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30. 学園祭です

「幽霊館へようこそおいでくださいました……」


 リーフが入り口で喋るこのセリフを合図に私たちは所定の位置へつく。

 今日は学園祭。私たち1-Bは幽霊館を行なっている。


「めっちゃ怖がらせような」

「うん、今から反応が楽しみすぎる」


 私とエースは血のりを顔に塗りたくって悪い笑みを浮かべた。



「お前さ、そんな血のりまみれで大丈夫? この後ファッションショー出るんだろ?」


 ひとしきり客を怖がらせ、休憩中エースがそう尋ねてきた。確かに用意した白いワンピースが真っ赤になっているし顔も血みどろになっている。しかし私はふっふっふと自信たっぷりに言う。


「スカイに頼んで異能で濡らして血のり落とすことにしたの! 太陽もあるからすぐ乾くし!」


 我ながら名案すぎると頷いているとエースはふはっと笑う。


「じゃあさ、俺もこの後交代だしファッショショー始まるまで一緒にまわろーぜ」

「うん! リーフも誘っていい?」

「おー、いいよー」


 エースは血のりのついたシャツを脱ぎ捨てきちんと制服に着替える。リーフも抜け出して3人で学園内を回り始める。



「どれも美味しそう……!」


 唐揚げ、ポテト、わたあめ……美味しそうな食べ物たちに目を奪われていると、唐揚げ大好きなエースがすごい勢いで買って帰ってきた。


「……そんな目で見るなよな……」


 そう言うとエースは私の口に唐揚げを押し込む。リーフにはもう一つの爪楊枝であげているのになんだこの差は! ともがもが叫ぶ。




 そんな風に歩いていると、スカイとアリスのいるクラス1-Aが見えてきた。


「1-Aはマジックショーをやってるみたいだね」

「マジック! かっこいい!」


 リーフがパンフレットを見て言う。マジックって言葉にそそられて急ぎ足で向かう。


 中に入ると、紫色の布で覆われて暗く怪しい雰囲気になっている教室で魔女帽子をかぶったアリスがマジックを披露していた。

 魔女衣装が似合うなあと友人の可愛さに見惚れていると、


「では最後に……虹を一瞬で消したいと思います!」


 アリスがそう言うと窓の外にぽんっと虹が現れた。そして少し大袈裟に手を広げると、虹は瞬く間に消えた。


「最後のは完全にスカイとアリスの連携異能だね……」

「でもマジックも面白かったなー!」


 そう3人で話していると、アリスとスカイが駆け寄ってくる。


「見にきてくれてありがとう!」

「最後のは異能ってことは内緒なー!」


 スカイは人差し指を立てて内緒のポーズをする。私たちはコクコクと頷く。


「すっごく楽しかったよ! 2人の異能の連携プレーも最高だったよー!」

「うはは、照れちゃうなあ」

「シオン、ファッションショー楽しみにしてるね!」


 照れくさそうなスカイとアリスに期待の眼差しを向けられぎこちなく頷く。「じゃあまた後で!」と2人は戻っていった。




「ちょっとお腹すいてきた……」


 そう呟いて顔を上げると1-C、リッカのクラスに着いていた。

 えらく賑わった教室内に入ると、ふわっと甘い香りが漂う。


「あ! シオンいらっしゃい!」

「うわあ! リッカめちゃくちゃかっこいいね!」


 こちらに手を振ってきたリッカは腰から下にエプロンを巻いておしゃれなカフェの店員さんという感じだ。

「そう思わない?」とリーフに話しかけるとリーフはチラリとエースに目をやってニマニマ笑って頷く。


「ここは、カフェなんだね。お腹すいたしおすすめください!」


 私が鳴るお腹を抑えて笑うとリッカは「オッケー!」と素早く準備に取り掛かる。

 そしてものの数分でおしゃれなドリンクが出来上がった。


「おまけしてあげる」


 そうリッカは笑ってクリームをもうひと巻き、マカロンを砕いたものを多く散らす。

 目を輝かせて私はストローを咥える。

 フルーツティーに最近流行りのもちもち食感のグミ。


「んんー! おいしいー! 甘いー!」


 ほっぺが落ちそうになるぐらいの甘さに喜んでいると、


「俺もちょーだい」


 エースが横からストローを咥える。

「わあ!」となぜか嬉しそうなリーフの声と固まるリッカが映って、私は目を瞬かせる。


「……ちょっと、飲み過ぎ!」

「へえ、けっこうおいしいな!」


 ヘラっとエースは笑い、私は一気に量が減ったことに頬を膨らませる。するとリッカがカウンターから身を乗り出す。


「シオン、俺も一口飲みたいなー!」

「そっか、作ってばっかで飲んでないんだね……分かった!」


 大変だねえとドリンクを手渡そうとすると、エースが割り込んだ。


「はいはいー、そろそろ先輩達んとこ行かないとまずいんじゃない?」

「そうだね! ごめんリッカ! 私たち行くね!」

「う、うん」


 エースに連れられて私は駆け足で教室を後にする。でも一口あげる時間くらいあったかもな……




 そうして2-Aまでやってきたものの……教室の前には大量の人だかりができている。それもほぼ女子という恐ろしい状態だ。


「ここ、だよね……?」


 そう恐る恐る覗くと、私はフラッシュに目を瞑った。

 ゆっくり目を開けるとなぜか撮影会が繰り広げられていた。

 人混みの中心部にいるのは予想通り、アルトとレイだ。

 なんとか人の間をぬって進んでいくと。


「シオン! みんな来てくれたんだね」

「あの、アルト先輩の演奏とレイ先輩のコラボだと聞いてたんですけど……どうなってるんですか?」


 尋ねるとアルトとレイは顔を見合わせてため息をつく。


「それがね、ファンサービスとして握手をしたら、私も私も! ともう大騒ぎで……」

「……それで、写真会をしているんですね」


 そう会話しつつも女の子たちが猪突猛進してきて本当に怖い。

『早く離れてよ!』とか『アルト様あ!』とかもう苦笑いをするしかないレベルの心の声だ。


 なんとかできないかなあ……そうだ!


