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21. ウィンターホリデー5日目 贈り物をされました

「……というわけだから、今日は一日よろしく!」

「ええ……」


 レイはそう手を振って撮影現場に戻ってしまった。

 今日は、レイがモデルを務めているブランドの撮影にお邪魔させていただいている。

 しかもこんなこととは知らず、ガッツリ雑用をこなせるジャージのような服で来てしまったため、完全に浮いている。


「シオン、お兄ちゃんが急にごめんね。慣れないところで不安だろうけど、リラックスして大丈夫よ!」

「ありがとう、アリス……」


 いや、今日私が連れてこられたのは完全にアリスがらみなんだけれどね?


 若干怒り気味にレイを睨みつけてから、アリスに向き直る。


 そう、私がここに連れてこられたのには、私がアリスを守る使命を課されているからなのである。

 というのも、あのシスコンモデルは普段からアリスを狙う男たちを牽制しているらしいのだが(可愛いアリスがモテないのはきっとそのせい)今日は撮影が忙しすぎて見張っていられないというのだ。


 アリスは撮影のお手伝いで来ているらしいのだが、その辺のモデルよりぶっちぎりで可愛い。だからこそ、先ほどからそわそわしている男たちも目に入る。


「今日は私が守るね。変な男とは話さないこと。いいね?」

「え? うん。なんかお兄ちゃんみたい」


 私とレイの結託などつゆしらず、アリスはのほほんとしている。

 失敗したら殺されそうだから、全力でやろう。

 そう誓って、私はアリスの周りで目を光らせた。




 撮影は進行していき、しばしの休憩タイムに入った。

 私はすっかり安心しきってアリスとおしゃべりしている。

 たまに機械の調子が悪くなるとアリスが目を輝かせて飛んでいくのだが……


「また行っちゃったよ……」


 苦笑いをうかべていると、私の前に3人ほどの見知らぬ男性が立ちはだかった。どれも私を蔑んだ目で見ている。


「おい、そのだっさい服着てるお前。アリスちゃんから早く離れろよ」

「アンタのダサさが移っちゃうでしょ」


 そう非難されて戸惑ってしまう。ダサいダサいと連呼され続け、さすがに傷つく。


 何も言えずに黙り込んでいると、1人が私に詰め寄った。あまりの気迫に、どうしても昔の体験がフラッシュバックしてしまった。


「何か言えよ」


 そう鼻で笑われて、何か言い返さなきゃ、と思いながら口をつぐむ。


「レディをいじめて楽しい? あんたらの方がよっぱどだっさいけど」


 聞こえた声に顔を上げると、レイが男たちの襟元を掴み上げていた。


「レ、レイ先輩、そこまでしなくても……!」


 漫画で見るような光景に少し興奮したけれどすぐさま止めるように言う。だけど、レイは首を横に振る。


「シオンちゃんを傷つけたのはもちろんだけど、アリスに手を出そうとしたことも重罪だから。でも、僕も忙しいから、今すぐいなくなって?」


 レイは笑っているが目は冷酷だった。ひっと声を上げてからその人たちは逃げ出してしまった。


「あの、ありがとうございました! えっと、アリスに危害は加えた人はいないので安心してください!」


 私も危険なのでは、と慌ててアリスの安全を報告する。レイは相槌をしながら私を上から下まで見ると、言った。


「そんな格好だから、バカにされるんだよ……ちょっとおいで」


 クイっと手で合図すると、レイは歩き出す。ついて来いということか、と私も後を追った。




「その服脱いで」

「は、はい!?」


 誰もいない部屋に入ってすぐ言われた言葉に驚いてばっと両手で服を押さえつける。「そう意味じゃなくて」とレイが笑う。


「サイズ測るだけ」


 それも嫌なんですけど……とお腹周りを気にしながら、苦笑いを浮かべていると、レイがメジャーを持って詰め寄ってきた。


 ひいい、と逃げようとすると、メジャーが体に巻きつけられる感覚がした。


『ふうん……スタイルせっかくいいのに勿体ないな。まあ、ちょっとお腹は柔い気がするけど』


 そうじっくりサイズを測る声が聞こえてきて、縮こまる。お腹柔いって言われた……運動、しようかな。


「よしオッケー。じゃあ、見ててよ」


 レイは満足げにそう言ってからパッと目を閉じる。

 すると、ポンっと音がした。異能を使ったんだな、とレイの手に目をやると、綺麗なドレスがある。


「はい、じゃあこれ着て」

「私が、ですか?」

