不幸
――クラスメイトが死んだ。
その日は何もない日だった。
いつも通り授業中は寝て、休み時間は席が近い男友達と何気ない会話をする。
そして放課後はハンドボール部に行き、キツい練習をして部活の男友達と寄り道しながら帰る、と思っていた。
3時間目が終わっていつも通り男子と話そうとした瞬間、
「火事です!先生の支持に従い避難してください!」
と教室のスピーカーから流れた。
俺の学校はたまに突然、避難訓練を始める。
告知されている緊急事態など意味が無いという前校長の意見で2年前にそう変わったらしい。
周期的にもそれだろうと思い、いつも通り、ハンカチを口に当て廊下に出る。
俺は席が扉から遠い席なため、クラスとしては後ろの方、というか1番後ろだ。
俺は後ろで友達と顔を見合わせて小突いたりして静かに笑っていた。
続々と他のクラスが動き始めた。俺のクラスは5組、廊下の一番奥にある。だから動き出すのが遅かった。
5組が動き始めた辺りでどこかから女生徒のかん高い声、叫びとも言えるものが聞こえた。
どうせ誰かがふざけたのだろう。この後叱られることを想像するとなんとも言えない気持ちになった。
ほかのクラスメイトは
「誰だよ」
「叱られんのどんまいじゃん笑」
と言った声が聞こえた。完全に油断している。
そこである異変に気づいた?
これは避難訓練ではないな、と。
みんなも薄々感じているようだった。
だからクラスメイトは真剣な顔、否、死ぬかもしれないという恐怖の顔に染まっていた。
担任はマニュアル通りの避難用出口に向かっていた。
しかし、そこで前方に火のついた破片が落ちてきた。
前の4組はもう抜けれそうだったのでそのまま抜けるようだ。
担任は4組に続けると思い、
「このまま走ります!」
と言い、火の中に飛び込んだ。
担任は全速力で走り抜けた。若く、陸上部の顧問なだけあり足が早い。
先生の姿は瞬く間に消えていった。
しかし生徒はどうだ。
恐怖に染っているからか足が震えている。
陸上部の生徒やサッカー部で足が速い生徒、そして、俺も足には自信があった。なのに、体が動かなかった。火の中をずっと見つめるだけだった。
当たり前だ。
16歳が火の中に簡単に飛び込めるとは思えない。
俺は目だけを動かしてなにかを探した。
そして、なにかはあった。
窓だ。
窓があったのだ。
大きさはとても大きいとは言えないが、頑張れば一般的な高校生は抜けれる大きさだった。
俺は窓から助かることが出来ることを伝えることはできた。
しかし、俺は言えなかった。
もし言ってしまったら、全員が死に物狂いで窓に向かうだろう。
そうすると、俺が死んでしまう。
とにかく、自分は助からないと。
そんな考えの元、こっそりと窓に向かい、窓から体を出す。クラスメイトは火に目線が釘付けになっており、俺が逃げたことに気付いていない。
そこからクラスメイトがどのような行動をしたのかは分からない。
火の中に飛び込んだのかあのまま飛び込めなかったのか。
今となっては聞けない。
……なぜなら死んでしまったからだ。
誰一人残らず、俺だけが、こっそり、勝手に逃げた俺だけが生き残った。
俺は窓から出たあと、避難口の場所から近い開けた場所にみんないるだろうと思いそこに向かった。
案の定全校生徒がいた。
先生方は通報なのか連絡なのか分からないがほとんどの先生が携帯を耳に当てたり、文字を打ったりしている。
後ろを振り返ると学校は火の海になっていた。
俺は担任を見つけ、
「他のみんなは!?」
と聞いた。
聞きながらも姿が見えなかったことから抜けられなかったことはなんとなく分かっていた。
担任は
「蒼弥くんこそ、どうしたんだ?前にいなかったはず…もしかして、蒼弥くんしか、火を抜けられなかったのかい!?」
と驚愕と焦りの顔を浮かべながらそう言った。
「分かりません……僕は生きたくて……窓から出ました。」
そう言うと、先生は悲しくそして悔しそうな顔で
「そうか……済まない……他のみんなも窓からでさせれば良かったのか……すまない……すまない……!僕の判断ミスで……!」
そう言った時、救急車と、消防車が数台ずつ来た。
消防隊員が消火活動をしたり、生存確認をしたりしていた。
生徒はとりあえず帰ることになった。
怪我をした生徒は救急車で運ばれ、それ以外の生徒は手ぶらで帰っていた。
心配した親が何人か来ていた。
俺はクラスメイトが心配だが先生方からの早く帰れみたいな視線が怖かったので帰ることにした。
次の日は寝れず、ご飯が喉を通らず、外にも出れなかったが母が大きな声で
「ちょっと蒼弥?これみて!」
と呼ばれたので向かうと1枚の新聞を見せてきた。そこには
東第2高校、火事。死者39名、負傷者数名。
と書かれていた。
俺は嫌な予感がしつつ内容を読んだ。
死んだ人の名前がずらっと書いてあったので見るとやはり、39名とは俺以外のクラスメイトだった。
俺は新聞を手に部屋にひきこもった。
泣いた。
泣いた。
そして、涙は、枯れた。
大きくなった感情も次第に消えていった。
喜怒哀楽の存在を確認できなくなった。