 閃いてすぐに声を張り上げた。


「アルト先輩とレイ先輩の撮影会こちらが最後尾でーす! 1人一枚ずつ周りの方に迷惑にならないようお願いします!」


 するとドドドと人が私の方へ押し寄せて見事な列を作り上げた。


「すごいな……シオン」

「いやあ、私もよく並ぶんですよ、だから慣れてて」


 驚くアルトとレイにそう笑い、なんとか撮影会を統制することができた。



「ってか、シオンそろそろ準備に行ったほうがいいんじゃねーの?」

「そうだよ、あとは私たちに任せて!」


 エースとリーフに言われ時計を確認するともう少しで集合時間が迫っていた。


「分かった! 頑張るよ……!」


 小さく手を振るアルトとレイにも笑いかけ撮影会をあとにした。





「うわあ……緊張する……」


 ファッションショー開演の時間が近づいてきて私は舞台袖から顔を覗かせる。

 たくさんのお客さん、美しい生徒会、なんの取り柄もない私……


 するとカーン! と凄まじい勢いの脳内ゴングが鳴り響いた。



『ちょっと、最近あんまり1人妄想する時間もなかったけれど……これはやばすぎるんじゃない!? こんなの私には無理だって! 無理無理!』


 脳内の私がドタバタと走り回るため、スポットライトは付いていけていない。


『絶対何こいつみたいになるって! 間違いない! ああー、いやだー!』


 ゴロゴロとのたうちまわっていると。


『……うぶ? 大丈夫?』


 私に呼びかける声が聞こえた――




「はっ!」

「ずーっとぼーっとしていて心配しただろう?」


 我に返り、顔を向けるとそこには美しく着飾ったルカが立っていた。

 脳内自己嫌悪から強制離脱させてくれたのはよかったけれど……不安は消えない。


「緊張しているんだね。大丈夫、僕もだよ」

「……会長も?」


 ルカは事前発売したブロマイドをものの数分で完売させたような美形だ。だから緊張なんて無縁だと思っていた。


「人前はいつもいつも緊張するよ。決まってそういう時は友人に助けてもらっていたよ」


「懐かしいなあ」と俯くルカはなんだか寂しそうだった。


「あの、私で良ければ話聞きま……」

「ただいまより生徒会主催ファッションショーを開幕いたします!」


 よく通るアナウンスと黄色い声で完全にそんな雰囲気ではなくなってしまった。


「ありがとう。じゃあ後で聞いてもらおうかな」


 そう微笑んだルカに私は大きく頷いてみせた。

「じゃあパーティでね」とルカは私にくるりと背を向ける。が、数歩歩いてこちらを振り返った。


「君なら大丈夫だよ。たくさん考えて練習したんだろう? その通りやればきっと大丈夫」


「じゃあ頑張ろうね」と持ち場へ向かうルカの背を見つめる。少し気持ちが軽くなった気がする。


「……頑張らなきゃ」



 衣装は全てレイが監修してくれた。それぞれの個性にあったデザインを考案するのはさすがプロモデルといった感じだ。


 颯爽と美しく歩くリラに、みんなに手を振りながらスキップするエル、クールに歩きたまに微笑んでは黄色い声を大発生させているネク。


 次はいよいよ私の番だ。

 大きく息を吸っては吐いてを繰り返す。

 そして、ステージへと大きく足を踏み込んだ。


 黄色い声が少しずつ止んで、どよめきに近い声が漏れた。「誰だろう」「ルカ様は?」という声が刺さる。


 ランウェイの先端まで進んで来て、立ち止まる。


 怖い。手が震えてギュッと握りしめる。

 やっぱり私にはこんなの無理――


 そう何も言えずにいると視界にエースが映った。

 口をぱくぱくと動かしている。


『がんばれ、シオン』


 そう言っているのだと気がついて私は深呼吸すると口を開いた。


「私は新しく生徒会に入った1年のシオン・アリシアです! 今日はみんなと一緒に楽しみたいと考えてちょっとしたサプライズを用意しています!」


 そう叫ぶと、私は指を鳴らした。

 すると色んな方向からスポットライトが向けられて、会場は一気に色とりどりになる。そして続けてステージに花が咲き誇り、花びらが舞った。

 わあっと歓声が上がって、私は少しホッとしながら協力してくれた頼もしい友人に感謝する。


 一瞬パッとスポットライトが消え、壁一面に美しい映像が映し出された。加えてアップテンポの音楽。

 機械が得意なアリスと音楽を作ってくれたアルトには本当に感謝しかない。


「みんな楽しんでくれてますかー?」


 そう呼びかけると盛り上がった声で返事が返ってきた。

 そしてすぐさま盛大な黄色い声が湧き上がった。

 振り返るとルカが手を振りながらこちらへ歩いてくる。


「とっても素敵なサプライズだったよ。みんな! シオンのことも僕たちもこれからもよろしくね」


 そうルカが声を上げると会場はすごい熱気に包まれた。

 ほっと胸を撫で下ろし、エースの方を見る。

 エースは大きく丸を作って笑顔を向けていた。

 私も笑みが溢れた。


 うまくいってよかった……!

 みんなのおかげでできた、後でちゃんとお礼を言わなくちゃ。本当に素敵な友人たちでよかった。


 この湧き上がった空間は心地良くて、もう少し余韻に浸っていようと思った。

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