外出とお詫び
イノシシの化け物を倒してから3日が経った。
肉は充分な量があり、しばらく狩りに出なくて良いそうだ。
働きは充分にした、素晴らしい事だ。だが、その結果、ネーロは手持ち無沙汰に成っていた。
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第三話 喫茶 3−1
イノシシを倒して3日が経っていた、ブーディカは2階の調剤室でイノシシと薬草を組み合わせ様々な薬を調剤していた、そして俺はというと1階のソファーで横になり、ひたすら壁に掛けられた絵を見ている、まるで日曜の駄目亭主だ。
ウワアア~ッ、欠伸が出て仕方ない、あの量である、暫くは狩りをしなくていいらしい。
ま~地下にあれだけあればな、薬を作れるのはブーディカ1人なので一度に作れる数には限りがあった。
俺に手伝える事無いしな・・・、この世界の薬剤知識もなければ、前の世界でも薬の知識はない、それで手伝えることなど精々昼飯や夕飯を出してやるくらいだ。
それでも調剤をしているせいか、軽食が多く、作るのにさして手間は掛からなかった。
よって暇である。
仕事は自分で見つける物だと誰かが言ったが、俺の場合はこの身体だ、勝手に動くと迷惑を掛けるかもしれない、だから引き篭もっている訳だ、けして引き篭もりたい訳ではない。
「これならイノシシともう1回戦ったほうがマシだな~」
あまりの暇は拷問に似ている。
外に出て運動が出来るわけでもないし、簡単な作業が出来るわけでもない、なぜ禁固刑がただの懲役刑よりも重刑なのか分かった気がした。
「刑務作業って有るだけで助かるんだな~」
スマホが無い時の暇の潰し方をググっておけば良かった・・・、やることが無く本当につまらないと思っていたら、2階のドアが開く音が聞こえた。
思わずソファーから飛び起きるとまだかまだかと待った。
ブーディカが幾つもの小瓶をトレーに乗せ階段を降りてきた。
「フーッ今日の調剤はお終い、あら、私が降りてくるのがそんなに待ち遠しかった?」
まるで、飼い主が遊んでくれるのを待っていた犬の様なキラキラとした目でブーディカを見る。
「うッ、その顔は冗談じゃなくて本当にそうなのね・・・」
ブーディカは少々引いた様だが、降りてくるのを楽しみにしていたのは本当だ、このままでは拘禁病になってしまう。
(Tips)(拘禁病・・・、狭い空間で一人だけになり、いつまでも閉じ込められていた結果、壁に向かって話し始めたり、脳内彼女や脳内彼氏をつくってウフフフアハハと意味もなく笑って話し始める愉快な病)
「ブーディカ様、この後何をなさいます」
今までになく丁寧な言い方だった、ネーロの構って欲しい圧力が予想以上に高まっているのが分かり、ブーディカは頭の中でスケジュールを組み替えた。
「そうね、ここ、2,3日外出もしてないから表通りに行きましょうか」
「えっ表通りに・・・」
ネーロは失望の余りに闇落ちしそうな顔をした、俺はこの外見だし、行けないよな・・・、ウズウズと闇の波動でも出しそうな雰囲気だ。
ブーディカはトレーを置き、手を洗いながら言った。
「貴方も行くのよ」
「えっ?!」
失望に染まった顔に光が射す。
「私は凄い魔法使いだって言ったでしょう、貴方に視覚偽装の魔法を掛けてあげる、それがあれば大抵の人は騙せるはずよ」
表情がみるみる明るくなり、歓喜へと変わった。
「ブーディカ!!」
嬉しさの余りに抱きつき持ち上げた。
「わわっちょっと」
「いや~これで外に出れるのか、ありがとう!」
持ち上げそのままクルクルと回る。
「クスッハハハッも~仕方ないわね~」
クルクルと回るその高い景色に懐かしさをブーディカは感じたのだった。
歓喜を表現し終えるとブーディカを静かに下ろした。
・・・・。
汗がブワッと出てくる様な寒気を覚えた、俺は浮かれてなんて事をした、ブーディカの腰下を持ち、クルクルと回った、女性の腰に手を回すだけでもセクシャルなのにガッシリと掴んで持ち上げた..、ブーディカに消し炭にされても仕方ないレベルだ。
俺はどうなる?。
横目にブーディカを見ると、ブーディカは笑顔で右手をかざしていた。
ああ、俺は終わるのか..、ネーロこと水原京一にはその笑顔は魔王の顔に見えた。
「そのままジッとしてなさい」
笑顔で言う、恐怖で身体が固まり動けない、ああ、俺の転生(いや、転死人生か?)人生も終わりか..。
目を閉じジッとしていると呪文が聞こえた。
「隠し現われよ偽りの顔よ、新たな肉をその身に付け」
