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19. ウィンターホリデー3日目 勘違いが過ぎます

 時刻は日が昇ったばかりという感じの朝。

 とても眠い。昨日のリッカ事件もあるからあまりよく眠れていない。

 私は大きくあくびをすると、わいわいしている部員たちを眺めた。


 今日は一日部活だ。今からバスに乗って少し遠めの山に行く。ピクニックがてら登るらしいが、まだそんなハイテンションになれないでいる。


「おはよ、シオン!」

「あ、おはよう、スカイ」


 朝からぴょんぴょんと元気で素晴らしい。その元気を私にも分けてもらいたい。


「んー、なんかお疲れ?」

「ちょっとね……よく寝れなくて」

「それはあんまり良くないなー、よし、疲れたらいつでも言えよ!」


 スカイはにこにこと光属性スマイルを見せつける。私はそれに当てられながらも頷くと。


「よっ! シオン!」

「私も来ちゃったー!」


 スカイの背からひょこっと顔を出したのはエースとリーフだ。2人とも帽子にリュックと準備万端だ。


「おー! いいね、多い方が楽しい気がする!」

「じゃあ、早速行こう!」


 スカイの掛け声に私たちは「おー!」と声を揃えた。





 こうして山登りがスタートした。

 バスでテンションが高ぶった私は、ずんずんと山を登っていく。

 ダイエット目的で……というか青春を謳歌するために始めた山岳部だけれど、登り出すと達成感や充実感でいっぱいになる。

 ここに入っていなければスカイとも会っていなかったわけだし、もしかしたらリーフとも仲良くなれていなかったかもしれない。そう思うと、入ってよかったと本当に思う。


「うわ!?」


 そんな風に考えながら歩いていたせいか、足を滑らせてしまった。


「ったく、シオンはほんと危なっかしいよなー。俺に捕まれよ」


 エースは「あー、俺のリュックの方がいいか」とリュックに捕まるよう促す。


「ありがと、エース本当優しい!」

「な、あ、当たり前だろー?!」


 ははははと大袈裟に笑うエースに若干疑問を感じたが、私はありがたくリュックを後ろから掴ませてもらうことにした。




 何度かコケそうになりながらも、山の自然を堪能し、休憩ポイントであるロッジにたどり着いた。

「俺お茶とってくる」とエースが席を立ったのを見届けてから、スカイがこちらににやにやした顔を向ける。


「いやあ、エースとシオンってカップルだったんだな!」


 リーフはぶふっとお茶を吹き出しかける。私は即座に「違うけど」と切り返す。


「え、いやあんなに仲良くて、違うのか!?」

「うん、エースが私を好きなんてことないでしょ」


 目を丸くして驚くスカイをしれっと見て、そう言い切る。

 あんなにモテるエースがわざわざこんな取り柄のないヲタクを好きになるとは思えない。

「そうか、勘違いしてごめん」と謝るスカイの隣で、何が面白いのかリーフが肩を震わせている。


 私の推しカップルは、私とエースがやたら恋人同士に見えるらしい。どうしたらそう見えてしまうのか教えてもらいたい……


「どーした? なんかあった?」


 お茶が入ったコップを持って戻ってきたエースは、このよく分からない光景を見て頭にはてなマークを浮かべている。そんなエースの肩にリーフがポンっと手を置く。


 はっ……もしやエースとリーフはそういう関係……?

 だとしたらこれは稀に見る修羅場というやつなのでは!?


