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34. これからも学園生活を満喫します

 真っ白な世界にポツンと立ち尽くしている。

 ぼーっとする頭をなんとか回転させる。

 異能に自ら入っていったことの限界がきたのか……体がふらつくが夢から出る術がわからない。


「このままだったらどうなるんだろう……」


 そう考えて一瞬背筋が凍った。

 ダメだ、悪い風に考えたら出られなくなる。どうしたら起きる……?

 そう落ちてくるまぶたをこじ開ける。


『シオン、起きろ!』


 はっと我に返った。

 そうだ、この声の人に私は返事をしなくちゃ。

 私は胸元で煌めくネックレスを握りしめた。

 そして――深く深く息を吸い込んだ。


「私ー! 起きろー!」





 白い天井。ベッドの柔らかさも感じる。

 ばっと上半身を起こした。


「起きたんだね、よかった」


 私のベッドの傍でジル先生が安堵した表情を浮かべていた。ジル先生の目線は私だけに向いているわけじゃないことに気がついて、後ろを向く。隣のベッドで、ルカがネクに助け起こされているところだった。


「今回は緊急だったから容認したけれど……今度からは気をつけるように。それにルカも自分の異能も自分も大切にね」


 ジル先生は私とルカを見ながらそう言う。


「でも無事に戻ってきてくれて安心したよ。じゃあ話したいこともあるだろうから俺は席を外すね」


 ジル先生はそう微笑むと療養室から出ていった。

 私はそれを見届けてからルカに向き直った。


「私、会長の夢の中で黒い髪の毛の男の子――レヴェリーという人に出会ったんです」


 そうはっきりとそう言うと、2人は目を見開いた。

 名前を教えてもらっていた。2人の親友だと言う彼はレヴェリーだとそう名乗った。


「レヴェリーとたくさん話しました。2人の話をしている時、すごく笑顔でとても楽しそうでした」


 2人は私をまっすぐに見つめたまま私の次の言葉を待っているようだった。

 私は夢の中でレヴェリーが話してくれたこと、今回起きたことを説明した。2人は何度も裾で涙を拭っていた。

 2人はレヴェリーはこの学園に入る前に事故で死んでしまったのだと涙ながらに言った。


 ルカとネクとレヴェリー、3人が並んでいる姿を想像して、私まで涙が出そうになった。

 素敵な親友同士だったんだろう。辛かっただろうな。

 色んなことが頭をよぎった。

 でも、レヴェリーが伝えたかったのはそれだけじゃない。


「2人には楽しく生きてほしいと……ううん、それだけじゃなくてこれからもずっと僕と親友でいてほしい」


「そう伝えてほしいと言われたんです」と呟いて2人を見る。2人は声を上げながらわあわあ泣いた。


「ありがとう……伝えてくれて……」


 ルカはそうか細い声で言う。ネクもぼろぼろと大粒の涙をこぼしている。


 よかった。私の異能で、3人の想いをつなげることができた……


 ほっと胸を撫で下ろして2人を見つめていると、勢い良くドアが開いた。


「シオン!」


 荒い呼吸で立っていたのはエース。どうしてそんなに慌てているんだとか、まだ心の準備がとか色々考えてしまい頭が爆発しそうになる。


「お前、あれから2日も寝てたんだからな! 途中うなされてたりヘラヘラ笑ってたり、まじで心配したんだからな!」


「ルカ先輩も無事でよかったです!」と雑に叫ぶとエースは私に駆け寄った。2日も!? と目を点にしていると。

 突然抱きしめられた。ふわっといい香りがして、とても暖かい。


『よかった無事で……死んだらどうしようかと思ったわ! 優しすぎなんだよーー! あー、早く返事聞きたい!!』


「待って待って! 心の声がだだ漏れなんだけど! ちょっと一旦離れよ、ね!」


 真っ赤になった顔で引き剥がそうとすると、エースは私を抱きしめたままこちらを見つめる。


「いーだろ、別に隠す必要もねーし、全部本心だし?」

「ええ……」


 なんか恥じらいというものはないのか、と目をパチクリしながら顔を埋めるエースを見る。


「心配したんだから……もう少しここままでもいいだろ……」


 キョトンとしてから思わず笑みが溢れた。エースの胸元に目をやると私とお揃いのネックレスをつけていた。


「……私ね、夢から出れなくなったの。でもね、このエースがくれたネックレスのおかげで起きることができた」


 私は胸元で光るネックレスを握りしめた。


「エースのおかげだよ。私も、エースが好き」


 へへっと照れを隠せずに笑ってしまう。

 エースはいつだって私を心配してくれて、一緒にいると楽しくて……


 あれ、返答がない。私が頑張って返事をしたのに……!


