人は見た目じゃない、中身だ。
なんて言う人もいるけれども、私の人生においては、それはほぼ当てはまらないと思う。
自分で言うと嫌な感じだが、私はいわゆる「美人」の部類で、それで得をしたことは山ほどある。
もちろん、逆に損したこともある、たくさん。
あと、外国の血が流れていることがはっきりわかるので、ことあるごとに「ハーフなのか」と聞かれてきた。
大体その後に続くのは、「どこの国の血が流れているのか」、「英語しゃべってみて」と決まっているので、慣れてはいるけど面倒くさい。
「顔立ちくっきりしてるね。ハーフ?」
「はい、そうです」
「どこの国?」
ちょうど就職活動の面接中。
しかも面接官はいきなり社長。
なのだけれど、やっぱりいつもの質問から始まり、もうずっと私の外見についてあれこれ言われている。
確かに私は、顔立ちも髪や目の色も多少目立つ自覚はあるが、そんなことばかり言わないでほしい。
採用面接と言ったって、モデルになるわけでもあるまいし。
「その顔じゃ、得することも多かったでしょう」
「え? はあ……?」
「やっぱり見た目っていうのは大事だよね」
私が応募した職種はITエンジニアだ。
正直興味があったわけではなく、求人サイトのおすすめに出ていたからなんとなく応募しただけなのだが、あれよあれよと言うまに面接となってしまった。
従業員数が数十人という規模だからか、いきなり社長が登場して、面食らうばかりだ。
IT業界は未経験、25歳で正社員経験はなし、背水の陣である。
背水の陣ではあるが。
「IT業界の女の子って、なんか暗いんだよね。もっさりしてるって言うか。その点鷺坂さんは雰囲気明るいし、華やかだよね」
ーー飽きた。
正直な感想はそれだ。
だって社長のありがたいお話は退屈だし、なんだか気持ち悪いし、ちっとも聞いていられない。
こういう見た目の人は仕事ができない、仕事ができない人は共通して見た目が悪い、誰々さんは仕事は早いけど可愛くない、そんな話ばかりだ。
いくら私のことはよく言ってくれるとはいえ、なんだか生理的に受け付けない。
ーー面接はどうやったら切り上げられるんだろう。早く帰りたい。
なんとなく適当に相槌を打っている間に意識は蛇行していく。
退屈だし、不快だし、それに寒い。
雪が舞うような寒い時期に、パンツスーツがなかったからスカートで、しかもストッキングだから、異様に寒い。
スーツを新調すべきだったかもしれない。唯一持っていたのは、大学の入学式用に買ったセットアップだったのだけれど、フレアスカートが今の私の年齢にはきつい気がする。
「じゃあ、採用です」
そのままとりとめもないことを考えていたところを、現実に引き戻したのが「採用です」の声だった。
「……えっ? あっ、あの……」
「それで給与なんだけど、うちは未経験入社の人は22なんだよね。じゃあ鷺坂さん、よろしく」
「あ、はい、あの……ありがとうございます」
本当にこの時は馬鹿としか言いようがなく、いろいろ気になることも多かったのに、そのまま流されてしまった。
断り方がわからなかったのだ。「ありがとうございます」の後に、「考える時間をいただけますか」とか、その類の言葉を足せばよかったのに。
あとから考えてみれば、リフレッシュ期間にするとか、もっとじっくり吟味するとか、いろいろあったはずなのに、よりにもよってもっとも悪手を打ってしまったのだ。
それが悪手だと気づくのに数年、悪手だと受け入れるのにまた数年かかるわけなのだが。
そして、社長の「22」が月給22万円を意味することに気づいたのも、数日後書類を受け取ってからという体たらくだった。