途端に自分が馬鹿らしくなり親のもとに向かい親は突然降りてきた自分に驚いたがすぐ、
「大丈夫?落ち着いた?お腹すいたでしょ?ご飯用意するからね」
と優しい声で言ってくれた。
俺はそれに対して無言のままだった。
すぐ料理がでてきた。いつもとは違いどちらかと言えば質素めな料理がでてきた。
すると
「話、聞いてもいい?」
と、言ってきた。
俺は嫌だったが裏腹に誰かに言いたいという気持ちもあったので話すことにした。
事の経緯を話すと母は
「そうなんだ……でも、お母さんは蒼弥が生きててくれて良かった……」
と言った。
俺はその言葉にとても嫌気が差したがそれに対してキレることもめんどくさく無視をした。
大して美味しくないご飯を、食べたあと学校に向かった。
リュックが燃えたので手ぶらだ。
学校につくとすると担任の先生が校庭で待っていた。
俺に気づくと
「蒼弥くん、クラスのことなんだけど……」
と、これからのことについて話された。
先生が言うには俺は2つの選択肢があり他のクラスに混ざるか、そのままのクラスで過ごすか選択出来るらしい。
俺は別のクラスメイトができるのが嫌だったので、1人を選択した。
このことを忘れない為に。
登校はもう少し、2週間後とのそうだ。
39人も亡くなればいろいろあるのだろう。
俺はその後そのまま家に帰った。
母は何も言わなかった。
俺は部屋に籠り特にすることも無く寝た。
そんな生活をしてるととうとう登校の日が来た。
正直、行きたくない。火事が起きた学校が怖いのもあるが、教室に着くと、全てを思い出してしまいそうで。
涙が溢れて出そうで。
しかし、俺が学校に行かなかったら、俺だけ生き延びた意味が無い。そう思うと行かなくてはならないという気がして家を出た。
少し久しぶりの学校と誰もいない教室に行くのは緊張……かは分からない変な感情に襲われながら学校に向かった。
学校に着くと他の奴らは火事のことや俺のクラスメイトの事を話していて悲しんだりしていた。
時々睨まれたり変な目で見られた。
教室には俺の机が真ん中にぽつんと置いてありほかの机は撤去されている。
死んだ事を再認識させられてなんとも言えない気持ちになった。
HRで先生が来ると、あの件については何も触れずいつも通り……いや、俺だけに向けて話した。特に変哲もないHRを終えて休み時間になると何人かがクラスを覗いていた。
友達だった人だろうか。
それとも冷やかしだろうか。
教室に1人だけいるという状況は物珍しいので覗かれる事は予想はしていた。
しばらくすると先生が来て野次馬共に注意をした後、教室に入り授業を始めた。
HR同様、いつもと同じように。変わったところは俺だけに向けて話す所。
普通に授業を終えて、誰かに見られながら休み時間を浪費して、授業を終える。
中には死んだクラスメイトのことやあの件について話す先生もいたが別に気にしない。
先生が察して話をやめてくれる。
7時間目が終わり、HRを終え、放課後になる。
掃除は1週間に1度でいい。
部活は辞めた。
なのでそのまま帰ることになる。
最初は登下校常に見られていたが最近では野次馬もない。
誰からも見られていない。
――それが幸せだった。
仲間を見捨てた俺に与えられる唯一の幸せ。
何ヶ月後だろうか、いつも通り陳腐な日を過ごしていると昼休みに突然床が光り出す。
突然の出来事と眩い《まばゆい》光に当然目を眩ませた。
――そして、次の瞬間真白い部屋にいた。
何も無い。そこには何者とも取れぬ抽象的な人間がいた。
そいつは俺を確認したあたりに、
「ようこそ!この世界を救ってくださる勇者達よ!……あれ?」
といいながら困惑していた。
昔読んだことがある。これは異世界召喚モノでクラスごと巻き込むあれだ、と。
「俺以外死んでますよ」
俺はそいつに真実を率直に伝えた。この場合はどうなるのだろうか?
「な、え?どうすれば……」
困惑しているようなのでさらに
「俺のクラスには俺しかいません。焼死しました」
と言うと、困りながら、
「とりあえず、武器を与えないといけないんだけど…どうする?」
なんと弱々しい支配者だ。
「どうするも何もモラルとか倫理観とかわかんないですよ。そちらの判断でお願いします」
「あぁ……。どうしたらいいんだろ……もう、めんどくさいから全部あげるね」
!?
凄まじいことを言い出した。そんなんでいいのか。
「あぁ、後称号制度があるんだけど……」
話を聞くと称号制度とは生物に一定確率で何かしらの称号が与えられその称号に応じてステータスが伸びたり才能が開花するらしい。
で、異世界人にはそれを決めてもらってるらしい。
そんな話を聞きながら俺はすでに決めていた。
忘れない為に。自分の、あいつらのために。
「人殺しで。」
その後色々と常識や目標を教えてもらった。どう生きればいいか、倒すやつは誰なのか、その他諸々沢山教わった。
全部覚えられないと思ったが不思議と脳に張り付いた。
なにかの力だろうか。
「それではいってらっしゃーい!!」
そんな甲高い声と同時に俺の運命はねじ曲げられた。