4. イケメンたちの謎バトルに巻き込まれました
この学園の授業方針は一風変わっている。
主に8つの科目があるのだが、生徒は受けたい授業がやっている教室に出向く。
面白いのはそこからで、学年関係なく授業を受けられること。先生がたくさんいて教える範囲が決められているため、何度でも好きな授業や分からない授業を受けられる。
まあ、裏を返せば何度同じ授業を受けていても、テストで結果を残せれば問題無いというなんとも自由な感じなのである。
そして、今日は初めての授業の日。
ドキドキしながらも、とりあえず異能学園らしく異能基礎の授業を受けることにした。
広い教室に長い机がずらっと並んでいる。席がほぼ埋まっていることに驚きつつ、辺りを見回していると。
「おーいシオン!」
手を振ってこちらに合図するエースの姿が映る。
見ればエースの隣の席が空いている。
他に空いている感じではないので、エースの元に向かう。
「シオンも一緒なんだな!」
エースがニコニコして席に座るよう促す。
まだ私に固定の友人ができていないことを心配してくれているのだろうとは思うが……ここまでだと少し恥ずかしくなってしまう。
それにエースを見つめる女子の視線が痛い。
そう思っていると、エースの隣からひょこっとイケメンが顔を出した。
金髪で前髪を上げている。私もエースも1年生だからと制服を着ているが、早速着崩して白いパーカーを着ている。
明らかにチャラ男だ……と困っているとチャラ男が私とエースを順繰りに眺めて、
「もしかして、エースの彼女?」
とにやあっと笑った。
私とエースは目をパチクリする。そして同時に叫んだ。
「「違うから!」」
チャラ男は「冗談だって」とヘラっと笑う。
「俺はリッカ・ブリッツ。1年C組。エースとはまあ、いいライバル? ってとこ」
チャラ男、もとい、リッカはそう自己紹介するので、私は思わず尋ねた。
「ライバル?」
するとエースが少し呆れ気味にリッカを見て説明してくれた。
「リッカとは中学の頃、よく学校対抗の試合で当たってたんだよ。だからライバル。まさか同じ学園の同じ部活になるとは思わなかったけど」
エースの説明にリッカはうんうん、と頷いた。
「まあ、今んとこ俺が勝ち数リードしてるんだけどねー」
リッカがドヤ顔をしてエースがはいはい、とあしらう。
「試合以外でも俺の方が上だよね。彼女とかさー」
あ、やっぱ見かけ通りだったかーー。
チャラ男の彼女歴とか恐ろしくて聞きたくないな。
すると今回ばかりはエースも「うるさいなー!」と怒る。
「俺は誰でもよくないんだし! ちゃんと考えてるし! お前と一緒にしないでくれるー!?」
エースが半ギレ気味で周りが驚いてるのも気にせずにリッカに向かって叫ぶ。
完全に蚊帳の外になってしまった私は大人しくエースの横に座って黙り込むことを決めた。
すると、私に向かってとんだ流れ弾が飛んできた。
「シオンなら、どっちがいい!?」
エースとリッカがすごい形相で私に詰め寄る。
あまりの気迫と、周りの女子達の冷ややかな視線も相まって、ひいと縮こまりそうになる。
どっちがいいって……と考えていると。
例の如く、ゴングが鳴り響いた。
「またか」とエースの呆れた声が聞こえた気がした。
スポットライトの下には珍しく実況者らしい雰囲気の私が座っていた。
『さあ、始まりました! イケメンによる仁義なき戦い!! 正直どっちも顔がいい! なんて意味のない戦いをしているのだとツッコんでしまいそうです!』
脳内映像には私を覗き込む2人のイケメンの姿。
『チャラ男イケメンのリッカ選手が心配そうに私を覗き込んでいます!』
実況者風の私が隣に現れたもう1人の重鎮風の私に話を振る。
『これはリッカ選手に1ポイントですね』
そう重鎮風の私が答えているとエースが映し出される。
