が経たないうちにそれは血も含めて先ほどの黒い禍々しい煙になり空に浮かんでいった。
狼の方を見ると、一度大きく咆哮とも言える叫び声をあげてゆっくりと体が変化する。
そして、それはロジンさんになっていた。
ロジンさんは珍しく息を切らしてその場に座り込む。
そんな姿を見ていた俺とミルと目があい、彼は不器用にウィンクをしながら右手を天に掲げて大の字になって倒れる。
ロジンさんは倒れてしまったが、龍を倒してくれた。
こちらの戦力は精霊、ロジンさんが欠け俺とミルとカイくんが残っている。カタストロフィ相手には十分すぎるだろう。カイくんは今、犬の状態だが鯨や蕾にしても邪魔になるだけだ。通常の姿にして援護射撃やヘイトを取ってもらおう。
「ミル!!お前は自分の身を守りながら援護してくれ!!!!」
ミルにはそう指示しておく。俺は魔法剣を持ち走り出す。
いくつか火の玉の魔法が飛んでくるが避けれる。
近づき、二回、目の前で切りつけ、炎で前を見えなくする。この隙に包丁で……おっと!炎の中から剣が突き出てくる。
ギリギリ届かなかったのか当たりはしなかったが俺の攻撃するタイミングは失われてしまった。
一度退き、立方体を起動する。カイくんにビームサーベルを装備させ本気で倒させるわけではないが本気で殺そうとさせる。目的は時間稼ぎとヘイト集め。
俺が四分割だけして最大の八個にする。その間、ずっとカイくんは適度にジャンプしながら攻撃を避けていた。カタストロフィはそれに苛立っていたようだが無視してこちらにくるとカイくんにやられるのがわかっているのか無視はできないようだ。
俺はそれをあいつに見えるよう俺の周りに浮遊させる。
それを一気には飛ばさずに一個ずつ、逃げ場をなくすように、詰将棋のように宙を飛ばせる。それに合わせてカイくんも動かすことで徐々に行動の選択肢が少なくなる。
薄々考えていたがあの時、カタストロフィの目が金色になったことで発動しているスキルはおそらく未来が見える、みたいなものだと思う。それもかなりルールが厳しいのかクールタイムもあるしそこまで遠い未来も見えていないと思う。
だから、未来を見ても避けることのできない確定の一撃を入れてそれで終わりにする。
どんどん、分裂させたり、新しく大きな立方体を配置したりする。すると、
「ほっほっほ、やりますね。もしや、俺の能力に気付きました?」
「あぁ、まだ確定はできてないが、十中八九未来を見てんだろ。それもかなり制約が厳しい。そうだろ?」
「不正解です。ですが、俺の命ももう長くありません。答え合わせをしましょう。俺の能力は『リセット』。任意のタイミングで二秒前に戻り、未来を変えることができる。クールタイムは四秒。戻ってからの二秒と新たな世界での二秒。こういう計算でしょう。あなたのいう通り、制約は厳しい。あなたのこの作戦は正解です。二秒前に戻ったところでたかが二秒前。それ以降に詰んでいる場合は俺の負けが決定してしまいます。そして、ついにその時が来ました。命乞いはしません。ですが、死ぬ前に少し俺の思い出話を聞いてもらえないでしょうか。」
なるほど。能力については今となってはどうでもいいが、話を聞け、か。不意打ちされたら終わりだな。
「まぁ、いいが、不意打ちしない補償はどこにあるんだ?その補償を俺に説明しろ。俺が納得できたら話を聞いてやる。」
そういうとカタストロフィはすぐに躊躇いもせずに左手で右手を切り落とした。その右腕を何回もその剣で切り刻み、その後剣を遥か後方に投げ捨てる。
この人は剣士だろう?プライドとか体裁とかあるんじゃないのか?この人はそこまで……。
「どうですか?もちろん、ここまで腕を傷つけては魔法で接続しても使い物になりませんしそもそも右腕の魔石がなければ私は魔法を行使できません。」
「何より。もう戦意がないのです。」
その言葉をいった彼の表情は俺が見るだけでもかなり複雑な感情が混じっているように見えた。
悲しみ、悔しさ、死への寂しさ、死への喜び、疲労……多分もっとあるのだろう。
「わかった。話を聞こう。」
俺はそういい、武器をしまってカタストロフィのそばに向かう。一応、警戒していたが何もしてこなかった。そのまま隣に腰をすわえる。
