二層目・愚狼
さきほどの部屋に入る前の通路と同じような、というか同じ通路を進みながら腰のものを持ち上げたり、すぐ出す練習をしたりしていると、階段が見えてきた。見えてきたと言っても暗くてほぼ見えないが天井が階段に連れて低くなっていくのを感じたためそうであろうと思っただけだ。
下に気をつけて歩くと階段に到着した。
慎重に階段を降りていくとまた、さっきの通路があり進むとさっきと同じ部屋に入った。
その部屋に入った途端微かに明るくなり眩しいとまではいかないがかなりの明るさになった。
明るくなった故にあるものが目に入った。
それは狼だ。
高さはそんなに高くない。あって80cm程度だろう。
身長はあまりよく分からないが予想1m50ぐらいあるのだろうか。
狼がだいたいどのくらいの大きさなのかよく分からないが戦うとなった今としては充分に怖い大きさだ。狼は犬のようで可愛さも感じられる。それを殺すのはコウモリよりも辛い……。ただ、こいつは先程のコウモリより比べられない程、強いだろう。殺さなければ。聖剣を握りしめる力が強くなる。
狼がその後ろ足を蹴って真っ直ぐに突っ込んできた。
盾でガードするか横に退避するか剣を振るか迷ったが自分を信じて剣を振ることを選ぶ。狼が牙をむき出しにして噛み付いて来た瞬間に口の中に差し込むように剣をつきだす。すると狼は自分のスピードが仇となり、口に剣が刺さり狼が死んだ…と思ったが結果は自分は剣を手放し狼から距離を取り狼は口に入った剣を吐き、「グルルルル……」といかにも「お前を殺す」と言っているのがわかる。
こうやって動物の声がわかるのも異世界召喚で得た特別な力なのだろうか。なぜこんな状況になったかといえば、結論聖剣が刺さらなかったのだ。本当にそれだけだった。聖剣を失ったがとりあえず武器は持っておきたい。聖剣を拾いに行きたいのが正直な気持ちだがそこまでしなくても勝てるだろう。
俺はコウモリに使った包丁を持つ。持つと先程のグロテスクな光景がフラッシュバックするが今そんなことを思えば殺しに支障が出るがすぐにその考えを振り消す。包丁を両手で握り直す。
狼はさっきと同じように突っ込んでくればまた同じ目に会うと思ったのだろう。ゆっくりと歩みよってきた。ハッ、意外にもビビりなんだな。そう思うとふっと気が楽になった。その油断が相手にも伝わったのだろうか。狼は「ガッ!」と言い先程よりも早いスピードで走ってきた。
それに対してまた口に刺そうと包丁を構えようとしたが間に合うはずもなく。
「おあああっ!!」
攻撃をしようとしたからか防御もろくにできず左肩を引っ掻かれた。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛すぎる。異世界は平気でこんなことをしてくるのか。怒りが湧いてくる。俺は今まで普通に地球で生きてきて敵に傷を負わされるという経験がなかったからだろう。
このくそ犬め。犬のくせにこの俺を裂きやがって。俺に傷をつけやがって。殺してやる。殺してやるよ。幸い包丁は手に握ったまま。これで捌いて食ってやるよ。お前も食ったんだから別に良いよなあ。肩から血が出ている。殺す。目眩もする。殺す。すげえ痛い。殺してやる。
絶対に!
足に力を入れて全力で走る。肩が痛いが殺す方が優先だ。遠心力を借りるために1回、回って、いやもう1回、あいつは誇らしげに油断していたのが致命的だ。油断は良くないな。心に刻む。犬は反応し腕を振り上げるが俺はその腕に向かって包丁を振る。2回転したからか、スパッと肘の関節辺りから腕が飛んでいく。犬はたじろぐこともせずに右手を使ってまたもや先程よりも早いスピードで牙をむき出しにして突っ込んでくる。俺は真剣勝負なんて真っ平御免だ。包丁を左手に持ち替え右手でクナイを持ち、口内に向けて投げる。
それは先程とは大きく変わり、狼の口から大量の血が出た。
犬はまたも俺が包丁で来ると思っていたのか、予想外といったように目を丸くして息絶える。不思議と殺したことによる精神のダメージは無い。むしろせいせいしたというかすっきりした。
そして気になったことがひとつある。
聖剣で喉に刺した時、確かに喉に触れたはずだ。さらに言うと口内にも触れたはずなのだ。なのに血が一滴も出てない。もしかして……やはりか。
聖剣のなんというのだったか…その……切る部分に触れた時、自分の指から全く血が出なかったのだ。これならまだあっちの世界の紙の方が切れ味あるぞ。
……あれだろうか。
持つべき者、それこそ勇者様とやらが持たないと真の力、聖剣としての力が発揮されないのだろうか。
もしかするとこれも魔力のようなものが必要なのかもしれない。
たしかに聖剣という名前は「剣」ではなく「聖剣」という名前で魔道具として捉えてもいいのかもしれないという気がしてきた。
今の俺にとっては仮〇ライダーのおもちゃの剣でしかない。
しかしすぐ壊れることもないと思うから、ほんとの最終手段の盾として扱おう。
しまうのもめんどくさいしまだベルトには空きがあるのでこの道具は腰に提げておく。
ただ何を持つか……やはり今まで2回の戦闘で2回とも致命打を与えた包丁でいいだろう。元々包丁を手にしていたこともあり自分にはこれがあっているのだろう。そして今思い出したが称号のこともある。人殺しということで包丁か……安易だな。まあいい、これが俺の相棒ということか。
そう決めると包丁を手に狼を視界に入れないよう歩き出す。
恐らくまた通路があり、階段があり、何かいる部屋があるのだろう。そう思い進む。
予想通り通路があり、階段があった。
階段を降りすぐの場所で1度深呼吸をする。
これはいつまで続くのだろうか、出口は果たしてあるのか、人間……仲間となる存在はいるのか、さっきからそんなことばかりが頭を逡巡としている。
そんな希望を考えているが結局は上手くいかないものだ。想像するのは最悪の未来、心の中で何回も繰り返すがそれでも思考は変わらない。
もうどうでもいい。これは100で止まる。人間は居ない。
出口は100を倒すとゲートのようなものが現れる。外に出れる。そう仮定……もはや決定づける。そう考えないとやっていけないのだ。頭の中にある程度整理を付け、すっきりしたところで前に進む。
次は何が来るのだろうか。コウモリ、狼の次……そろそろ魔獣っぽい異形の生物が出てきてもおかしくないが……。
部屋に入るとさっきと同じぐらい明るくなり目の前に正体が顕になる。
読んでくださりありがとうございます
3話目?です
初心者ですが気に入って頂けてのならこれからもお願いします!
楽しくなってきます