3. 光属性の少年は眩しすぎました
次の日のスケジュールはなかなか過酷だった。
体力的に、というわけではなく、ずっと同じ姿勢で睡魔に侵されながら話を聞くことが苦痛だった。
授業の内容とか、教師陣の紹介とか、学校の案内と……
まあ、なんとかやり切って今日のメインイベントがやってきた。
それは、部活決め。
今から3時間ほど生徒達が各部活を回って気に入った部活に入部するのだ。
そして私は今、焦っていた。
なぜならもうみんな友達と回っているから……!
嘘でしょ昨日の今日なのに、と思っていると、あのイケメンが私の前に現れた。
「シオン! 俺と一緒に回ろうぜ!」
そう言って眩しい笑顔を私に見せつけてくるのは、昔住んでいたエメラルド町の近所の友達、エース・ソアリン。
だが、私は知っている。彼はクラスではもう人気者の立ち位置についていることを。
「私と無理に回らなくていいんだよ?」
私は少し嫌味っぽくそう言う。するとエースは「まあまあ」と私を教室の外に連れ出す。もちろん、エースは私の異能を知っているため、私には触れない。
「お前昔っから面白いしな」
エースは「まあ昔のよしみって事で」といたずらっぽく笑う。
正直今から3時間もイケメンが隣にいるのは耐えられそうもないが……
私は正直にお礼を言ってエースと回ることにした。
「たくさんあるんだね……どれから回る?」
私は部活の場所が記された地図を広げながらエースに尋ねる。
見たところ、ざっと60以上の部活がありそうだ。
「シオンは何にするか決めてんの?」
エースに尋ねられて、私はもう一度地図を見る。
「特に決めてないけど……楽しい部活ならなんでもいいかなー」
地図に載った明らかに運動部っぽいものを頭の中にある候補リストから除外していく。
「エースは? 決めてるの?」
私が尋ねると、エースは腕を頭の後ろで組んでうーん、と考えると、
「俺はバドミントンかバスケだなー」
と私とは正反対の部活の名前を言った。
何で、と聞こうと思ったが、昔のエースを思い出してそれはやめることにした。
エースと小さい頃によくバドミントンで遊んでいた。
運動オンチな私に強烈スマッシュを打ってきたこと、私は忘れてないからな……
じとぉっとエースを見ると、エースははてな顔でこちらを見る。
とりあえず、近場の部活から回ることにした。
まず、サイエンス部。
ド派手な実験をするチームもあれば、コンピュータに向かい合って黙々と作業するチームもある。
私もエースも早々に飽きてしまったため、次へ行くことにした。
次に行ったのは、映画部。
大きなスクリーンに映画が映し出されていた。
部員さんに「ポップコーンを食べてもいいですか」と尋ねたところ、追い出されてしまった。
そしてようやくエースの第一候補であるバドミントン部に回ってきた。
初めは見ているだけのエースだったが、先輩達にコートに引き込まれてエースも練習試合に参加することになった。
ラケットを握っていきいきと動くエースに思わず見入ってしまう。ふわっと宙に浮くと先輩達に手加減なく、いつかのような強烈スマッシュ。
ぽかんと固まる私にエースがコートから手を振る。
「かっこいいだろー!」
なんだか、アニメで見たような爽やかさに私は思わず大きく頷いていた。
エースが固まったように見えたのと同時にエースは先輩達に囲まれ、よく見えなくなってしまった。
「いやあ、大変だったな……」
エースが苦笑いする。あの後エースは才能を認められて先輩達に半ば強制的に入部届を書かされていた。
「エースはこれからバドミントン部かあ……運動できるのは本当に羨ましいよ」
そう言いながら、私は最有力候補の部活に向かって歩いていた。
「マネやればいいじゃん」と勧誘するエースをさらっとスルーする。
「ここって……ゲーム研究会?」
私が部屋の前で立ち止まると、エースが意外、というように尋ねた。
「シオンってゲーム好きだったの?」
「まあね」と答えながらドアの取手に手をかけた。
しかし、その手は止まる。
そしてなぜこのタイミングでなのか分からないが……ゴングが鳴り響いた。
暗闇を2つのライトスポットが照らす。
左のそれには悪魔の姿の私。右には天使の姿の私。
悪魔が言う。
『なーんで今更考えてんだよぉ〜。別にここに入ればいいでしょ〜。だってゲーム好きなんだから』
すると天使が反論する。
『それじゃいつもと変わらないわ! 私の目的はなんだった? よく思い出すのよ!』
私は悪魔と天使の意見に戸惑ってしまう。
すると天使が畳みかけるように叫んだ。
『自分のお腹を見るのよ! こんなぐうたら生活を続けていたせいでたるんできたじゃないの!』
天使がむせび泣く。
私は思わずギョッとしてお腹をさする。
スポットライトが消える――
「お前、よく固まるのな……」
エースが私の目の前で手を振ってみせていた。
私は恐る恐る手をお腹に持っていく。
顔面が青ざめたのとほぼ同時にギュンッと方向転換をし、一目散に走り出した。
驚くエースを置き去りにしたまま、私はある部活へと向かった。
荒い息で、勢い良く部室のドアを開けると、視界に目をパチクリする先輩と、ちょうど入部届を出している少年の姿が映った。
はっと我に返ると、深呼吸をして入部届を提出した。
その部活は――山岳部。
やはり運動といえば歩くことが大事。それに景色とかを楽しみながらだったら私にだってできるはず……
こういうのは勢いが大事なのだと私はもう振り返らないことにした。
すると、先ほどの少年が私をキラキラした眼差しで見つめていた。
亜麻色のハネ……というよりかはどうなっているんだと疑ってしまうツンツンな髪。
そして満面の笑みを私に向けたまま、少年が口を開いた。
「俺は1年A組のスカイ・サニーウェザー! 君は?」
名前からして圧倒的陽キャだと引け目を感じつつ、私も自己紹介する。
「私は1年B組のシオン・アリシア」
「B組か……リーフと同じクラスなんだな!」
スカイはそう言って笑う。
あ、彼女ですねと納得しつつ、そのリーフという少女を想像する。
まだクラスメートの顔も名前も一致していないからな……
そう思っていると、スカイが部活に入った理由を尋ねてきた。
「デブるのを懸念して!」なんて大声で言えるはずもなく、言い淀んでいると、
「ごめん! 聞いちゃいけない質問だった!?」
とスカイがあわあわし始めた。
その素直っぷりに私は思わず首をぶんぶん横に振った。
「ちょっと、運動したいなー、みたいな」
頑張って可愛らしい理由をこじつけると、スカイは「そっか!」とあっけらかんと笑った。
「じゃ、シオン、これからよろしくな!」
スカイが手を差し出す。これは握手か、と私は気づかれない程度に呼吸をしてから、ゆっくり手を握る。
『いいやつそうでよかった!!』
聞こえてきたのは表情と変わらぬ明るい声。
裏表が全くないんだ、と安心する。
「また今度の部活で、だな! 楽しみだなー!」
そううきうきしながら、部屋を出ていくスカイに私は一人打ちのめされていた。
まごうことなき光属性……!
それから駆けつけたエースに「お前山岳にしたの!?」と驚かれたのだった。