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28. 少しだけ不安になりました

 目の前にはイケメン先生――ジル先生が座っている。

 今日は異能実技の授業なのだが、なんだか空気が重いのは気のせいだろうか。


「生徒会に入ったんだってね。すごいことだよ」

「あ、ありがとうございます」


 そう頭を下げると、ジル先生は私の顔を真剣な表情で見つめる。


「……もしかして、生徒会長の異能ももう知っているのかな」


 その質問に一瞬考え込んで、ジル先生はルカが特殊異能者であることを知っているのかと悟る。


「知ってます。未来が見える異能ですよね。私の異能も教えてあります」


 そう言うと「そうなんだね」と笑ってそれから続けて言う。


「異能は便利じゃない。時には持ち主も周りの人にだって危害を加えることがある。シオンも、それにルカだってそれは痛いほどわかっているだろう」


 私は大きく頷く。

 確かに人の心が読めるのも、ルカのように未来が見えるのもとても便利だと思う。しかしながら、私は聞きたくない声だって聞こえるしルカも悩まされて十分な睡眠が取れていない状態だ。


「特にシオンやルカのような特殊異能者は、そのリスクが大きいんだ。多くの特殊異能者がそのリスクに潰されてきた」


 ジル先生の低い声に私は思わず息を飲む。

 改めて私の持つ異能がどれほどの力を持つのかを思い知る。


「……潰されるとは死んでしまうということ、ですか」


 恐る恐る尋ねると、ジル先生は首を横に振った。

 死以外に何があるというのだろう。

 そう身構えると、ジル先生はゆっくりと慎重に言う。


「自らの異能に取り込まれてしまうんだ」


 ドクン、といやな心臓の音がした。

 異能に……取り込まれる?


「もちろん、死ぬわけではないから脱出だってできるんだ。……心の持ちよう次第だけれどね」


 ジル先生の言い方からは、可能性の低さが伺えた。

 私だって、気をつけなければそうなってしまうかもしれないということだ。


「……まあ、そんなに身構える必要はないよ。シオンにそんな気は感じられないからね。上手く異能と付き合っているんだね、偉い偉い」


 ジル先生は私の頭を優しく撫でる。

 ジル先生は私に触る時、声が聞こえないように気を付けていてくれているようだった。声が聞こえないというのは心地いい。


「それに悪いことばかりじゃない。特殊異能は特に無限の可能性を秘めているからね。シオンの異能はとても強いから、もしかしたら生きていないものにですら効力があるかも」

「ちょっと……それって幽霊とか幻にもってことですか……? 冗談はよくないですよ」


 ふふっとからかうように笑うジル先生にそう頬を膨らませて言う。

 まあ、2次元をこよなく愛するヲタクとしては、興味のそそられる話ではあるけれど。


「それよりも、僕が心配しているのはルカだ。彼はシオンより異能との付き合いが苦手なようだからね……彼の睡眠不足には僕も心配してるんだ」


 ジル先生はそう息を漏らす。

 ルカがネクを使って異能を無効化していたのは、きっとジル先生は知らないんだろうな……


「そこで、シオンにお願いだ。ルカを監視……というよりかは気を配って見てやってほしいんだ。お互い特殊異能者なんだし、きっと理解できることも多いだろうしね」

「ええ、私がですか……」


 私の方が迷惑をかけている立場なんだけど、とか思いながら一応相槌を打つ。


「じゃあ、頼んだよ。僕はシオンに期待しているからね、大丈夫だよ」

「は、はい……」


 ジル先生の聖母スマイルには逆えず、私はとろけながらうなずいた。





「……ということがあったんだよ」

「最後の方はシオンの妄想じゃなくて?」

「本当だよ! リアル聖母スマイルだったの!」


 私の隣でコントローラーを握りながらニヤニヤするエースが映る。私はお菓子を口に押し込んだ。

 このお菓子はエースからパステルデーに大量に貰ったものだ。結局1人では食べきれないからエースとこうしてゲームをしながら消費しているのだ。


「それにしても、そのルカ会長もけっこう大変そうだな……」

「うん、いつも寝てないみたいだし」


 私がそう言いながらキャラクターを操作していると、エースの操作キャラクターがピタリと止まる。

「ちょっとどうして止まってるのー」とぶつぶつ言いながらエースを見る。


「お前もさ、無理すんなよ」


 突然の真剣な眼差しに少し恥ずかしくなって「大丈夫だよ」とヘラヘラっと笑うとエースがぐいっと詰め寄った。


「俺、シオンが消えるとか絶対に嫌だから。もし辛かったら溜め込まずにすぐ俺に言うこと!」


 思わずドキッとしてしまった。

 これが少女漫画とかなら恋だなんだと騒ぐところだけれど……そんなのは私には贅沢すぎる。

 それにエースが私を心配しているのは友達だから。それにきっと昔のことに責任を感じているのだろう。


「……心配してくれてありがとうね。気をつけるよ」


 私はそう言うとふいっと画面に向き直った。

 ただの友達が顔を赤くしているなんて知ったら、エースが離れていってしまうのでは、とそんな気がしてしまった。

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