死、そして出会い
初めてなろうに投稿します、PIXIVにも投稿しているオリジナル作品なのですが、多くの目に触れて欲しいと思いこちらにも投稿する事にしました。
第一話序章
雨が降っていた6月の末、いつも使う交差点でいつも通りにスマホゲーをしていた。
何で気づいたのかは今も分からない、イヤホンにスマホ、明らかに周囲の情報なんて入れる気の無い、そんな姿でどうして目に止まったのか..。
でも、その時の事が無かったら俺はコイツの横にはいなかった。
「どうしたのネーロ?」
小高い丘の上を歩き、涼風になびく長い金髪を押さえ、静かに振り向りむくその姿はどんなに見ても飽きない愛おしさを持っていた。
「いや、つくづくよく出会ったなってね」
膝についた土を払い落としながら立ち上がる。
「なに出会ったのは間違いだったとか思ってる?」
口を尖らせながら、試すような、でも、信頼しきった目で言う。
「ああ、間違いかもな、でも良い間違いだ」
少し意地悪な笑みを浮かべながら言った。
「ちょっとそこはそんな事は絶対に無い、貴方に出会えたのは最高にして最良にして幸せな出来事って言うのが普通じゃない」
しかめっ面になりながら俺の胸骨を指で軽く叩く。
「んっ、そこを叩くのはなしだ」
「そう言いながら弱いのよね〜」
トントンと叩かれると俺の目が赤く光りだす、金髪の少女はニマ〜っと満足そうな笑みを浮かべると叩くのを止める。
「ま〜いいわ、それじゃあ行きましょうか」
「ああ」
涼風が止み、丘を越えた先を見渡すと無数のアンデットの姿があった。
「カハーッ」
息を吐き魔力を高める、頬骨の隙間からも息が漏れ、三方向に白い霧を飛ばした。
フードから覗く目は赤く光り、白いスカルフェイスからは闘志が伺える。
「本当に不思議よね、骨だけなのにどうして息を吐くのかしら?」
「俺にも分からん」
右手に持った両刃剣を手首で一回転させ、アンデットに向け構える。
「アイツらを倒せば色々分かるだろう」
金髪の少女は軽く笑みを浮かべると剣を抜き放ち構えた。
「それもそうね、それじゃあ行きましょう!!」
「ああ!!」
俺達はアンデッドの群れへと突撃した。
半年前、
「フア〜、あ〜ゲームやり過ぎでマジ眠いな..」
気怠げに道路を歩いていると心なしか人に避けられている、どうもゲームのやり過ぎで生まれつきの目つきの悪さが更に悪くなっているようだ。
フフッ、人を外見でしか判断できない愚民どもめ、本気でもない言葉を頭の中で響かせ、スマホを取り出す、ゲームをするためだ。
ゲームで疲れた目を更にゲームで癒やす、それがゲーマーだと誰かが言った(俺が言ったのだが)。
それくらいに夢中になれるものはゲームしか無かった。
運動はそこそこで勉強もそこそこだがゲームなら負けない、少なくても伝説のトッププレイヤーとでも出くわさない限り負けたりしない。
いつものゲームを立ち上げるとLORD OF THE GUNSのタイトル画面が現れた、最近専らやっているゲームだ。
「よし朝イチの勝利を貰いますかな」
プレイしようと構えた時、スマホに雨粒がついた。
「ゲッ雨かよ」
スマホのお天気ニュースを見ると午後から雨だと書いてあった。
「外れてんじゃん、クソが」
本気でもない言葉を吐く。
スマホは完全防水だったが、それでも雨に濡れて見づらくなれば朝イチの勝利とは行かないだろう。
雨を避けようと雨宿りの場所を探していると何故か目についた..。
バカなガキが赤信号なのに交差点を渡ろうとしている、慣れない雨合羽に傘を差しているせいか、信号が変わったのに気づいていない。
オイオイオイ、冗談だろ、雨が勢いを増し始め、まるでこれから起きる惨劇の血を洗い流す準備をしてるかのようだ。
「おい!!、ガキ、戻れ!!」
叫んだが勢いを増した雨に遮られた、突然の雨による視界不良、朝方、通勤に急ぐ車、事故が起きる三大条件が整っていた、それに普段なら見通しの良い直線道路、歩行者も運転手もまさか見逃すはずはないと思い込む魔の条件。
