29. 思わぬ提案でした
「学園祭……!」
生徒会室で私は憧れの青春ワードに勢いよく立ち上がった。
「そう。来月ぐらいに学園祭と学園創立記念パーティを兼ねたものをやるのだけど……これは生徒会が主に主催らしくてね」
目を輝かせる私とは対照的にルカは面倒そうにため息をつく。そんなルカに畳み掛けるように質問する。
「主にどんなことをやるんですか? パーティってなんですか? 夜までですか!?」
学園祭というザ・青春というようなワードにワクワクを隠せない。ルカは一瞬クスッと笑ったけれどやはり面倒なようだ。
「1日、夜までの日程の予定よ。昼は学園祭。夜から学園創立記念パーティ」
代わりに私の質問に答えてくれたのは頼れる先輩、リラだ。相変わらずリラの周りをふよふよ飛び回る妖精たちも可愛い。
「学園祭はクラスの出し物とか屋台が鉄板だよね! それに生徒会で何かサプライズみたいなのもやったら楽しいかも!」
そう楽しそうに提案してきたのはエル。チラリとネクに目をやると愛おしそうにエルを見つめている。
相変わらず進展のない2人にこっちまでそわそわしてしまう。
「じゃあ、生徒会皆さん美形でスタイルもいいのでファッションショーでも行ったらどうですか? ルカ会長のブロマイドとかきっと高値で売れますよー」
うへへと悪い笑みを浮かべながら想像していると。
「それは、君もやるんでしょ?」
「え、もちろん! ……ごめんなさい、今なんて?」
あまりにも具体的に想像しすぎて全く聞こえなかった。
ルカがうふふと笑っていて私はやらかしたと悟った。
こうしてあっという間に時はすぎ……ついに学園祭前日を迎えてしまった。
生徒会はというと、最終チェックでてんやわんやだ。
「ファッションショー、衣装もステージもどちらも準備オッケーです!」
私はステージを見回りながらルカに声をかける。
「うんうん、いい感じだね」
そう言うルカを見てからきらびやかなステージに目をやりため息をつく。
あの後言いくるめられて私まで参加することになってしまった。今から明日の本番を想像し気後れしてしまう。
「明日不安?」
「当たり前じゃないですか! 会長が無理やり参加させたんでしょう……」
「ふふ、ごめんね」
もう一度大きなため息をつくと、ルカは目線を資料に落としたまま呟く。
「実は夢で見たあの黒い影が現れるのは明日なんだよ」
「……それは会長がずっと見ていた未来が明日実現するということですか?」
ルカは小さく頷いた。一瞬戸惑ってそれからルカに詰め寄った。
「なんでそんな大事なことを早く言ってくれないんですか!? 何かあってからじゃ遅いんですよ!」
黒い影の正体が分からないなら尚更、危険も多くなる学園祭は中止にするべきなのでは? いやでもみんなが頑張って作り上げたのに……
そう俯いたまま頭を悩ませていると、ルカは「学園祭はやるよ」と言う。
「正直言うと、とても怖いよ。でも君やみんなが頑張って準備してきたものを僕も一緒に見たいと思ったんだ」
ルカはそう言うと、いつもよりもさらに優しい笑みを見せる。
いつもの私なら倒れてしまう勢いで美しい笑みだけど……なんだか私にはルカの顔がひどく不安そうに見えた。
「会長、無理しないでくださいね」
思わずそう呟いていた。ルカは一瞬目を見開いて、言う。
「心が読めると表情の変化もわかるんだね」
そんなこと考えたこともなかったけど……でもなんとかルカの不安を少しでも取り除いてあげたい。
「じゃあ、なるべく一緒にいましょう! そしたらきっと黒い影だって簡単には出てこないはずです!」
わっと言い切って、ルカを見る。ルカはしばらくキョトンとしてから声を上げて笑い出した。
「ありがとう。でも……君だって友人と楽しみたいだろう? 僕はなるべくネクといるようにするから心配しないで」
「ネク先輩なら安心ですね」
私が笑うと、ルカは「じゃあそうだなあ」と考える仕草をする。
「学園創立パーティの時は一緒にいてもらおうかな。僕がエスコートするから」
思わぬ提案に目をパチクリする。この学園随一のイケメンにエスコート……?
しばらくフリーズして「いやいやいや」と大袈裟に首を横に振る。
「でも君が一緒にいようって言ったんじゃあないか」
「そうですけど……」
さすがにそれは私の未来が危ないと渋っていると、ルカは「僕はきっともう……」と嘆き出す。
「わ、分かりました! エスコートよろしくお願いしますね!」
「あと私のその後の安否も保証してください!」と半ばやけくそになりながら言い切る。するとルカは面白がるように笑った。
「わかったよ。よろしくね、シオン」
返事をしながら明日は大変そうだ、と息を吐き出した。
生徒会の仕事、クラスの出し物、ファッションショーにルカの護衛……
やることを思い浮かべながら楽しい1日になることを期待した。