「当たり前でしょ。誰のために作ったと思ってるの」


 レイにドレスを押し付けられて、レイの空想で作られたものとはいえ高そうな生地に恐る恐る受け取る。

 それにしても、なんて綺麗なドレスなんだろう。黒いレース生地は花を形作っていて、大人っぽい印象を受ける。でもフリルもついているから可愛らしさもある。


「こんなに綺麗なドレス、本当に嬉しいです。こんなに素敵なものを作れるなんて本当にすごいですね……!」


 目を輝かせていると、仕切りを立てていてくれたレイがこちらを向いた。


「プロのモデルだから。これぐらい作れて当然だよ」


 そう微笑むと仕切りで着替えるように促した。


「どうですか……?」


 着替えて、おずおずと尋ねる。着られている感が半端ないことくらい自分でも分かってる。

 レイはうんうんと頷きながら私を見回すと、「あっ」と声を上げた。


「ファスナー、開いてるよ」

「ああ、手が届かなくて……」


 そう呟いて「まあすぐ脱ぎますし」とへへっと笑っていると、レイが私の後ろにさっと回り込んだ。


 ファスナーがあげられていく。

 すると、ドアが勢いよく開いた。


「お兄ちゃん! シオンいる?」


 入ってきたアリスは私たちを見て目をパチクリすると、ぼんっと赤くなった。


「ご、ごごめんなさい! まさか、お取り込み中だったなんて!」


 アリスはくるっと向きを変えるとすごい勢いで部屋を飛び出していく。


 お取り込み中……?

 そうキョトンとしていると、その意味に気がついて赤くなる。


「ま、待って! 誤解なのーー!」


 私はそう叫びながらドレスの裾をたくし上げて駆け出した。




 ***




 部屋を飛び出していった妹と、それをすごい勢いで追いかけていったシオンを僕、レイ・クリエートは呆然と見つめていた。


 シオンには今日、僕の大事な妹を男たちから守る命を言い渡していたのだが、先ほどそのシオンの方が狙われてしまった。


 すぐ駆けつけたからよかったものの、日ごろから僕を妬んで妹をつけ狙うような奴らだから、もっと危険な目に遭っていたかもしれない。

 それに、彼女はどこか怯えたような目だった。


「ねえ、お兄ちゃん」


 いつのまにか妹が僕の顔を覗き込んでいた。シオンに追いかけられていたはずなのに、妹のこういう時の俊敏さには驚かされる。


「ね、お兄ちゃんシオンのこと好きでしょ」


 妹の口から飛び出てきたのはびっくりするような内容で僕は柄にもなく慌てふためく。


「な、いや、そんなことはない! アリス、お兄ちゃんをからかわないで!」

「いやいや。私の目をごまかせるとでも? わざわざ女性ファンとの間に不可侵条約を作るぐらい女性嫌いなお兄ちゃんが、贈り物を……ねぇ?」


 にやにやと得意げにアリスが言うのに僕は口をつぐんだ。


 そう、僕は女性が苦手なのである。

 家柄のおかげで女性には紳士な対応を心がけてきたが、どうも好きにはなれない。


 だけれど、彼女には不信感を抱かなかった。アルトと仲良くなるきっかけを作ってくれたのも彼女だった。


「前にバラを贈ったのを見て、そうかなあと思っていたの」


 そう言われてドキッとする。

 無意識にバラを渡したあの時から、僕は自分の気持ちにうっすら気がついていた。でもそれを認めたくないという気持ちもあって蓋をしてきた。

 それに、彼女は何よりも大切な妹の友達だ。僕のせいで今まで友達もろくに作ることができなかったアリスにできた友達を僕の気持ちで台無しにはできない。


「私、お兄ちゃんを応援するよ? ようやくお兄ちゃんに好きな人ができたんだもん。それに、シオンは優しいから大丈夫だよ」


 見透かしているような発言に驚かされる。さすが、妹といったところだろうか。「私にベタベタする頻度も少なくなりそうだし」とアリスが呟くのを見てそれが本音か、と苦笑いしてしまう。


「確かに、シオンちゃんは他の女の子たちとは違う気がする。頑張ってみようかな……」

「お兄ちゃんなら大丈夫! 私もシオンといっぱいいられるようになるし! 大賛成だよー」


 にこにこと嬉しそうなアリスに僕は頷いた。


「でも、まさかもう手を出そうとしていたなんて……なかなかだね」


 アリスがそう怪訝な顔で見てくるので、先ほどの誤解は解けていないことが分かった。

 僕は面白がって否定はせず、「まあね」と曖昧に返事をした。


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