バカガキはそのままカエルの歌を歌いながら交差点に踏み出した、車はまだ来ていない、今のまま渡りきれば何事もなかったのと同じ、鼓動が早まる。
「クソッ寝てないだからドキドキさせんな」
だが左右をもう一度見ると右手から10トントラックが来ているのが見えた。
バカガキの方を見ると白線をケンケンパしながら渡っている、心底アホだと思った、そしてアホを救う為に飛び出した俺もバカだと。
10トントラックがブレーキの音がけたたましく響いた、だが気付くのが遅かったブレーキを懸命に押し、人を殺したく無いと心底思っているであろう引きつった顔、その顔が少しだけ視界の隅で見えた。へっ、ならもっと早くブレーキを踏みやがれ、悪態を脳内で響かせながら俺の右手がガキを突き飛ばした。
それとほぼ同時に俺の脇腹目掛けトラックがぶつかる、ミシミシと骨が砕け、内臓へと刺さってゆき、その余りの痛みに視界が明滅する。
痛みのせいだろうか、全てがスローモーションになり世界が止まって見える、痛みは止めずに伝わるのに。
ガッハ..、ゆっくりだと思ったのは一瞬で俺は十メートル程抗えない放物線を描き、地面に叩きつけられた。
視界が壊れたブラウン管テレビの様にさざ波打つ..、雨の音が聞こえた..、生きたいと望む心臓の声が聞こえた、だがそれは無理だと悟った、流れる血が折れ曲がり指が取れた手のひらを染めていたから。
「あ〜死んだなこれは..」
それが意識を失う前に思った最後の言葉だった。
暗闇..、静かな暗闇..、時間が過ぎるのも感じさせない程の深海と宇宙を混ぜたような静かな暗闇。
その暗闇に光が漏れてきた、まるで卵の殻を割り出てくる雛が初めて見るような光り..その眩しさが消えていたであろう意識を目覚めさせた。
その光を眺め始めると声が聞こえた。
「ハーハー貴方は死者なの?」
息を切らせながら走っているような女性の声だ、何だ誰なんだ、開ける瞼も持たない俺に話しかけるのは。
「貴方が死者なら答えて、私がそこから出してあげる」
「出す..?、何処から..」
「墓の下からよ、ああ、もうしつこい人達ね!!」
少女は苛立ちながら話しかけるのを止め、空中に飛び上がると右手に火球を生み出した。
「少し黙ってなさいファイヤーボール!!」
黒装束の集団に向け放たれた。
黒装束の1人に火球を当て、男は堪らず地面に転がり身体を土に擦りつける、黒装束の集団はやられた仲間を見ても平然とし勢いを止めずに走る。
「クッ、本当にしつこい」
漏れ出た光が情景を映していた、少女がに追われている様だった。
何で見えるんだ..?、どうして見えるのかは分からなかったがその光景は俺のいた世界の物ではなかった。
ファンタジーやゲームで見る様な格好の集団が少女を追いかけている、その少女は赤と紫の衣を纏い、翡翠のような瞳持ち、この世の財宝を散りばめた様な金髪をなびかせ宙を舞う。
ズザッ、着地した様な音が目の前でした。
どうやら俺は土の下にいるようだ、漏れ出る光が見せる風景は少女が目の前にいることを示していた、その壮大なパンチラによって。
仰向けになっているであろう俺の真上に少女が立つ、それはたとえ見る気が無くても見えてしまうどうしょうもない角度、豪華な外見のとは裏腹に下着は白く清楚で綺麗な刺繍がなされていた。
「フフフッ、追い詰めた先が墓の前とはお前にはお似合いの最後だな」
黒装束の集団が手に持った鋭い剣を少女へと向ける。
「フフッ私の最後に相応しいですって、冗談、私の栄光の始まりに相応しいの間違いよ」
少女は自身の親指を噛み、その鮮血を飛沫として空中にへと撒いた。
「まさか、覚醒していたのか?!」
黒装束の集団はどよめき、思わず後ずさる。
フフッ、少女が浮かべる不敵な笑みに呼応するか様に小さな飛沫だったはずの血が大きな赤い煙となって渦巻いた。
