悪夢と癒やし
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3−3
その日の夜、弟子になるのは保留にしたまま、眠りについて、しばらくしたら夢を見た・・・。
家族の夢だ。
ボロボロになりながら家に帰ると、そこは明るい光が窓から零れている。
ああ、何とか帰れた..、そう考え、ドア叩く。
ドアを開けた家族は俺を見て恐怖で引きつった顔をした、化物と叫び、怯えている、何で、俺が分かるだろう、父さん、母さん、そりゃあ出来た息子じゃなかったかもしれない、ゲームばかりして成績なんてボロ屑だ。
でも、一度でも親を殴ったことは無い、そうだろう?、そう言ってもまるで届かない、何かが変だと気づき、鏡を見る、そこには骨だけの怪物がいた。
ハッハハハッ、これで帰れる訳ないだろう・・・、自嘲気味に笑うと家を去る、そんな夢だ。
「あ〜っ、嫌な夢を見たな・・・」
悪夢に起こされて窓を見るとまだ、日が昇っておらず、薄暗く霧が立ち込めていた。
悪夢をダメージが思いの他あり、骸骨なのに眉間にシワを寄ったような気がした。
髪の毛も無い頭をガリガリと掻き、何とか平静を保とうとする。
「ハ〜っ駄目だ、今日は・・・」
すっかり気持ちが沈む、よりによって今日は雨だ、裏通りのただでさえ陰気な雰囲気が更に悪くなっていた。
ソファーで寝てたのも有るだろうが、そんなに気にしてたか・・・。
自分でもそこまで家族を気にしているとは思わなかった。
・・・・仲が極端に良いわけではなかった。
だが、今に思えば、ちゃんと赤ん坊だった俺をここまで育てたのだから愛情が無かった訳ではない、そう思うと事故で死んだ後どうなったか気にならないかと言えば嘘だった。
気落ちしてソファーに体重を全て預けて、自分の顔の半分を手で覆っていると階段がギシっと鳴って声がした。
「何だ、ネーロ、怖い夢でも見たのか」
「ブーディカ様・・・」
ブーディカがネグリジェ姿で降りてきた。その白い生地が柔らかで女性の暖かさが表現されていた。
「今はブーディカで良い、ほら、少しこちらにおいで」
手招きをする、何だ、何がしたいんだ。
だが、今は反抗する気力など無い、言われるままにブーディカの側による。
ブーディカは階段を降りてソファーの横に置かれたクッションに座った。
「ほら」
手招きをする、俺は少し近寄り、止まる、またブーディカが手招きをする、そんなやり取りを数回やった。
そしてブーディカは自らの膝を俺に貸した。
「怖い夢だったね」
「何で分かるんです・・・」
「お前の瞳を見れば分かるさ、それに今のお前は骨という物体に無理やり魂を定着させている、だから寝ている時なんかに魂の声が漏れやすいんだ」
「魂の声が・・・」
「ああ、それが余りに悲しい声だったから起きてしまったんだよ」
ブーディカは今までと違う口調でひたすら優しく語りかける。
「2階まで届いてたんですか、何だか恥ずかしいな」
自嘲気味に笑って言った。
「そんな事ない」
ブーディカは首を横に振り優しく否定する。
「それに生き返らせた魔法使いはその声が良く聞こえるんだ」
「ハハッ..、じゃあ起こしちゃったな」
膝枕までしてくれているのに顔を見れない、直視出来ない、今、自分はどんな顔をしている。
ブーディカの手が優しく頭を撫でて、静かに言う。
「ネーロ、お前は化物じゃない、私の子だ、お前は私の都合で蘇らせた、本来なら神の導き従うはずなのに・・・」
「だけど今は、この子に力を貸してあげて欲しい」
何だ、ブーディカから感じるこの母性は?、本当に10代の少女か、だが今は疑問の追求よりこの優しい手に撫でられていたい。
「ブーディカ・・・、俺、弟子になるよ、元の世界が案外嫌いじゃないみたいなんだ。だから、神様の仕組みを捻じ曲げてでも帰りたい、・・・、魔法を俺に教えて下さい」
何年ぶりの素直な言葉だろう、まるで子供に帰ったみたいだ。
子供を見ればガキとか乱暴な言葉使いして自分を無理やり動かしていた、そんな自分はこの場にはいなかった。
「ブーディカが聞いたら喜ぶ、だからもう一度起きたら改めて伝えてやってくれ」
明らかにブーディカではなかった。
「貴方は誰なん..です」
優しい手に撫でられたせいだろうか、眠りに落ちる瞬間に見た姿は白い髪に、白いドレス、雪をそのまま神が取り出したような女性が見えたような気がした。
それから悪夢の疲れからもう一度寝てしまった。
しばらくして日はすっかり登り、鳥達は朝食を食べ終えて今頃空を自由に飛んでいるであろうそんな時間なっていた。
「こらー起きなさい、もう!!」
ブーディカに蹴飛ばされソファから転がり落ちた。
「うん?!、何だ?」
見事に逆さなって蹴飛ばした本人を見た。
「ああ、ブーディカおはよう」
「おはようじゃないわよ、もう、9時よ9時、全くどうしてそんなに寝ていられるのかしら?」
少々厳し目な言葉が飛んだ。
あれは夢か・・・、余りにいつも通りのブーディカに、あれは夢だったのかと思った。
「ハハッ、そうだよなブーディカがそんな事するわけないか」
ブーディカは何の事か分からずキョトンとしている。
ストレスから逃れるために頭を掻こうと軽く手で触れると優しい残り香がした。
「えっ、この匂いは・・・」
ブーディカを見るとネグリジェからスッカリ普段の服に着替えている。
その残り香はネグリジェに付いていた匂いだ、膝枕をされて優しく頭を撫でられた、そうしなければ付かない匂い。
ああ、そうか、分かった、夢じゃなかった。
俺は自然と口角が上がり、笑みを浮かべ、すくりと立ち上がるとブーディカを見た。
ブーディカも何かを察したのか、ブーディカも笑みを浮かべ尋ねる。
「答えを保留にしてたけど決まった?」
まるで確信しているかのように自信に満ち、傲慢で、全て自分の思うままにしてみせる、そんな顔。
「ああ、決まった、俺を貴方の弟子にしてくれ」
その日は雨だった、だけど俺の気持ちは今までのどの瞬間よりも晴れていた。