光が身体に当たった、ああ、せめてもの情けに北斗有情拳で殺してくれるのか..、短い間だったが楽しかった。
そんな感傷に浸って待つと何時までも爆散しない、あれ可笑しいな間違ったのか?、などと思い、
そろりと目を開けた。
「ほらっ何時までぼっとしているの、もう魔法は掛かったわ」
「えっ俺を殺さないのか?」
「えっ、何で殺す必要があるの?」
「えっ、だってそのな~」
ブーディカはキョトンとしている。
そうかセクシャルだったなと感じたのは俺だけでブーディカはそう思わなかったのか、ハハッそうか、安堵から笑みが零れた。
「何を言ってるか分からないけど、取り敢えずこれを付けて」
渡されたのはアームカバーの指は出ないやつだった。
「私の魔法の腕でも全てを偽装すると魔力がバカみたいに掛るから、今回は顔に集中したわ、全力でやれば他の所も完璧なんだけど、それだと、他の魔法が使えなくなっちゃうから、今回は諦めて」
「その代わり、私のアームカバーとブーツを貸してあげる」
「なるほど、確かに人間、顔を第一に見るもんな」
「ええ、貴方も外で食事したいでしょう?」
「ああ、それはもちろん」
「なら顔の出来に回して正解ね」
黒に金の刺繍が入ったアームカバーを付けると何だか不思議な感じだ。
「それで顔を鏡で見てもいいか?」
「良いわよ、どうせ街往く人に見せるんだから」
「ああ、そうだな」
恐る恐る鏡を覗き込むと、そこには黒い髪に翡翠色の瞳、切れ長で流し目が似合う目は女性ウケしそうな形をしていて、鼻は高く真っ直ぐで唇は男のガサガサしたものではない柔らかさを感じさせた。
そこには美青年と美少女の良い所持った中性的な美青年の姿があった。
ハハッこれはヤバイな、でも俺の生前とはかけ離れている、俺は目つきが悪いもんな。
「フフッ」思わず笑みが溢れる、イタズラ心を刺激された笑みだ。
「ブーディカ様はこういう顔がお好みで?」
ブーディカに近寄ると笑みを浮かべた出来る限り爽やかさを意識した笑みだ。
「私は世間一般が思う美青年にしただけよ」
少し気恥ずかしそうに言う。
「そうなのか、フフッ、ま~良いけど」
どうやら少しは自身の願望が入っているようだ。
ならやるしかないな~、俺は自身の出せる限界のイケボで歯の浮くようなセリフを喋った。
「ブーディカお嬢様」
「おっお嬢様?」
ブーディカは目を白黒させたがここで躊躇してはいけない、やりきれ俺。
「私の為にここまでしてもらい、感謝が尽きません」
膝をつきウルウルとした瞳で見つめる。
「どんな金銀財宝もブーディカお嬢様の美しさと力には敵いません、それをこの目で見ていられる幸福を私にくれて本当にありがとうございます」
「私は貴方の下僕です、貴方を思う心に支配され、例え王冠を渡されても貴方を選ぶでしょう」
「貴方は私の空であり大地です、無くてどうして存在できるでしょう」
少々詩文に過ぎたか?、と頭に過ったが今の俺に思いつく歯の浮くセリフはこれくらいしか無い。
かと言って少女漫画のセリフは言いたくなかった。
俺のブレーキはお前に壊された、とか、お前を予約したのは俺だ、とか、君の顎がスキだ、触るとずっと見つめていられるから、とか、そんなのは浮かんでも言えない。
でもブーディカはどうなんだ、そっちのが好みなのか?、などと疑問に思ったがウルウルと見つめ反応を見るしか無い。
ブーディカはふるふると震えた、何に震えているのかと顔をよく見ると真っ赤になり今にも爆発しそうだ、あっ結構可愛いと素直に思った。
「なっなななっなんて事言うのよ、このバカ~っ!?」
すっかり混乱し魔法を唱えた。
「囚われ人は地に鎖を結ばせる、沈め大地へ!!」
「グフッハ!!」
魔法は俺の身体を床へとめり込めせ身動きを取れなくさせた。
「フーフー、今度、おんなじ事言ったら湖に沈めるわよ」
耳まで赤くして照れている・・、可愛いなブーディカは・・・だがメリメリと重力が増すようなこの魔法はかなりキツイ。
「ああ、もうふざけない、だから開放してくれないか?、これ、まじでキツイんだが・・・」
メリメリと床板が鳴り、何だかヤバそうである。
「フッフン、どうせまた変な事言うんでしょう?、暫くそうやって反省してなさい」
何だか反応を見るとまんざらでも無いようだ、だが今は一刻も早く開放してもらうのが先決だ。
「ああ、分かったもう言わない、だから解除してくれ、多分床がヤバイ!!」
「えっ」
バキンと音がした次の瞬間、床が壊れ、俺は地下室へと落ちていった。