1. 明日は入学式です
私の周りは“声”で溢れていた。
すれ違いざまにぶつかった時、初対面の人と握手をした時、友達とじゃれあった時……
だいたい内容は、お腹すいたとか、お金が欲しいとか、あの人かっこいいとか、そんなことが多い。
でもそれが当たり前だったから、気にも留めなかった。
ある日、同じクラスのいつも2人でいる女の子に思わず尋ねた。
なんでお互い嫌いなのに一緒にいるの、と。
それから私は避けられるようになった。
なぜか分からなくて困っていたら、両親が気付いてくれた。
そして、私の“声”は異能力であることが分かった。
近所の子や、クラスにも異能を持つ子はいたから存在は知っていたけれど、まさか私もだったとは、と驚いた。
この国では、少なからず異能がある。
仕事にも使われているし、使える人は優秀だとか。
しかし、戦争やら面倒なことを繰り返して、あることが決められた。
タイムスリップなどの時間系、人を操るなどの精神系は、少し危ないのではないか、と。
そして私は、そんな特殊異能を持っていた。
心を読む異能。
そして今までの経験から、相手と体が接触した時のみ発動することが分かった。
幸運なことに両親とも異能持ちのおかげもあって、引っ越しもして、サポート万全で育った。
そして――今に至る。
「ああーー!! ちょっとなんでレアキャラ出ないのー!?」
私、シオン・アリシアは部屋でスマホを放り投げて叫び声を上げていた。
16歳になり、田舎ですくすく育った私はすっかり、ヲタクロードを突っ走っていた。
なぜヲタクになったかというと、ゲームや漫画は、相手の心を読むことがないからだ。
割と深刻な理由だと思われると思うが、私自身、なんとも思っていない。むしろヲタクは楽しいことが満載だ。
そうしてヲタ活を楽しむ私にもある知らせが届いた。
それは、異能学園への入学。
異能学園とは、この国では名門校である。
異能を持つ子が集められるのだ。
そして、明日が入学式。
私はある思いを胸に秘めていた。
そう、それは――青春すること!
軽ーいいじめも経験済みの私は、なるべく目立たないように行動してきた。
もちろん、異能学園でも私が特殊なことはあまり公になってはいけない。
そんなことはわかっているけれど……
「それでも私は青春したい! 学生生活を満喫したいのー!」
荷造りを終えて閑散とした部屋に声が響き渡る。
シオンよ、よくぞあの大量のグッズをスーツケースに押し込んだな……もちろん残ってはいるけれど。
うんうん、と一人で頷きながら、ベッドに寝転がった。
もちろん勉強だってちゃんとやるつもりだ。
心配かけた両親に恩返しはしたい。
それに部活も、友達も作りたい。あわよくば彼氏とか……
学園生活を妄想しながら部屋に置きっぱの鏡を覗き込む。
髪だって、今の推しの色に染めたんだ。毛先にかけて地毛の黒に映える紫色になっている。
あの学園は個性が強すぎるとかで、私服もピアスも色々ゆるゆるらしいけれど、私はあえて指定の制服を着る。
なぜなら、学生っぽいから!
私は鏡の前で一回転してみる。
黒いブレザーに、白いベスト。青いスカートと青いネクタイが印象的だ。
少し気がかりなのは指定されているローファーのヒールが高いこと。
私はじとりとローファーを見つめる。
「可愛い子が着たらさぞ可愛いだろうな……」
自分の似合わなさは放っておいて、美形が制服を着た姿を想像して、一人にまにまする。
「絶対青春しよ……」
何度も呟いて、よし、と気合を入れた。
すごい量のゲームと漫画が入ったスーツケースを引いて部屋を出る。
両親にもちゃんと挨拶をして、家を出る。
「絶対学園生活を満喫してみせる!」
そう言って、前を向く。
いざ、異能学園へ……!