「現出せよ、我が理に従い、鮮血の契約を以て土に乾いた身体を再び潤せ、リターンオブライフ!!」
少女が呪文を叫ぶとその煙が墓の下へとなだれ込んだ。
うぉぉぉおおぉ、何だこれは煙が動かなくなった俺の身体へと入ってくる、その赤い煙が俺の無いはずの心臓を鼓動させる。
「さー生き返りなさい、私の下僕として」
赤い光が少女の真下から吹き出した、墓石が割れ、その下から骸骨が現れた、顎の隙間から吐く息が漏れる、眼球が有るはずの目には赤い光が鈍く光り、瞳の代わりを告げていた。
肉が僅かながら所々に付き、その不完全さを現したかの様な姿は見るものに恐怖を与える。
「カハーッ、何だここは、何が起きた?、俺は確かガキを、痛ッ、ああ、思い出せない」
「フフッまだ復活して間もないからよ、少しすれば思い出せるわ」
少女は俺の後ろへと下がり、自信に満ち傲慢とも思える強い意思を宿した瞳で命令した。
「そこのクソ野郎ども残らず殲滅しなさい!!」
身体がビクッっと震え、自分の意思とは関係なく動いた。
「ウォォオォ」
雄叫びとも叫びともつかない声を上げ、黒装束の集団へと突っ込んだ。
「怯むな骸骨に何が出来る!!」
隊長格と思しき黒装束がその両刃剣に渾身の力を込め斬りかかると、俺の右手の骨はやすやすと切断され、地面にぼとりと落ちた。
だが、その容易さが安堵となり、油断を生んだ、筋肉も腱もなく動く骸骨に人の常識が通じると思ったのが間違いだった、そのまま俺はその鋭さを保った歯で首元に噛み付いた。
「ぐあああぁぁはっ」
余りの痛みに黒装束の男は叫び、握っていた剣を無様に振った、密着し力を込めれずただバタバタと叩くだけだった。
肉がミチギチと千切れ、その鋭い歯は首の深部に隠された頸動脈へと達したその瞬間、血しぶきが撒い叫んでいた身体もビクビクと僅かに震わせ動きを止めた。
「ヒッ」
1人が恐怖に駆られ逃げ出そうと後ろを向き走り出すと赤い火球が綺麗な放物線を描き、当たった。
炎に包まれ地面に転がり火を消そうとするがその炎は消えなかった、息も出来ずに藻掻き、最後には夏に蝉の様に四肢を折り畳み死んだ。
「フフッ私は攻撃しないなんて言って無いわよ、それに乙女を集団で追いかけていたのに自身が追われる立場になったら逃げ出すなんて、そんな奴は永劫の炎に焼かれて塵飛びなさい」。
その瞳は翡翠の深さを持つと同時に冷酷を併せ持っていた。
「さー骸骨君、残った奴らを殲滅しなさい」
右手を大きく前に出し命令した、その様はまるで女王だった。
身体は命令のままに動き追撃する、怯え怯みもはや戦闘意欲失った集団は俺の骨を僅かを切り欠ける位の力しか持っていなかった。
「グギャアア、うあわあ」
其々の叫びが森に響いたがそれもすぐにしなくなった、後には黒装束から流れる赤い血で地面を濡らす死体の山が出来た。
「フフフッ、初めて作ったにしては上出来ね、いくら集団の体を成していないと言っても一応武装していた訳だし」。
死体を指でツンツンとしながらその金髪少女は笑っていた、普通ならその姿に恐怖を覚えるだろう。
だが、一度死んでいるせいだろうか、俺にはその姿が美しく思えてならなかった。
「我が主よ」
膝を地面につき傅く。
「俺を蘇らせたのは貴方か?」
「ええ、そうよ」
ニッコリと笑いながら振り向き、骨でしか出来ていない俺の顎に触れた。
「フフッ、貴方は意識が有るのね、タダの傀儡じゃなくて」
「ええ、あります」
その一つ一つ細く輝く金髪が左右の視界を覆う。
そしてその翡翠色の瞳が俺をジッと見つめる、まるで彼女に吸い込まれるような錯覚を覚えた。
「ならこれから言う言葉も分かるわね」
その赤い唇が微笑み、俺の背筋をゾクゾクさせる、快感とも不快ともつかない曖昧な感覚が駆け上る。
「貴方は私によって第二の生を得た、だからその命は私の為に使われるべきよね」
傲慢さと気品を併せ持つ少女を前にただ頷く。