「俺は元々ただの人間だったんだ。まぁ、生まれた年は覚えてない。いつ頃とかもだ。その時の記憶はもう何もない。ただ、ある日突然、俺の目の前に魔法陣が現れたんだ。それが何かわかっていないまま、俺はある世界に飛ばされた。それはこの世界によく似た不思議な異世界だ。」
多分、ロジンさんと出会った場所だろう。
「俺の意識が目覚めると周りには人間ではなさそうな人型……グールのような存在だ。俺は十体ぐらいのグールに囲まれていた。当時、何の力も持たない俺は怖くなって逃げたんだ。幸い、あいつらは足が遅く、追いつかれることもなかった。だが、敵はそいつらだけではない。そんな世界で俺は普通は生き延びることはできないはずだった。そんな俺が生き残れたのは単にあるお方のおかげだ。そのお方は俺にあの剣や、扱い方、魔石に魔法の使い方まで教えてくれた。それのおかげで俺はここまで生き残ることができた。いや、そのせい、といったほうがいいかもしれないが。そして、そのお方は突然消えてしまった。一人になってしまった俺はどうすればいいかわからず、とりあえずあのお方を探すことにした。そして、見つけた。そのお方は死体となって鳥に貪り食われていたが、あるものだけが異質に残っていた。それがこの目だ。金色の眼球だけがふわふわと浮いていたんだ。俺はそれを拾い顔に近づけるとそれは俺の目となった。そのお方からの最期の贈り物だった。それからの俺の目標は人探しすらもなくなり、しばらくはただ放浪する時期を過ごしたのだ。その世界では寿命などなく、何年放浪したのかはわからない。ただ、その世界にはこの世界と同期しているのか次々と無人のまま建物が建てられたりしていった。それで気づいたんだが、どこかに俺のいた世界と繋がる道がある、と。」
なるほどな。あの世界に建物があったのはそういうことだったのか。
剣や能力は誰からの物だろう、と思っていたが、あるお方。詳しくは話さないが親切な人だったのだろう。
「俺はそこから放浪していた時期よりもさらに長い時間をそれに費やした。結果、それを見つけることができた。なぁ、俺とあなたが初めて出会った場所の大きな瓶があっただろう?あの奥を掘ればそれはある。そんなことはどうでもいいが、それから俺はこの世界にいながらあの世界のことを考えていた。寿命がないあの世界では種族間同士の戦いや災害が起きない限り数が減ることはない。それがあの世界の摂理であることはわかっていたが、俺は飽くまでこの世界の人間。お節介をしてしまった。あのお方から教えていただいた召喚魔法を何年もかけて研究し、どっかの異世界につなぐことができた。俺はその世界と魔物に溢れる世界をつなげて魔物の数が大体一定になるように制御し続けた。その行為がどの方向に対しても余計なお世話でしかないことはわかっていたがそれでも俺はあのお方から色々なものをもらってしまったせいで何か目的を持ち続けることしかできなかったのだ。」
悪意はない、ということか。この人も俺やミル、ロジンさんと同じで縛られすぎているのかもしれない。あの時はとても恨んでいた。だが、今となってはそんな感情は消えている。
「まぁ、なんだ。こんなもんでいいか?あの世界の魔物の管理はどうする。もうしなくてもいいか?しなくてもなんとかなるのか?そこらへんよくわかんねぇんだけど、もう魔物は送らないってことでいいんだよな?」
「あぁ、あぁ。それでいいんだ。もう、全部いいんだ。」
そういったカタストロフィの顔を見ると涙を浮かべていた。
「あ、そういえば。あんたのカタストロフィって名前、偽名だろ?日本での名前はなんだったんだ?自分の本当の名前ぐらいは覚えているだろ?」
「名前か。なんだったかな……。なんとか本、そうだ。坂本!坂本浩だ。俺の名前は坂本浩。だが……そんなことを聞いても何になる。」
「あ、いや。ここまであんたの数百年を聞いたんだ。名前も知らないとおかしいだろ?」
「そう、か。では、俺の話を聞いてくれて、ありがとうな。さ、殺してくれ。」
「あぁ。」
俺は短く返事をすると包丁を手にもつ。坂本は足を伸ばし、残った左腕を体の後ろに支えるような体勢で表情はにこやかだ。
「じゃあな。坂本。」
包丁をお腹に突き刺す。返事を待たなかったせいで坂本の声がどんなものか忘れてしまった。
こんにちは!桜坂神楽です!最終回です!といっても、あと一、二話続きますが……
まぁ、昨日も投稿しましたし、特に言うことは無いです!
来週の本当の最終回もお楽しみに!
さよなら!




