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16. ホリデーは賑やかになりそうです

 私は今、人の波をかき分けて紙と睨み合っていた。


 上から順に見ていく。

 焦りからか――ゴングが鳴り響いた。



 スポットライトが私を……照らしていない。というよりは私はスポットライトから完全に外れて床でのたうちまわっている。


『あああ、絶対赤点な気がするー!!』


 そうあの紙はテストの結果表。楽しいホリデーへの入り口か、地獄の補習への切符となるか……


 私はゴクリと息を飲んで、上からゆっくり視線を下げていく。いや、下から見たほうが早いことくらいわかっているけれど。こういうのは上から見たいんだ。


 1年は10位以内にアリスとリーフの名前を発見した。エースとリッカもしれっと20位前後をうろついている。

 ちなみに、2年は1位からアルト、エル、レイがトップ3だ。


『私の周りはみんな頭いいのに、何で私はばかなんでしょうね……』


 虚しさでいっぱいのため息をつく。

 いや、私の目標は赤点回避! 総合100点以下をとらなければ、私の未来は守られる……!


 そうして目線を下げ続け、暫くしてスカイを発見した。仲間だと思っていたのに、予想よりも早い登場で私の焦りに拍車がかかる。


 脳内の私も現実の私もだらだらと冷や汗をかく。

 そして――


 私の顔はみるみる明るくなっていく。

 脳内ではクラッカーが打ち鳴らされて、スポットライトが消えた――





「なんと、私シオン・アリシアは……」


 ランチで賑わう広間で私のことをリーフとアリスが固唾を飲んで言葉の続きを待っている。


「赤点を回避しましたーー!!」

「よかったー! おめでとうー!」


 2人に祝われて私は照れてしまうが、ハッと思い出す。この2人は学年10位以内の秀才だ。


「これでホリデーは安泰だね!」

「どうやってホリデー過ごすー?」


 きゃっきゃと盛り上がりながら、明日から始まるホリデーに思いを馳せる。


 ウィンターホリデーは明日から3週間ほどの休みだ。年明けもあるため、ほとんどの生徒は家に帰るようだ。


「私は荷物もほぼこっちに持ってきてあるし……せっかくの都会を楽しみたいからなあ……1週間はこっちで過ごそうかな」


 荷物、もといヲタグッズはほぼ寮の自室に置いてある。ゲームもこちらへ持ってきているため、いても不自由はしない。


「じゃあさ、3人でお出かけしよー!」

「いいねー! どこ行く?」


 リーフの提案にアリスがうきうきと尋ねる。

 お友達とお出かけ……何だか嬉しくなってしまう。

 2人と行きたい場所を相談し合っていると。


「俺とゲームするって約束忘れてないよなー?」


 エースが大量の唐揚げがのったお皿を持ってくると、私たちの隣のテーブルに座る。エースは「赤点回避おめでと」とクスクス笑いながら椅子ごとこちらに向いている。


 そういえば、だいぶ前にそんな約束をしたような。ずっと楽しみにしていたゲームが明日発売で……


「エース! 明日、私の部屋に集合ね!」

「え、急にどうした」


 引き気味にエースは頷く。「え、2人で?」とリーフが邪気のない顔で尋ねてくる。


「そんなのじゃないから安心してよ」

「そうそう。別になんもないよ」


 エースは唐揚げをもっしゃもっしゃと頬張りながらそう言う。リーフは「そっかー」とつまらなそうに言う。リーフは最近私とエースを見てとても楽しそうにしているけれど……残念ながら、リーフの求めているような話は転がっていない。


 明日はいよいよあのゲームができるのね……!


 ふふ、と笑みをこぼしていると、スカイがすごい勢いでこちらへ駆け寄ってきた。


「シオン! ホリデーの3日目1日部活だって!」

「……うぇ?」


 信じられないくらい気怠くなる報告に、変な声が出てしまう。「うぇ……?」と不思議そうに復唱しながらスカイは紙を渡してきた。


 そこには少し遠めの山に登ってロッジで休憩しながらまったり山に登る、という内容が書かれていた。


「山もいいけど、海が恋しい……」


 スカイは少し寂しそうにそう言う。

 スカイとリーフは海にとても近いスズラン村出身だからだろう。スカイが山岳部に入った理由もスズラン村には山があまりなかったからだそうだ。


「まあ、楽しもう!」


 私が気を取り直してそう言うと、スカイは笑顔で頷いた。


「みんなホリデーは寮に残る感じ?」


 突然現れたリッカがエースの向かいに腰掛けて唐揚げを口に放り込んだ。出た、チャラ男! と思いつつ頷く。


「うん、リッカも?」

「んー、まあ。正直家よりも寮の方が気楽だし」


 リッカがため息まじりにそう言う。やっぱチャラ男の家族はみんなハジけているのだろうか、といらぬ妄想をしながら、相槌を打つ。


「ここ、いいかな」

「こんにちは。レディたち。それにアリ……」

「それ以上はやめてお兄ちゃん」


 レイの口を手で塞ぎながらアリスがニッコリ笑う。無論、目は笑っていないが。そんな騒がしい様子をアルトが苦笑いしながら見ている。

「どうぞどうぞ!」と席に座るよう促すと、アルトがふいに尋ねてきた。


「赤点は回避したみたいだし、約束通り、ホリデーの1日を僕にくれるということでいいかな?」


 私は目をパチクリしてそんな約束どこで……と記憶を遡る。そしてあっと声を上げた。


「テスト勉強の時の! もちろんです!」


 美少年と過ごせるなら、雑用でも勉強でもなんでもやりましょう、と意気込んでいると、アルトはふふっと笑う。


「じゃあ、ホリデー4日後に。君の部屋に迎えにいくからそのつもりで。ああ、あとなるべくおしゃれをしてくるんだよ」

「は、はい……?」


 キョトンと今の言葉をリピートする。おしゃれしてこいって言われたの? デートみたいじゃん……


「今のデートのお誘いみたいだねえ」

「そ、そんなつもりは……」


 レイがにまにまと笑って、アルトはふいっと顔を背けてしまう。なんだか、恥ずかしいなあ……


「そうだ、ちょっとシオンちゃんに手伝ってもらいたいから、僕にも1日頂戴ー」

「ええ、手伝うって何するんですか……!?」

「まあ、お楽しみってことで」


 レイは上機嫌でスケジュール帳にペンを走らせる。勝手に予定を入れられてしまったらしいが、まあ部屋に引き篭るだけじゃダメだから、いいか。


「なんかシオン人気者だね」

「そーそー、なんだかんだいっぱい予定入ってるじゃん」


 リーフとエースが口々にそう言い、私はホリデーの予定を思い浮かべる。

 ……ほぼ1週間すべてに予定が入っているではないか!

 私は驚きながら、忘れないようにと急いでメモを取る。


 周りにはわいわいする友達。

 友達と過ごすホリデー。


 自然と笑みが溢れてしまう。

 私のホリデーはとても賑やかなものになりそうだ。


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