 心なしかうきうきしながらその様子を見守るも、特に何かが起こる気配もない。どうやら、勘違いだったらしい。

 まあ、スカイとリーフはお互いのこと大好きっぽいし、そんなことはないかー。




 ロッジを出てから、急な傾斜で私たちはあからさまにテンションダウンする。


「な……シオン……」

「どしたの、エース……」


 エースがポツリと話しかけてきて私は疲れ切った顔を向ける。


「明日、アルト先輩と……デート、行くんだろ?」

「うん、デートかは分かんないけど……」


 改まって聞くことでもないだろうに、と思っていると、スカイがポンっと手を叩いた。


「そうか! シオンはそのアルトって人の彼女なんだな! さっきは勘違いして悪い!」

「ややこしくなるからスカイは黙ってよっかー」


 リーフがスカイの口を手で塞ぐ。なんか、目が笑ってないんだけど……


「シオンは、どう思ってるわけ?」

「どうって、アルト先輩を?」


 歯切れ悪く尋ねられて、私は少し考える。

 答えはすぐ出るけれど、果たしてエースはどんな返答を待っているのか。


「美少年。美しい。それから声が綺麗、勉強がわかりやすい!」


 そう胸を張って言うと、エースは「そっか」と苦笑いし、リーフはやれやれと呆れ顔である。


「リーフ、どうしたんだ?」とスカイがキョトンとした顔で尋ねる。私も分からない。


「いや、エースも大変だなあと思っただけ」


 そうため息まじりにリーフは言うが、私は何が大変なのか、なぜ呆れられているのか分からずじまいだった。


「あ! 見てみろよ! もう少しで頂上だー!」


 首を傾げていたところにスカイのいきのいい声が飛び込んでくる。見ると、視界が開けていて、私は目を輝かせる。


「本当だ! ね、早く行こう!」

「お、シオンいいな! 俺も行く!」

「あ、ちょ、コケないようになー!」


 さっきまでの疲れはどこへやら、私は一目散に走り出す。スカイもジャンプする勢いで私と並走する。


「おおーー!」

「着いたーー!」


 走っていった先には青々とした野原が広がっていた。

 思わず寝転がりたくなるような光景にうずうずしていると、スカイが急に手を合わせた。


「晴れているのに異能はいいんじゃない?」


 私が何をする気なのかとおろおろと見守っていると、スカイは「いいからいいから!」と祈り続ける。


「おわ、何で雨!?」


 エースがパッと上を見上げると、私たちの頭上には雨雲があった。これはおそらくスカイが作り出したものだ。


「ちょっと濡れちゃったか! ごめんごめん! まあすぐ乾くから見てて!」


 そうスカイはてへっとはにかむともう一度祈る。

 すると徐々に雨雲がひいて太陽が戻ってきた。


「わあ……!」


 思わず感嘆の声を漏らす。

 頭上には大きな七色の虹がかかっている。


「すごいだろー! こういうとこで見る虹は一生忘れなくていいかなって思って!」


 はじけるような笑顔を向けるスカイに「すごいすごい!」と目一杯褒める。こんな綺麗な景色、絶対に忘れない。


 うっとりと虹に見惚れていると、後ろで「えいっ」とリーフのかわいい声が聞こえた。くるっと後ろを振り向くと何かがぶつかってきた衝撃がした。


「んん……何がぶつかって……」


 そのまま野原に倒されて、目を開ける。


「悪い、すぐ退くから!」


 私に覆いかぶさるように倒れていたのはエース。


『近いって! リーフ本当、面白がってるだろ!』


 そう焦る声が聞こえてきて、リーフがエースを押して私にぶつかったことがわかった。

 そんなことよりも……


「……か」

「どうした、シオン?」


 エースがそう覗き込む。少し赤く染まった頬と距離の近さに私は限界を迎えていた。


「顔がいい! 無理近い! イケメンすぎて無理!」


 私はそう叫んでエースを跳ね飛ばした。


「な、おま、俺の気も知らないで……!」

「イケメンの過剰摂取はよくないから!」


 ぎゃあぎゃあと叫び合っているのをリーフはふふふとおかしそうに笑ってみている。


「やっぱ、ダブルデート今度行くか?」


 悪気なさそうに言うスカイに私とエースは叫んだ。


「「スカイは黙ってて!」」



 もちろん、その後は野原でのピクニックを満喫したが、しばらくエースの顔は見れそうになかった。


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