23. 事件が発生しました
黒い空間の先にぼんやりと黒い影が見える。
その影は徐々に近づいてきて――
青白く差し込む光に照らされて、赤みがかった茶髪の青年――ルカは飛び起きた。荒い息のまま蹲った。
「まただ…………」
夢に何度も何度も現れる黒い影に、ルカは悲痛な声を漏らした。
***
「いやあ、久しぶりだねー!」
「3週間ってけっこう長く感じるなー」
私がそうテンション高めにそう言うと、隣でエースがそう呟く。
3週間のウィンターホリデーが終了し、今日から学園が再開する。
休み中は学園が恋しかったけれど、いざ来るとゲーム三昧だった休みに戻りたいと思ってしまうのは、きっと仕方のないことだ。
「久しぶりー」
リッカがそう手をひらひら振って寄ってくるとエースにニッコリと笑いかける。エースも笑い返し、目の前でイケメンの見つめ合いが発生している。ただ、なんだか目が笑っていない気がする。
「おはよう。休みはどうだった?」
そう微笑みかけてきたのはアルトだ。「ゲーム三昧でした!」なんて言いづらい。
「僕がプレゼントしたドレスは使ってる?」
アルトの後ろからひょこっと顔を出したのはレイだ。
ほぼヲタクライフを満喫していた私がわざわざホリデーにそんなすごいドレス着ませんよ……と苦笑いを浮かべていると、リーフとスカイとアリスも上機嫌で駆け寄ってきた。
「もう楽しそうなことになってる……!」
「あ、パンケーキ美味しそうだったなー!」
「全員集合って感じね!」
各々自由な発言をするのでそれとなく相槌を打つ。私はこほんとわざとらしく咳払いすると、みんなに向かってにっこり笑った。
「今年もよろしくね!」
みんな「よろしく!」と嬉しそうに笑う。
学園の中庭で2週間ぶりに再会したメンバーはもうすっかりお馴染みになっている。
本当に良い友人たちを持って私の学園生活も安泰だなーと感動していると。
「俺、異能が使えなくなってる!」
「え、まじかよ!」
近くでぎゃあぎゃあと騒ぐ声に耳がキーンとする。
見れば、男子2人が青ざめている。
「なんかあったんかな」
エースがそう伺うように眺める。
「話だけでも聞いてみようか」
リーフがそう優しさを発揮し、私もなんとなく話を聞くことにした。
「……ということなんだ」
男子の話を聞き、私たちは顔を見合わせた。
眠りを促進する異能を持つという彼は、ついさっきまで使えていた異能が急に使えなくなってしまったのだと語った。
急に異能を失うなんてことは信じがたく、私たちは首を傾げた。
「もうずっと使えないのかな」と俯く彼の肩にポンっとエースが手を置いた。
「大丈夫。俺が原因見つけてやるから。だからお前もめそめそすんな」
にっと笑って見せたエースに彼も頷いた。
エースの優しさにほっこりする。昔のことを謝ってくるくらいだから、きっとエースは悲しそうな雰囲気を感じ取りやすいのかもしれない。
そうして、私たちは異能不発動事件について調べてみることとなった。しかしながら、これといった手がかりも得られず、私たちは頭を抱えていた。
うーんと唸りながら昼食をもさもさと頬張っていると。
「私の異能、どうしちゃったのかしら……」と隣のテーブルからため息が聞こえてきた。
「何があったか教えていただけませんか、レディ」
そう美しい笑みで尋ねたレイに、女子生徒はうっとりと頷く。
「なるほど……さっきの男子と一緒だね」
アリスがふむふむと頷く。
彼女は夢を思うままにできる異能を持っていた。うたた寝をしながら夢を弄ろうとしたら、異能が使えないことに気が付いたのだそうだ。
2連続で同じような事件が発生するのは少しおかしい気もするけれど……
「何か変わったことは?」
「いいえ……特に何もしていないわ」
リッカの質問に彼女はふるふると首を横に振る。
私たちはますます首を傾げた。
「……少し気になったのはどちらも眠りに関わる異能、ということだけれど……」
廊下を歩きながらアルトがそう呟く。
確かに、どちらも眠りに関わる異能だけれど……
「なあなあ、誰かが異能を奪ってるって可能性はないのか?」
スカイが唐突にそう言うので、私たちはハッとした。
「確かにそっちの方が筋は通っているね。誰かがなんらかの理由で眠りに関する異能だけを奪っているとしたら……」
「でもそんなことをして何の意味が?」
アルトとアリスがそう討論し始める。正直何でかは分からないし、難しいことはさっぱりだけど。
「もしそうなら、早く犯人を見つけなきゃ!」
私がそう声を上げると、みんな頷いた。
なんだかアニメみたいな展開にワクワクしてしまう。
さあ、名探偵シオン! 事件を解決させるわよ!
気分はすっかり探偵で、私はオーバー気味に周りに目をやる。
すると、さっそく困っている様子の男子生徒を発見した。
「すいません! どうかされましたか?」
そう声をかけると、彼は振り返る。顔を見て私は思わずギョッとした。
「だ、大丈夫ですか!? くまが酷い……」
「ああ、どうやら僕の異能がなくなってしまったみたいで……」
「……どういうことですか?」
話を聞けば、そのくまのすごい彼は何日か不眠で過ごせる体にできる異能を持つらしいが、先ほど効力が急に切れてしまったらしい。
「何か変わったことは?」
そう尋ねると、彼は「そういえば」と眠たそうなまぶたを持ち上げた。
「さっき、生徒会の方に異能について聞かれたな」
「それで?」
生徒会って、あの前に廊下で出会った美形集団のことだよね……妙な胸騒ぎを覚えて私は耳を傾ける。
「質問に答えていたら、急にいなくなってしまったな。それから少しして君たちがやってきたんだよ」
「特徴とかは……」
「白い髪だったな。あれは確か副会長のネクさんだ」
聞き覚えのある名前に私はハッとして「ありがとうございます!」と礼を言うと駆け出した。
「あ、どこ行くんだよ!」
「ちょっとシオンー!?」
みんながそう呼ぶのも気にせず私はある人の元へと走っていく。
きっと、あの人なら何か知っているはず……!