 そう恥ずかしさと若干の怒りを交えて目を光らせると、エースは小刻みに震えて……そして私の顎に手をかける。


 潤んだ瞳が近づいてくる。

 え、え!? キスする流れなんですか!? ルカやネクも見てるのに!? 


「いや、ちょっと待って……」

「待たない」


 そう一蹴されてしまい、迫る顔にギュッと目を瞑る――


「シオン!! 起きたんだね!!」


 ドアがまた勢い良く開いて、エースはガクッと崩れ落ちる。

 そんなエースと顔が沸騰しそうなくらい熱い私をよそにわらわらとみんなが私を囲んだ。


「よかった! 心配したんだよー!」


 リーフとアリスに抱きつかれ、私はその勢いの良さにベッドに倒れ込む。


『わああん、よかったーー!!』


 心の声も叫んでいてもう凄いことになっている。


「今度からこんな危険なことはやめるんだよ」

「そうだぞー! みんなすっごく心配してたんだからな!」

「レディなんだから、もっと気をつけてね」


 アルト、スカイ、レイと次々にそう言われて、私は「みんなごめん……」と眉を下げる。


「ルカもシオンも無事でよかったよ。ネクなんてずっと泣いててさ……」

「ちょっとエルそれは内緒だって……!」

「あら、いいじゃない。素敵なことなんだから」


 悪意なく言うエルに顔を赤くするネク、嬉しそうに微笑むリラ。


「はあ……エースの方がちょっと早かったかあ」


 リッカはなぜか残念そうなのが不思議だけど、とにかくみんな心配してくれていたらしい。


「みんな、ありがとうね」


 そう笑うと、みんなも笑顔になる。

 本当によかった……そう安堵しながら私たちはしばらく療養室で談笑したのだった。






「うわあ、遅刻しちゃうー!」


 私は寮から学園までの道のりをダッシュしていた。

 くっ……全ゲームのイベントを走っていたらいつの間にか朝になっていたなんて……


 そう昨夜の自分に呆れながら走っていると何かにつんのめった。


「あ、こいつ特殊異能のやつだ」


 ルカ救出作戦のあの日の後から私が特殊異能者であることは広まっていた。もちろんみんなが言いふらしたわけではない。まあみんな大好き生徒会長が倒れたとなれば学園側も説明せざるを得ないのは分かってはいるけれど……


 朝からこんな面倒そうな人たちに絡まれるとかついてない。


「なんとか言えよなあー、あ、俺の心読んでんのか?」


 いや触れてないのに読めないわとツッコミを入れる。

 どう切り抜けようか考えていると、じりじりと迫ってきていた。


「悪いんだけど、俺の彼女に手出すのやめてくんない?」


 そうエースの声がして振り向くとみんな勢揃いしていた。目を瞬かせるとスカイが言う。


「遅刻してるから迎え行こうってリーフが言うからさ」

「でも来てよかったね! 変な人たちに絡まれてるのを助けられた!」


 屈託のない笑顔で言うリーフにぐはっと彼らはダメージをくらったようだ。


「まだエースの彼女って決まったわけじゃないんだけどー?」

「それもだけど、レディに手を出すこいつらどうしようか?」

「僕らで対処してから先生方に突き出してあげよう」

「そうね! シオンのことは先生方も知っているしそれがいいわ!」


 みんな口々にそう言う。

 なんか……すっごい守られちゃってるなあ……


 あれからリッカにはものすごい勢いで迫られるし、アルトはなぜか甘々に、レイはシスコンっぷりを私にも発揮しているようだった。

 アリスが「実験に使えそう……」と物騒なことを言い出すので止めていると。


「僕たち生徒会が発見したのだから、逃すわけないだろう」


 ザッと足音がして顔を向けるとそこには生徒会ご一行が立ち塞がっている。


「わあ、シオン大丈夫?」

「朝から大変ねー、そう思わない? アミ、レミ」


 エルが駆け寄ってきて、リラはポシェットの中にいるアミとレミに声をかける。ポシェットの中からは「やっつけちゃえー!」とかわいい見かけによらない言葉が聞こえてくる。


「さて、こいつらどうしようか、ルカ」

「うーん、学園の周り200周とかでいいんじゃないかな」


 笑顔でそう算段しているルカとネクに「ひいい!」と彼らは逃げていった。


「大丈夫か? シオン」

「うん、みんなありがとう!」


 エースがそう声をかけてきて私は大きく頷いた。


 最初はどうなるかと思った学園生活だけど、みんなと出会ってとっても楽しくて……それに異能でできることも増えてきたし、本当に素敵な生活を送れていると心の底から思う。


「じゃあ、今日も一日頑張ろー!」


 大きな声で言い、拳を掲げた。


 今日も個性豊かで美形なみんなと異能学園を満喫できますように……!


今まで読んでくださった方、ありがとうございました!

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