「名前はなんて言うのかしら?」
両手で顎を持ち、顎の裏側や隙間に指を入れる、誰にも触らせる事出来ない場所を触られ、感覚が麻痺していく。
「ああ、俺は、俺の名前は水原京一」
名前を告げたその瞬間、少女の笑みが変わった。
「フフッ、フフ、アハッハハハ、嘘っ、そんな名前聞いたことないフフッ貴方、精霊の気まぐれに会ったのね、フフッ、それでこの世界に迷い込み死んだのね、あ〜可笑しい」
少女は腹を抱え、笑い転げた、俺には何が可笑しいのか分からず、戸惑いを隠せなかった、その気持ちが言葉を吐かせた。
「いや、多分死んだのは元の世界でだ、それからの記憶は曖昧だし、とても深い暗闇にいた様な気もする」
その一言で、笑い転げていた少女はピタリと動きを止めた、そしてゆらりと立ち上がる。
「へーじゃあ貴方は死んでいる所を精霊の気まぐれに遭ったのかしら?」
今度は眼窩と下顎に指を入れられ、まるで全てを握られたような、少女に征服された感覚が襲った。
そしてその目は骸骨の奥で光る赤い目を覗き込んだ。
「ああ、多分..」
余りの迫力に無いはずの身が震えた。
だから、次の反応は予想外だった、柔らかく紅い、朱に染まり、その白い肌を際立たせる唇が俺の額にキスをした。
何が起きたのか分からず、赤く光る目を点滅させると少女はもう一度こちらの目を覗き込んだ、まるで頭蓋の裏側まで見るかの様な瞳..。
「貴方が私の予想に反して特別だからキスをしたの、誰でもする訳じゃないのよ、何が特別かは今は言えないけど..」
「ああ、君はそういう人じゃないのは分かっている、その傲慢と気品を合わせた瞳を見れば分かる」
何故かそう断言してしまった、初めてのキスだからか?。
「フフッ、そう、なら良かった、でも貴方の名前はこちらの世界じゃ馴染まないわね、こちらの世界用に付けてあげる」
少女は顎を持っていた両手を離し考え始めた。
その時間がとても長く感じられた、少女がその口を開くのに費やした時間はほんの少しだというのに。
「そうね、ネーロ..、ネーロなんてどうかしら?」
その名前を聞いた瞬間まるで昔から自分の名前だったかのように身体が反応した、ああ、俺はもう完全にこの人の従者になってしまったんだ。
「ハイ、それで構いません」
頷くと少女はその綺麗な手を差し出し俺はその手を両手で静かに持った。
「そう、ならネーロ、何があっても私を裏切りない?」
「ハイ」
「私が病に侵された時、何よりも優先して私を助ける?」
「ハイ」
「その全てを私に捧げる?」
「ハイ」
「なら私の名前も教えてあげる、私の名前はブーディカ、今はただのブーディカ、でも後に栄光の名前になるわ」その瞳は確信に満ちていた。
「さて、名乗った事だし、貴方を人間にしてあげる」
そう言うと少女は呪文を唱えた、死んだ黒装束の人間から衣服が剥ぎ取られ、不思議な光と共に織り直されてゆく、光がブーディカの手に戻り、その手にはローブが出来ていた、そのローブは真っ黒だった色が紫や金糸の刺繍が施され、豪華になっていた。
「これで貴方は人間..、意思を持ち、服着る人間..」
そのローブは優しく掛けられ、まるで肌に染みる様な気持ちになった。
切断された右腕はブーディカが静かに添え、呪文を唱えると綺麗に付いた。
「あともう一つ誓いなさい、私と共に栄光と血に染まる道を歩くことを」
先ほどと違い自信に満ちた瞳に少しの哀しさを見た瞬間、水原京一として誓った。
「ああ、貴方が血に濡れないようにこのローブを使おう」。
「フフッ、ありがとう」
その傲慢さと自信に満ち、少しの哀しさを秘めた瞳が少しの優しさを向け、言った。
「下僕のネーロ、さあ、共に行きましょう」それが俺達のこれから始まる冒険の合図となった。
小説を書き始めて1年半くらいですが、羞恥心が邪魔して実際の投稿まで時間があいてしまいました。
ブーディカと水原京一の冒険と日常を楽しんで頂けたら幸いです。