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31. ついに出くわしてしまいました

 奮発して買ったパーティドレスを姿見で確認する。

 薄いピンクのドレスは似合う似合わないは別としてとっても可愛い。


「さすがに、アクセサリーはなあ……」


 少し味気ないと思ったけれどこれが学生の限界だ……だからしょうがない。せめて、と頑張って髪は結い上げた。



 学園創立パーティー……ドレスコード指定の伝統的なパーティーが行われる学園内の会場を見上げる。

 確かルカとおち合うのは着いてからだったような……と考えながら辺りを見回していると。


「よっ! シオン!」

「あ、エース!」


 駆け寄ってくる姿が眩しい。いつもはハネハネのオレンジの髪も固められているし何よりワインレッドのスーツがよく似合っている。


「……可愛いじゃん」

「いや、エースはカッコよすぎるからね!?」


 何を頬を染めて褒めているのだと私は詰め寄る。女の子たちがわらわら寄ってきそうということに気がついていないのだろうか。


「そうだ、シオン俺と……」

「2人で何話してるのー?」


 エースの後ろから顔を出したのはリッカ。こちらもいつもはあげられた前髪が下ろしてあって新鮮で良い。エースはそっぽを向いてしまい何を言おうとしたのかは分からなかった。


「みんなー! もうそろってるね!」

「みんなすっごく似合ってるな!」


 近寄ってきたのはリーフとスカイだ。2人ともお揃いデザインの衣装でとっても素敵だ。誰もが羨むカップルという感じ。


「やあ、みんな素敵だね」

「ほわあ、アルト先輩美し……」


 思わず心の声が漏れてしまった。白いスーツがとっても似合っている。


「きゃー、みんなとっても綺麗ね!」

「ふふ、僕たち目立っちゃいそうだね」


 連れ立って現れたのはアリスとレイ。2人ともスタイルの良さが際立つ美しい衣装だ。


 みんな集合したなと確認してから私は口を開く。


「さっきはみんなのおかげでうまくいきました! 本当にありがとう!」


 先程のファッションショーでのサプライズのことを思い浮かべながらお礼を言う。みんなはパッと笑顔になる。


「シオンもすごく頑張ったよ! あんな多勢の前でなかなかできることじゃないよ」


 リーフがそう微笑む。みんなうんうんと頷きながら褒め称えてくれるから私は思わず顔を覆う。


「そんな褒めないで……」


 そうぼそぼそと言うとみんなはあははと声を上げて笑う。


「みんな楽しそうだね」


 美声がして振り返るとそこには黒いタキシードを着こなすルカがいた。


「お迎えに上がったよ、シオン」

「ふえ……あの、みんなと一緒ではダメですか……」


 王子スマイルに打ちのめされながら消え入りそうな声で言う。こんなイケメンと2人でなんて身がもたない。

 ルカは「うーん、分かったよ」と何故か渋々了承する。


「すごーい! 楽しそう! 私たちも混ざっていい?」


 よく通る声に気がつくと、目の前にはにっこにこのエルと心ここにあらずというような顔のネク。

 どうやらネクはエルを誘うことができたようだ。だけどエルの鈍感っぷりにはきっと手を焼いているのだろうな。

 あとで2人きりの時間を作ってあげなくちゃ……


「みなさんこんばんは。今日は楽しみましょうね!」


 そう声をかけてきたのはリラ。マーメイドドレスが似合う学生なんてそうそういない。


「なんだか楽しそうね、私も混ざりたいわ」

「どうぞどうぞ! たくさんいた方が楽しいですよ!」


 それに安全さも増すし、と私はルカを見る。

 どうやらまだ黒い影とは出会っていないらしい。


 少し、怖い。黒い影が何か分からないし、いつどうしてルカの元に現れるのかも分からないから。

 ふうと大きく息を吸って気を引き締める。そしてパーティ会場へと足を踏み入れた。




「うわあ……すごい……」

「けっこうガチのパーティじゃん……」


 私とエースはほぼ同時に口をあんぐりと開けた。

 全てがキラキラして見える。

 会場をキョロキョロと歩きまわりながらとりあえずスイーツに手を伸ばす。


 ……さっきから女子の視線が痛すぎる。

 そりゃあそうだ、イケメンや美少女、みんなの憧れ生徒会と一緒にいるんだから。


 それでもその中に「さっきサプライズしてくれた人だ!」とか「凄かったね」とか嬉しい言葉も聞こえてきて嬉しくなる。


 顔を綻ばせていると、急に会場が暗転してムーディな曲が流れ出した。


「ああ、ダンスの時間らしいね」


 そうルカが言うとさっと私に手を差し出してきた。訳がわからず首を傾げる。


「今日は僕がエスコートするんだから当然だろう?」


 ため息まじりに笑うルカに目を瞬かせる。周りは「そうなの!?」と大騒ぎだ。


「いやダンスなんて……!」


 そうたじろいでからルカを見る。

 その顔は――酷く血の気がひいた顔だった。


 ダンスなんてしている場合じゃない、と私は悟った。

 ……おそらく、黒い影がいたのだろう。


「会長、ちょっとこっちへ来てください」


 私はルカの手を引いて駆け出した。


『怖い、いる、何をしに来たのだろう、正体は』


 震え上がるような声。一刻も早くここから離れないと。


「悪い、エル。また後で」


 ネクの声も聞こえ、せっかくエルといい雰囲気だったのにと思いながら個室へと駆け込んだ。

 ネクが入ったことを確認してから内側から鍵をかける。


「会長、いたんですね。黒い影が」


 ルカは震え上がりながら頷いた。


「きっとあれは僕を殺そうとしているんだ、友人を見殺しにしてしまった僕を……!」

「ルカ、そんなふうに考えるな! お前は何も悪くない!」


 顔を埋めて叫ぶルカにネクが駆け寄った。

 友人? 見殺し?

 そういえば、さっきルカは友人を懐かしいと、寂しそうに言っていた。何か関係があるのだろうか。


「会長……その話詳しく聞かせてください」


 真剣な顔で尋ねた。

 きっと何か黒い影と関係があると、そう勘が言っている。

 ルカは震えながら、ネクを見る。そして頷き合った。


「俺たちには親友がいたんだ。いつも一緒にいる親友が」


 ネクがそう切り出した。そしてルカがか細い声で続ける。


「僕は異能で彼の未来が見えていた。だけど……助けられなかった」

「事故だった。でも……あまりにも突然すぎた」


 2人はそう言うと口をつぐむ。

 こういう時なんて言ったら良いのだろう。「残念でしたね」いや「2人が責任を感じる必要はないのでは」どんな言葉も違和感を感じた。


「……きっと仲の良い3人だったんでしょうね」


 ぽろっと出てきた言葉に、2人は顔を上げる。そして2人はゆっくり頷く。


 その人の名前を尋ねようと、口を開きかけて気がつく。

 重たい雰囲気を纏った黒い影が、入り口に立っている。人の形ではなく、もやのようだ。


「ルカに近づくな!」


 ネクが黒い影の前に立ち塞がると黒い影は一瞬ピタリと止まった。そしてネクの横をすり抜けていくと、ルカの目の前で止まった。


「……ごめんなさい」


 ルカは何度も何度もそう言い続ける。黒い影はルカを見つめたまま、動かない。

 私は黒い影に向かって手を伸ばす。


 なんだろう。酷く、悲しい……


 どさっと崩れ落ちる音が聞こえ我に返る。

 見ると――ルカが倒れていた。


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