『大丈夫、こいつ最近よく固まるんだわ。10秒くらいで起きっから』
エースがそう呆れ気味に言うものだから、脳内の私たちは少し不機嫌になってしまう。
『ですが、先程エース選手はよく考えて彼女を選ぶのだ、と発言していましたね。これは良いポイントなのではないでしょうか』
『まあ、確かにチャラ男よりは昔馴染みの彼の方がいいかもしれませんね』
そう脳内の私たちは無理やり実況を中断する。
飽きたのが見え見えだが……
スポットライトは消えた――
パッと目を開けて、2人を眺めた。
「私は、エースの方がいいかな」
「出会ったばっかりだしね」とリッカに向けて謝るとリッカは「大丈夫」と笑った。
エースはなんだか上機嫌だ。
「シオンは見る目があるな!」とか「俺カッコいいよな!」などと自画自賛をしている。
「ちょっと、うるさいよ」
私がしれっとエースに言うとエースは「はい黙ります」と口を閉じた。それにリッカは大爆笑する。
こんなわやわやした雰囲気の中、授業が始まった。
とてもわかりやすいな、と感心しつつチラリとエースに目をやると、エースもふむふむとノートにペンを走らせていた。
一方でリッカはというと、開始10分ですよすよと寝息をたて出していた。
私がチャラ男の先生を全く気にしない強靭なメンタルに呆気にとられているうちに授業は終わっていた。
授業終了の合図と共に目を覚ましたリッカは「そうだ」とスマホを取り出した。
「LinaのID交換しよ」
Linaとは私達ぐらいの若い世代で流行っている会話機能のあるアプリのことだ。
私もやり始めたもののゲーム優先すぎて全くいじっていない。
スマホを取り出して電源を入れる。私は右上のバッテリー残量を見て「あっ」と声を上げた。
「あんまりバッテリー残ってないや……」
昨日遅くまでゲームをしていたせいであまり残量がない。IDを交換したら切れてしまいそうだ。
これでは交換できそうもない、と残念に思っているとリッカがスマホを覗き込んで「貸して」と言う。
不思議に思いつつ手渡すと、リッカはにぃっと笑ってみせた。
リッカがスマホを握りしめる。
すると、スマホが一瞬、バチッと音を立てた。
まさか壊れてしまったのか、と慌てているとリッカがスマホを返した。
電源をつけて、私は目を丸くする。
限りなく0に等しかったバッテリーが100%に復活していたのだ。
なんで、とリッカに視線を向ける。
「俺の異能は電気を操ること。ま、バッテリーとか困ってたらいつでも言ってよ。俺といたらバッテリーの心配とは無縁だよ!」
な、なんて素晴らしい異能なんだ……!
ずっとリッカにひっついていたいと思いつつ、すごい勢いでお礼を言う。
するとリッカは「シオンの異能は?」と尋ねてきた。
興味津々の眼差しに私は思わず視線を逸らす。
チャラ男に言ったらあっという間に広がりそう……!
そう何も言えないでいると、エースが私とリッカの間に割り込む。
「な、早く交換しちゃおーぜ!」
エースがばちっとウインクする。
助けてくれたのか、とスマートな対応に驚きつつ心の中で精一杯お礼を言った。
リッカは「そーだね」とIDの画面を映した。
無事に交換し終えて、改めて友達と(しかもイケメン2人と)連絡出来ることに少しにやけてしまう。
「シオンは次どこの授業?」
エースに尋ねられ、少し考えてから
「文学にしようかな」
と答える。
「俺は数学行くつもりだからー、また後でだな!」
エースはそう言うとリッカを「お前も行くぞ!」と引っ張っていく。
「ええー、シオンちゃんまた後でねー」
気怠そうに後についていくリッカを見ながら私は少しその様子を眺める。
あれは、エーリツ? それともリツエーかな……
はっ! いけないいけない。
でも仲良しな2人だなあ……
ぼーっと考える私に「面白そうな子みっけちゃったな」と呟くリッカの声は聞こえなかった。