ATM
それは去年の夏の日の昼間におこった出来事であった
僕は仕事の帰り、お金をおろすためにATMへいかなければならなかった
ATMは駅構内ショッピングモール北側に設置されていて外から入り中のドアを開いて店舗内へ入ることのできる
作りとなっていた
僕は財布からキャッシュカードを取り出しつつATMのドアを開いた
外からは人影は見えなかったが中には小学生くらいの女の子がいて何やら泣いているようだった
「あ どうしたの?大丈夫?」
「嫌ぁ この子がぁ 言うことを聞いてくれないの」
僕が声をかけるとその女の子はたちあがり右腕にぶらさがった人形のようなものを差し出すように
見せつけた
「なっ?!」
少女の腕からは血が滴りおち腕にはたくさんの噛み跡と見られる傷ができていた
その瞬間その人形のようなものは少女の腕からどさりと落ちた
「はやく逃げろ!」
僕は少女を’それ’から引き離し僕が入ってきた方の店舗の反対のドアから外へ出した
「ぎゃあああああ」
ATM内で’それ’は大好きなおしゃぶりをとりあげられた赤子のように大声をだしてわめき出す
(赤んぼう?)
僕は恐怖心と興味で血で真っ赤に染まった泣いている赤子の顔をよく眺めた
その顔は血で染まっている以外のところは斑になっていて斑はまるで入れ墨のようにくっきりとしていた
外に逃した少女は外から見えないはずの僕を眺めニタリと笑いながら手を振りどこかへ行ってしまった
(この子なんとかしなくちゃ)
僕は’それ’を抱こうとそっと手を差し出した
「ぎゃっ・・・・・・!?」
手首のあたりに熱さにも似た鋭い痛みが走った
そして手首に噛みついたままの’それ’と目が合う
’それ’は憎悪と殺気をたたえた醜悪な目つきで僕を睨んでいた
僕はとっさにモール側のドアを開け’それ’をふり離しすぐにドアを閉めた
手首からは鮮血が滴り落ち肉が欠損しているのがわかった
僕に振り払われたそれは口の中に残っているであろう僕の肉片を噛みながら大声で泣きドアのガラスに血だらけの手のあとをつけている
ショッピングモール内にいる人たちはこれだけ大声で泣いているそれに気づいていないのか
それとも気づかないふりをしているのかこちらを見ようともしていなかった
僕は入ってきた方のドアから逃げ出した
これ以上血が出ないよう右手首の上を左手で握りながら
一体あれは何だったんだろう?少女はいったい何者だったんだろう?
数年がたった今でも手首についた歯型は消えていない