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7. イケメンモデルに助けられました

 私は今、走っている。

 パンをくわえてそれこそ少女漫画の主人公のように……


 いや、そんな生ぬるいものじゃない。

 私は今全速力で寮から教室への道を走っている。

 私みたいなおばかは、一回でも授業を受けなかったらもうついていけなくなってしまう。


 寝る前に漫画を一気読みしたのは間違いだった……!


 そう昨日の夜の自分を恨めしく思いつつ、スマホで時間を確認する。

 授業が始まるまであと5分。

 ここからだと間に合うか間に合わないかくらいか……


「おーい!」


 突然聞こえてきた明るい声に戸惑う。

 上空から聞こえたようだけど……?

 見上げると宙に浮かんだ手を振るエースの姿。

 私は思わずくわえていたパンを落として、慌てて受け止めるとエースに向かって叫ぶ。


「エースが貸してくれた漫画すっごく面白かった! でもそのせいで遅刻だよー!!」


 昨日読んだ漫画はエースがオススメしてきたものをだった。バトルものかと思ったら令嬢との恋もあるとってもいい作品で……なかなかエースにしてはいいセンスだったと思う。


 そんなこと思ってる場合じゃない! とスピードをあげる。

 すると、エースが私の目の前まで下がってきて、手を差し出した。


「そんじゃ、気に入ってくれたお礼ってことで」


 楽しそうな笑顔に私はその手を取りそうになる。でもはっとする。私が触れると心を読んでしまう。

 手を取るのを躊躇していると、


「なるべくは、読んでほしくはないけど……お互い遅刻しそうなわけだし、気にすんなって」


 とエースははにかむ。私は「ありがとう」とその手を取った。



 エースの異能は空を飛ぶこと。エースに触れているものも例外なく飛ぶことができる。

 上から見る景色は新鮮で、気持ちいい。

 ただ唯一緊張するのは、エースと手をつないでいること。

 力強い手だ、と感心していると。


『漫画……新ジャンルに挑戦してよかったな。気に入ってもらえたし。俺も漫画もゲームも好きだし、一緒に遊んだらマジ楽しいだろーな』


 これは、間違いなくエースの声。

 エースはなんてことない顔で「空飛べるっていいだろ!」とか言っているけど……


「ね、来月すっごい楽しみにしてたゲーム発売するんだけど……よかったら一緒にやらない?」


 私は思い切ってそう言った。

 するとエースはパッと笑顔になって、それから少し恥ずかしそうに顔を背ける。


「心読むなって……」

「ごめんごめん。でも、読んでなくても、一緒にやれたらなって思ってた」


 エースがゲームと漫画が好きなことは初めて知ったけど、誘ったら一緒に楽しんでくれそうだと思っていた。


「エースと遊ぶなんて小学校以来?」


 エースはコクコクと頷いた。そんなに心を読まれたことが恥ずかしいのだろうか、エースの顔が心なしか赤く見える。


「約束だからな!」


 エースがそう言った瞬間、チャイムが鳴り響いた。


「ちょっと、エース! もう少しスピードアップ!」

「分かってるって!」


 言い合いながら、遅刻も悪くないかも、と少し笑ってしまった。





「もう授業始まってんな……」


 閉じられた扉からは先生の声が聞こえて来る。

 私とエースは入れない雰囲気を悟って項垂れる。


「せっかく頑張ったのにね……」

「いや、シオンは俺につかまってただけだろ」


 エースがしれっと私を見て、私は「私は飛べないもん」と頬を膨らます。

 どうしようかと、困っていると。


「君たちも遅刻?」


 向こう側から颯爽と歩いて来る美青年が目に映る。

 学生なのか、先生なのか、抜群のスタイルと大人っぽい印象のせいでわからない。


 はわわ……とうっとりするのをなんとか堪えているとエースが「そうです」と頷く。


 近寄ってきた美青年は170近くあるエースよりも背が高くて、私は見上げてしまう。髪は淡いブロンドだが、毛先はピンクと紫が混じり合ったような綺麗な色に染まっている。化粧もしてあれば、スーツのような服装に私はますます混乱する。


「そうか、じゃあ僕に任せてよ」


 美青年はそう笑かけると、勢いよく扉を開けた。

 ええ!? と驚く私とエース、もちろん生徒たちをよそに美青年は突き進んでいき先生に声をかけた。


「おはようございます。本日は仕事がないので授業に参加させていただきますね。ああ、それと彼らはさっき僕をファンの群衆から守ってくれましてね。というわけなので、彼らも今から大丈夫ですか?」


 美青年がそう笑かけると、先生は私たちに向かって「それはご苦労だったな」と笑うと授業への参加を許可してくれた。


 席に着いて私とエースは頭を下げる。


「ありがとうございます。本当に助かりました……!」

「気にしないで。それにレディを助けるのは当然だからね」


 美青年がそう微笑むから、私はぼぼっと顔を赤くする。


「で、一体何者? 仕事とか言ってたけど、先輩? それとも俺らと同じ1年?」


 エースはなんだか不機嫌そうに尋ねる。

 レディじゃないエースはあんな風に言われたらそりゃ拗ねるよね……


「ああ、僕は2年A組のレイ・クリエート。モデルをやっているんだけれど、知らないかな?」


 美青年、レイはそうニッコリ笑う。

 そう言われれば見たことあるような気も……

 というか、さっきから女子の視線が痛すぎる。イケメン2人に挟まれているから女子の「なんでお前みたいなのが!」という文句がひしひしと伝わる。


 ごめんなさいー。私だって望んで挟まれてるわけじゃないのー!


「ああ、あの有名ブランドの専属モデルでしたっけ」


 エースがそう答え、私は聴き慣れないブランド名に頭がお花畑になってしまいそうだ。


「そう。今日もさっきまで撮影でね。急いでたから撮影用の新商品を着てきちゃったよ」


 レイはそう真っ黒のおしゃれなスーツに目をやる。きっと私が頑張って働いても手に入れられないのだろう。


「あ、そういえば、2年A組といったらアルト先輩と一緒なんですね」


 私は話題を変えるべく、そう言う。

 するとレイは、目を輝かせて私に詰め寄った。


「アルトくんを知っているんだね!」


 あまりの勢いに、引き気味に頷く。


「いやあ、僕アルトくんに嫌われてるっぽくて……えと、君名前はなんだっけ」

「シオン・アリシアですけど……」


 アルト先輩に嫌われてるってことは可愛いとか言っちゃったのかな……と苦笑いしながら名乗る。


「よし、シオン。僕が彼と仲良くなれるように協力してほしい!」


 戸惑っていると「今日助けたお礼ってことで」と言われ、断りにくくなってしまった。

 エースと少し顔を見合わせてからレイに向かって笑いかけた。


「分かりました。レイ先輩がアルト先輩と仲良くなれるように協力しますね!」


 やるからには、仲良くなってもらいたい。

 それに、美少年と美青年の並んだ姿のため……


 今度、レイが学園に来る日を作戦実行日にすることに決めた。


 2人が仲良くなってくれるといいな……!

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